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白崎にとっての異世界  作者: 南京西瓜
1章 都市連合
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逃げろ

 組織だって行動していることもあり、街中を走る柚姫達が乗る装甲車はなるべく大きな道路を避け、時々乗り換えながらこの都市、ノブハから脱出するためにメインゲートに向かう。


 「まさか正面から突破するるもりですか?」


 乗り換えた装甲車に搭載されていた銃火器に初弾を送り込みながらサエが尋ねた。


 「そのまさかだ。ノブハは物流以外は自己完結している都市だ。地下を通っている水配管なんて抜け道なんてない。そしてこの都市にはエクシオンの公人はいない。よってそれに紛れることも不可能だ。ならば突っ切るしかないだろ?」


 「ほとぼりが冷めるまで大人しくしているほうがいいのでは?」


 まるで敵地に潜伏していた特殊部隊が脱出するような展開に頭を抱えるサエの反論に応じたのはレティアだ。


 「駄目だ。柚姫が生きていることをメイドに知られた。奴らは柚姫を何が何でも殺したいらしい。日が経てば網をそこらに張られるぞ。けどよ、この都市のゲートは個人携帯用の火力で破れる程柔じゃないぞ。どう突破するんだよ」


 「何も突破と言っても突き破る訳じゃないさ。こんなときのために仕掛けぐらいしてあるさ」


 「そうか。ならその仕掛けがちゃんと動けばいいな。追っ手だぞ、巻けてない」


 レティアがそう言い、背後から装甲車が猛追するのを全員が確認した時だ。先ほど壁をぶち破ってきた勇者が上部ハッチから体を出し、マウントされている重機関銃の引き金を引いたのは。


 「何が捕まえるだ。殺す気満々じゃねぇか!」


 「一応は都市連合の正式採用の重機関銃用の装甲は背面にしてるから簡単には抜かれない……筈」


 少し不安な言い方でドライバーの男は言う。確かに背面に当たる弾は装甲によって阻まれているが、上部の装甲はそんな厚くは無いらしく天板に変形が見られる。


 「油断しないで。今撃ってるの、僕の世界の銃器を呼び出せる勇者だよ。それで、僕の世界の重機関銃は追加装甲を付けた装甲車でも簡単に抜いてくるよ」


 柚姫は言う。彼は知らないが、この世界の銃火器についての技術は柚姫の世界に比べて劣っている。と言うのも、威力を上げたければ魔法弾と言うものを使えば簡単に上げることが出来るからだ。ただ、魔法弾は工場で大量生産が出来ないため基本は単発、多くても弾倉一個分ぐらいしか一度に使わない。車載の銃機関銃もその口径と火薬の多さで個人携帯火器より威力があるが、弾丸の形状等はほとんど最適化されていないため、この世界の害獣である魔物のようなソフトダーゲットに対しては十分であっても、装甲が相手になれば歯が立たなくなる。


 だが、柚姫の世界の銃はどうだ。技術のみで威力などを高めてきたのだ。高威力の弾丸を給弾ベルトで順次送り込み、装甲車程度の装甲など軽く抜いてくる。


 「それは今勇者がどこからともなく出してきたあれですか?」


 先ほどまでうるさい程になり響いていた装甲に弾丸がぶつかる音がしなくなったため、外部を確認したサエが問うてきた。同様にレティアも外に視線を向けたので、柚姫は短く答える。


 「その通り」


 そう答えたときには勇者はレバーは二回引いて初弾を送り込んだ所だった。


 「避けて!」


 「無茶言うなよ!」


 ドライバーが急ハンドルを切ろうとするが、一般の対向車が邪魔をして大きな回避動作が出来ない。そこに勇者の重機関銃から撃ちだされた鉄甲弾が襲い掛かる。それらは背面の追加装甲を貫くには充分過ぎる威力を持っていた。


 「あれを黙らせろ!」


 「無茶を言いますね!」


 背面装甲を抜かれ、弾丸が車内を通過する音が聞こえる中、レティアとサエが手持ちのライフルで応戦を始める。だがライフル程度の威力で装甲車を破壊出来るはずも無く、射手である勇者を狙おうにも回避運動を行い激しく揺れる車内からの照準では捕らえることが出来ない。


