姫の苦悩
都市連合を治める一人であり、今回の勇者召喚を実質取り纏める姫こと、シャルティア・フォードは執務室に置かれた無線機より報告される内容に大きく息を吐いた。
「白崎柚姫とその関係者、そしてエクシオンのスパイはノブハから逃げたと?」
確認のために無線に聞きなおすが返答は一緒。追撃の勇者は撃退され、閉鎖されていた外へ続くゲートはエクシオンの工作員により解放され、防衛していたメイド達も簡単に突破された。そう返事が返ってきた。
「くそっ!」
シャルティアは乱暴に無線機を放り投げると、懐から紙煙草を取り出し咥え火を付ける。彼女が相当イライラしているときしか吸わない安めの紙煙草。それの三本目を手に取った時、彼女個人の携帯端末がなる、画面に表示されているのはとあるメイドの名前。
「おい、ユーミ。白崎は殺した。確かにそう報告したよな?」
公の場で演じている姫を殴り捨て傭兵の国の姫らしく乱暴な口調で、柚姫暗殺を命令し、実行した腹心のメイドに尋ねる。
「間違いありません。首を裂き、脈が止まるのも確認しました」
「では何で生きているんだ?あいつは生きているとまずい人間だ」
そうだ。柚姫が生きていれば都市連合の立場は悪くなる。この小国の都市連合は勇者召喚によりその主権を大国より守ってきた。勇者を異世界より召喚すると、その勇者はステータスが与えられるのだが、そのステータスを読み取り正確に伝え、他国に均等にスカウトする機会を与えるのが都市連合の役目。勇者は強いが中には必ず例外がいる。その勇者にはしかるべき処分をするのだが、今回の例外の片方はイレギュラーだった。盲目でステータスは全て10。都市連合の目安ではステータス10とは少し喧嘩が強い程度。だが、いざシャルティアが実際に戦ってみると、
(何が少し喧嘩が強いだ)
自国の目安と掛け離れた強さに加え、精神操作の類の能力まで持っていた。ステータス詐欺もいいところだ。
(けど、この国にしてみればステータス詐欺なんて害そのものだ)
公正なステータスの読み取りをする。それがこの国の信頼を勝ち取ってきたものなのに、明らか強く特殊な能力を持つ勇者を低スペックと判断した。無論、都市連合としては不正はしていないが、勇者召喚を自分のものとしたい他国からすれば関係ない。立派な攻撃材料として攻め立ててくる。だからシャルティアは柚姫の力が他国に知られる前に処分する必要がある。そのために柚姫とバーで交渉し、ユーミを使い柚姫を殺した。
(ユーミは疑ってないさ。あいつは死んだはず)
柚姫の殺害報告から数日。彼と奴隷契約をしていたレティアが柚姫暗殺の報酬として奴隷から書類上からも解放されたその日、彼女が不審な行動をした。そう報告したのは勇者こと、高浜蓮だった。勇者共通の能力として他人のステータス確認がある。その性能は個人差があるが、蓮の場合は一度確認した相手をマークすると現在地や行動経路などを追うことが出来る。彼の情報を元にレティアを追うととある一軒家に到達し、蓮が壁越しにステータス確認を行うと辛うじて壁の近くにいた一人だけ簡易的に読み取れた。
エル。エクシオン諜報員。と。
エクシオンは柚姫について何か知っていそうな勇者、神宮寺美夏をスカウトした国だ。柚姫のことについて嗅ぎまわれるのは好ましく無い。だからシャルティアは実戦訓練も兼ねて蓮を使いエクシオンのスパイを捕まえるよう指示を出し、
(諜報員だけではなく白崎がいた)
そこでいるべきではない人物と出会ってしまう。だが、こちらは勇者を使っているのだと捕獲、もしくは再度の殺害指示を出したのだが、結果は完敗。
勇者は例外を除き弱くても勇者だ。勇者である以上、特別なスキルを与えられ、ステータスという概念で攻撃は強化されダメージは通さない。つまりは戦闘経験やセンスがなくても力だけで圧倒出来るのが勇者であり、各国はその勇者に戦闘技術等を教え込む。だが、柚姫と途中乱入してきた二人は特殊な力を持ち、ステータスも勇者のそれを上回り、唯一一般人に近かった女にも戦闘センスと経験の差から生まれる立ち回りだけで翻弄された。
この一連の報告で判明したことは、エクシオンが柚姫と協力していること。柚姫の傷が直ぐに治ったこと、銀髪の女が勇者すらしのぎそうな能力だったこと、そして乱入者達が柚姫と深い関わりがあるということぐらい。どれも最悪だ。
「そしてこれは確証を得ていないのですが……高浜様の言葉によると、乱入してきた女二人は津宮人だとのことです。なんでも銀髪の女の剣がどうも彼の世界のものらしいのですが……」
ユーミの追加報告にシャルティアはありえないと思った。この世界に召喚した人数は彼女が一番よく把握している。召喚した際に把握した人数と、実際に自分の前に現われた勇者の数は一致していた。そして、今回の勇者召喚の津宮と言う国がある世界は始めての世界だ。元からこの世界にいた可能性は無い。
(だが、白崎だけは今回召喚した勇者のグループと明らかに違う。勇者達は学生だったがあいつはそうではなかった。巻き込まれかと思っていたが……)
勇者召喚の巻き込まれ事態は良くあることだ。異世界の人物をこちらに呼び寄せると言うとんでもない事をしているのだ。精度は安定したものではない。だから今回もそれかと思って深く考えていなかったが、
「進んで巻き込まれたか?」
「もしくはあの世界、もしくは白崎は勇者召喚に介入出来る技術、あるいは異世界を渡れる術を持っている」
姫の呟きにメイドが補完する。そうなれば由々しき事態だが、同時に完全に柚姫をイレギュラー扱い出来て、都市連合への各国の圧力を逸らすことも可能だろう。都市連合は諸国を騙していない。白崎がこちらの勇者召喚に介入しているのだと。
「エクシオンが匿う。そう断定は出来ないが、出来る範囲で白崎の情報を集めてくれ。私は勇者召喚についてもう一度記録を漁ってみるさ」
八方塞がりではない。そう結論が出たせいか、シャルティアの心は少しばかり軽くなっていた。




