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白崎にとっての異世界  作者: 南京西瓜
1章 都市連合
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弱いものは苦労しますね

 柚姫を頼む。そう言われて朧は思う。彼を守れるほど私は強くないと。だけど守るのが赤崎として生まれた自分の使命だ。


 銀百合からライフルを受け取り、朧は柚姫の前に出る。瞬間、視界を共有される感覚があった。本来、視界を共有される感覚なんて感知出来ない。だが、それが出来たということは、


 (フォローはする、ということですか)


 言葉にこそしてないが、柚姫が朧の力不足を知っているが故のサインだろう。だがそれを悔しいとは思わない。何故なら自分が大きく成長するであろう時期に、自分は普通の人生を歩もうとしてしまったから。弱いのは当たり前だ。銀百合にはそのことを事ある度に言われるが、柚姫は気にしていない。強さ云々より、彼にしてみれば朧が赤崎の使命を全うすることが大事であり、その際生じたミスはフォローしてくれる。


 (私はあんな風に立ち回れないが……)


 こちらに向かってくる勇者の後ろで、ちょうど装甲車を蹴り飛ばした銀百合が視界に入る。


 (私が出来る範囲で立ち回るのみです)


 朧はライフルを構える。その構えは銃弾を撃つときのようにストックを肩に当てるのではなく、ストックを握った右手は腰の高さ、そしては左手は銃身のハンドガード付近を握る。いわゆる銃剣道と同じ構えである。


 確かに、彼女は学生時代に現代では珍しい銃剣道部に所属していたが、彼女の戦い方はそんなお上品なものではなく、銃剣を付けたライフルを自分の扱いやすいように振り回すという、なんとまぁ格式から離れた戦い方をする。


 現に今もコンバットナイフらしきものを持って突っ込んでくる勇者に対し、朧は銃剣が有利とされる間合いでの、これまた銃剣が重きを置く突きをすることなく、あえてナイフの間合いまで詰めさせ、さらには先手まで譲る。理由としては、


 (ナイフ相手なら、攻撃合わせライフルを叩きつける)


 ナイフに硬いライフルをぶつける事で刃を折る。これが第一の目標である。だが、そのとおりにいかないのが、朧が力不足と言われるところである。相手のナイフの突きに合わせて右手と左手の間、つまりはライフルの機関部をぶつけにいったのだが、勇者の力を読み違えたせいか力負け。踏ん張りが利かず、ナイフが滑り折るにいたらない。


 「おいおい、デリケートな機関部で受け止めるとは素人か?それに見たことのないライフルだな」


 ナイフと銃のつば競り合い。朧が柚姫より弱いと思ったのか、勇者は少し朧を見下すように声を掛けてきた。見慣れないライフルなのは当たり前だ。このライフルは魔女が作ったライフルを元に朧用にカスタマイズした、津宮人からみれば異世界の技術で作られたものである。朧用のカスタマイズとは、彼女が銃剣を扱いやすいよう、ストックやグリップ等が可変すること、そしてぶん殴り、いろんなものにぶつけるためその衝撃からライフルの機能を保護するショックアブソーバーだ。あちこちについている用途不明なパーツとはそれであり、機関部で受けたのも衝撃が吸収されるため一番頑丈な部分でわざと受けたのだ。


 だが、それを朧がわざわざ告げる義理はない。かわりに例の虚ろ気な瞳で勇者を目を真っ直ぐ見てやる。その目は恐怖よりも相手に気味が悪いと本能的に思わせる瞳のせいか、よっぽそ肝が据わったものでないと少しばかり引いてしまう瞳。勇者もご多忙にもれず少し尻ごみした所で、


 「ふっ」


 力を込め、勇者を押し返す。僅かにあいた間合い。そこに朧は右手を左手側にスライドしつつ、銃身で勇者の肩を打ちつける。手ごたえはあったが、勇者はステータスという概念で攻撃の威力は軽減される。いくら朧が彼女と同世代の女性より筋力があるからと言っても、朧は柚姫や銀百合と違い、人間の域を出ない力の強さだ。勇者の防御のステータスを上回るほどの打撃は出来ない。


 (防御力が高いと言ったからと鉄を殴ったような感じではないな。皮膚が硬化している訳ではないということですか。ならば)


 左足を後ろに引きながら彼女は肘を曲げ、腕を引く。銃身が勇者の肩を滑っていく。当然、先端に取り付けられた妖刀が肩にあたるが、


 (肌までは斬れませんか)


 服こそ斬れたが、その下の皮膚は確かに刃をくい込ませ引いたというのに傷が見えない。


 (相手の攻撃を数値化、それを己の防御力などを参照し最終的なダメージ量を算出したのちに体にダメージが反映される、そう考えるのが妥当か?)


