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白崎にとっての異世界  作者: 南京西瓜
1章 都市連合
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冷静に出来ることを全てやっておくべきだった

 車両が横転しただけで回転しなかったのが幸運だった。しばらく勢いで滑り続け、止まってすぐに行動に移れた。


 「大丈夫?」


 「何とか」


 かばうために胸で抱いていたエルの安否を確認すると、柚姫は今度は全員に声を掛ける。


 「みんな生きてる?」


 「何とかな。一番怪我したのはサエと言ったところか」


 レティアがまず返答したため、まずは彼女の視界を共有する。彼女とは既に非接触で視界を共有出来る程度の繋がりが出来ている。その視界に移ったサエは額を切ったのか流血し、左目を血が入らないように閉じている。


 「対した傷ではないです。それよりどうしましょうか、この状況。メイドが乗り込んで来て拘束されても良い頃合なのですが、その気配が一向にありませんね」


 散乱した車内からライフルを探しつつ、サエが不思議そうに言う。レティアが残ったサイドミラーに目をやったため外の状況が断片的に把握出来た。相手はこちらを包囲している。だがこちらを攻撃しようとはしない。メイドとしては柚姫達を今すぐにでも蜂の巣にしたい筈だ。なのに動かない。


 「大人しく投降しろ、命は奪いたくない!」


 殺伐とした雰囲気に似つかない台詞を大声で叫んだのは勇者だった。なるほど、メイドが動かなかった原因は彼かと誰もが思う。


 「対物ライフルでエルの腕傷つけて、装甲車を穴だらけにして、挙句に私の仲間を撃ち殺しながら良くそんな台詞吐けますね」


 基本、あまり感情を大きく出さないサエが明確な怒りの感情が乗った声音で吐き捨てた。


 「敵側の女の子を助けたいのは急に力を得た男の子の夢だよ。そこに合理性を求めるのはナンセンスだよ」


 「はぁ?」


 柚姫の説明に、レティアが心底理解不能と言いたげに眉を寄せる。柚姫だって理解不能だ。だが、柚姫の世界の小説の主人公を劇中でそう演じる。物語で見る分にはそういうシナリオだからと深く考えなかったが、実際やられてみると無性に腹が立つ。

 

 「それで、僕の世界では降伏勧告を受けた女性は、敵である私に情けをかけるとはなんて素敵な方、とときめいて素直に武器を捨てるのだけど?」


 「冗談だろ。あの勇者が許しても、メイドや姫は許さないだろうよ」


 「よかったよ。勇者と言う存在が他者を歪めないで」


 勇ましく降伏勧告を受け入れないことを宣言したレティアに柚姫はとりあえず安堵した。安堵はしたが、状況が変わる訳でもない。メイド達は今は勇者の言い分を聞いているが、いつ行動するか読めたものではない。


 「全方面から一斉射撃されても僕はまぁ、死んでも生き返れるからいいとしてみんなはそうはいかないよね」


 「弾を貰えばそれでアウトだ、普通は。それで、サエ。援軍は無いのかよ?」


 「この逃亡手引きに私は関与してませんので何とも。ですが、私の組織は基本諜報です。こんなドンパチに飛び込める者はまぁいないでしょうね」


 援軍かと、柚姫は思う。この世界に来てから数日は経過したが、元の世界、津宮での動きはどうなってるのかと一瞬考える。彼は異世界関連の問題を担当することになったが、何も一人でそれを担っている訳では無い。付き人や、異世界関連の知識と技術が発達している種族などチームで行動している。今回はたまたま一人で巻き込まれただけだ。


 「もしかしたら」


 そう、もしかしたら付き人がこの世界に来ているかも知れない。何故なら異世界に渡航出来る技術が既にあるからだ。だから試しに、今この場にいない付き人に意思の共有を試みた。


 (銀百合。この世界にいるなら返事して)