 そう仮定したところでようやく勇者の反撃が来る。朧はそう判断出来た。そう判断出来たことに、


 (私にもどのような反撃が来るか読める程度の力ですか。そしてそれは悪手だ。ステータスが高いと言えども、戦い方は知らないと見るべきか)


 そう、朧は弱いし、実戦経験も乏しい。それでも銀百合に扱かれある程度の戦いのセンスは磨いている。その程度の彼女でも、勇者が悪手の反撃を繰り出したと判断出来るほど勇者の戦闘のセンスは低い。


 勇者の反撃。それは弾かれ頭上に振りかぶったままのナイフを逆手に持ち替えての振り下ろし。確かに、手の位置からしたらその動作は最短の反撃の一つになり得るだろうが、朧は今左半身を引いている。刃を命中させるためには腕を振り切る必要があり、対して朧はその腕の軌跡にライフルを入れることが出来る。引ききったグリップ部を左手で押し込みライフルを突き出す。それは勇者の腕の動きを阻害しつつ、刀の切っ先は顔面に向かう。


 「おっ……」


 顔面で受けても防御力の関係でダメージはないだろうが、それでも避けてしまうのは、今まで普通の人間として生きてきたが故の反射だろう。柚姫みたいな生まれるつき特殊な体質を持っているなら急所狙いの攻撃でも涼しい顔していれるが、それは例外として見るべきだ。まだ人間味があるがための回避は朧によって誘導された回避となる。意図的に勇者が首を右に傾けるように刺突は顔面の左側を狙った。案の定、首を右に傾けた勇者の左首筋に銃身をあてがい、


 「倒します」


 今まで触りすらしなかった引き金を引いた。だが火薬の炸裂音や弾丸が出た訳では無い。しかし勇者の上半身は大きく右へ弾かれた。それはすなわち、朧の攻撃が勇者の防御力を上回ったことを意味する。


 その攻撃力を生み出したのはショックアブソーバーだ。このライフルを作り出した魔女。その魔女の魔法はファンタジーやメルヘンチックな物ではなく、エネルギーの増幅、変換、保存といった科学や物理要素が強いものだ。このショックアブソーバーは機械要素で衝撃を吸収・緩和するのではなく、魔法で文字通り衝撃を吸収するものである。吸収したエネルギーは貯蓄され、必要に応じてそれを放出する。ただ、衝撃を放出するときは、柚姫のように反作用の作用点を変えるとうい素敵機能は無い。朧自身の体を守るため威力の大きさに制限は設けられているが、勇者の防御力を超えるだけの威力はあったみたいだ。


 反動でライフルが空を向くが、この反動は朧が自分の力を理解して設定している反動だ。体を制御しつつ、後ろに引いていた左足で勇者の足を払ってやる。あくまで勇者の防御力はダメージにだけ作用する。つまりは十分な踏ん張りが効かない体勢では肉体にダメージこそないが、非力なローキックでも重心が乗った足を払うことは出来る。


 倒れこむ勇者に対し、朧が行ったのは拘束だった。うつ伏せにさせ手を背中に回し太ももで固定する。女性でも出来る護身術みたいな雑誌のコーナーで紹介されるような技だが、弱いと言っても武術をかじっている朧が極めると簡単には対処出来ない。唯一腕が動かせるのは下方向だが、それは朧の太ももが邪魔をする。その他の方向には動かせない。これで銀百合が車を奪うまで拘束すれば朧の仕事は果たすことが出来る。そう思っていたのだが、


 「つっ……」


 原因は予想になるが、勇者が拘束を抜け出そうとして暴れた際の手が攻撃となり、勇者のステータスが反映され朧の太ももを打撃した。激痛。だが朧は耐えた。それどころか、少し笑みを浮かべた。元々、両手を使わない拘束技を行っていたため、ライフルのストックで勇者の後頭部を押さえ込む。そして額が地面に着くと同時に貯蓄してある衝撃を放出する。遠慮無しの制限一杯の一撃。遠慮や躊躇いなんて微塵も無い。だがここまでして勇者に与えられるダメージ自体は朧の全力のストレート程度。だが衝撃は脳を揺さ振るには過剰だ。


 (朧、時間だよ。ナイスワーク)


 今まで手出ししなかった柚姫からの連絡。ふと意識を銀百合に向けると、彼女はメイドを制圧し、奪った装甲車のブレーキを外しギアをニュートラルに入れて押し出した所だった。


 離脱するために立ち上がろうとするも、太ももへの一撃は大きかったらしくうまく立ち上がれない。骨に異常はないだろうが、ただただ激痛で立ち上がれない。先ほどまでは戦闘の高揚感と、自分が攻撃により壊される痛みに脳内麻薬がどばどば出てたが故に肉体が訴える痛みに気付かなかった。


 「相変わらず、スマートに終われないな、お前」


 そんな彼女を抱き上げたのは銀百合だ。彼女は脇に朧を抱えると勇者をメイドの方に蹴り飛ばす。彼女の視界の先では柚姫が装甲車を受け止め、サエ達がそれに乗り込むのが見える。


 「面目ない」


 「いいさ。それがお前だ。後、口元の笑みを早く消せ。壊れることがそんなに嬉しいか?」


 「嬉しいさ。私は壊れていますから」


 「気持ちが悪いな」


 銀百合は朧を一蹴すると彼女を装甲車に乗せ、自分はバイクに跨る。


 「この街の外に仲間がいる。そいつらを回収したいのですがいいでしょうか」


 朧が尋ねると運転席座ったサエが頷いた。


 「構いません。あなた方が時間を稼いでくれている間に、こちらも脱出に必要な情報を入手出来ました」


 そして奪った装甲車を発進させ、地理に疎い銀百合はレティアから受け取ったライフルを装備して殿として後ろについた。

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