 正直、もっと早く試せば良かった。というのも、元の世界で意思の共有は近距離で相手に悟られないように意見交換するための手段で、遠距離での連絡はもっぱら携帯などの通信機器を用いていたから失念していた。仮に柚姫がこの世界で数日間一人だったら、一か八かで試しただろうが、視界の確保や協力者と接触でき、かつ約束を破られて殺され冷静さに欠けていたため、今の今まで試そうと思わなかった。


 「スパイだろうと奴隷だろうと俺はみんなを助けたいんだ。そうか、君達はそこの盲目の男の精神操作を受けているんだね、今助けてあげるから!」


 なんだか外の勇者の思考がだんだんと御目出度くなって行くことに、車内の一同は思う。これは勇者が柚姫だけを直接狙いにくるなと。だから柚姫はもう一度、付き人の名前を思い浮かべ、この世界にいるかどうか知らない相手に思考を共有する。


 (銀百合!)


 (あぁ、柚姫!ようやく意思を共有してくれたか!今どこにいる?私らはお前をこの世界の道しるべとして来たんだ。同じ都市にはいると思うが……都市連合のノブハにいるか?)


 嬉しそうな意思が柚姫に返ってくる。やはり付き人もこの世界に来ていたか。


 (その通りだよ。けどごめん詳しい場所はわからない)


 (構わないさ。先ほどからドンパチ派手な音がしてるほうに向かっている。それでいいか?)


 (良いよ。僕たちの世界の火薬の匂いを辿ってきたら確実だよ)


 心強い援軍が来てくれた思うのと、勇者が柚姫を排除しようとしたのは同時だった。レティアが勇者が接近してきたことを伝えてきたので、


 「常に勇者を見続けていて!」


 そう怒鳴り、勇者の出鼻を挫くために衝撃で取れかかっていた後部ハッチを勇者目掛け文字通り蹴り飛ばした。薄い薄いと嘆いたハッチだが、たとえ薄くても金属の塊だ。だからそれを少し前までは普通の学生だった勇者が裏拳で弾いたので、


 (これは防御?それとも攻撃?どっちかのステータスが影響してるかな?)


 ステータスと言う存在は厄介だと思いつつも、開いた装甲車後部から飛び出した柚姫を出迎えたのはメイドからの銃弾だった。それを彼は緩急を付けた加速と左右へのステップで照準をずらし初弾は回避。メイド達が的を絞り始める前にサエからの援護射撃。メイド達は反撃しようと反射的に銃口をそちらに向け、勇者の要望を思い出し、装甲車の陰に隠れるしかなかった。


 (いい援護だよ)


 柚姫はメイドからの脅威がなくなったため、勇者目掛けて突っ込む。勇者はサイドアームのハンドガンを抜き放つ。


 (二発ぐらいかな?)


 抜かれたハンドガンで狙いを付けられようとする今から、拳の間合いに入るまでの間に撃たれる弾丸の数をそう予想した柚姫は、回避行動を一切行わずにつき進む。拳銃弾ぐらいの傷ならすぐに治るからだ。


 一発目は柚姫の意外な行動に驚いたのか外れ、二発目は腹部に命中、そして三発目の引き金を引こうとしたときには既に拳が届く範囲にいた。硬く握った拳をぶつける先は、前回と同じく顎先。そう思わせる軌跡で胸部の中心だ。


 (アーマーみたいな仕込んでる)


 拳に伝わる感触で勇者が服の下に何かを仕込んでいることが分かり、打撃が上手く人体に伝わっていないことを認識。防御力という概念がある勇者にダメージがほとんど通っていないことは即座の反撃を意味する。レティアの視界で、勇者がナイフらしきものを抜いたのが見えたため、柚姫は大きく後ろに飛び距離を取り、そのまま装甲車付近まで対退避する。


 今、柚姫は無理して相手を倒す必要がないのだ。付き人が来るまで耐えれば良い。


 (本当、早く来てよね)


 腹部の傷が治るのを感じつつ、仕切りなおしとなった状況で柚姫は再度拳を作った。

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