 「黙らせることなら出来るよ。レティア、あの勇者を見てて」


 だが柚姫の力を使えば機関銃を黙らせることは可能だ。彼の力は力の働く場所を変更することだ。力の変更先には義務教育で習う座標の概念が必要なる。つまりは簡単に言うと原点から縦横上下にどれだけ動いた場所に力の作用点を変更しろとするのだが、原点の定義を決めるのは自分自身である。これまで柚姫はこの力を何度か使用したが、それらは全て原点を相手に打撃を加えたい場所に指定していた。


 (原点はあの銃機関銃の機関部。構造は知らないけど、とりあえず外部から衝撃を与えたらいがむかな?)


 原点の指定方法は相手の頭部といった部位を指定する方法と、見えいる風景から詳細にこの場所と指定する方法がある。手軽さは前者、精密さは後者となるが共通して物の内部は原点に直接設定できない。指定するなら再度内部の座標を指定する必要があるため二度手間だ。ならば外から思い切り殴ればいい。いくら軍用の銃とはいえども所詮は機械要素の塊だ。歪めてしまえば使い物にならなくなる。


 (うーん、僕以外の人ならもっと簡単に大人しくするんだろうけどな)


 柚姫がそう思い浮かべたのは二人。一人目は自分の付き人の人狼の女性。彼女なら装甲車に取り付いてハッチをこじ開けて車内で白兵戦を行うだろう。二人目は自分の親の人間でない方。彼女なら澄ました顔で正面から装甲車を殴り飛ばすか、ちゃぶ台のようにひっくり返すだろう。


 対して柚姫の力はそれらに比べて劣るがそれは比べる相手が化け物なだけで、ものさしの尺度を人間に合わせるなら抜きん出ている。特に瞬発的な力には。


 瓦割りをするように拳を全身筋肉を上手く使い勢い良く床に叩き込む。瞬間、床と拳の間に作用、反作用の力が生まれ柚姫の力によりそれらは倍増、さらには反作用の働く力の向きも反転される。そしてその作用点は重機関銃の機構部付近に設定されているため、結果として柚姫の全力の四倍の威力の打撃が重機関銃の機構部を殴ったことになる。


 「ジャムったか?いや、壊れた?」


 言いつけ通り外を見ていたレティアが不自然に銃撃を止めた勇者をみてそう報告する。彼女の視点では詳しく把握出来ないが、柚姫の一撃は給弾時に開ける蓋の部分をへこませ、衝撃により内部の軸を歪ませ、小さなパーツや部品の先端等に変形を生じさせ、結果として正確な動作が出来ずに発射ガス漏れが生じた。


 「壊したよ。さて、どれぐらいの間、大人しくなってくれるかな?」


 とりあえず機関銃は潰したが、あれは勇者の力で出したものだ。作り出したものか、取り寄せたものかは知らない。だが、勇者は何も無いところに武器を出せる。それの制限があるかないか。それが重要だ。

 

 「勇者、次の火器を取り出しました。あれは……ライフル?」


 サエが報告する。ただ疑問形なのは勇者が取り出したのがかなりの大型のライフルだからだろう。


 「対物ライフルだよ!最初に部屋の壁ぶち抜いてきた奴!」


 柚姫の答えと同時にサエが叫ぶ。


 「とにかく避けて!」


 「だから無茶言うな!」


 ドライバーが叫びながら、それでも交差点に差し掛かったため急カーブ。これまでは隠密に動くため細めの道を選んでいたが、追撃されている今は大通りに出たほうが回避運動がしやすい。だが交通量の多い道は信号待ちの一般車等で身動き出来なくなる可能性がある。


 「なら一般車を射線に挟んで!盾にしたら向こうは撃てないはずだよ」


 相手は勇者と表のメイド部隊。一般人を巻き込んで良い立場の人間ではない筈だ。しかし勇者はお構いなしと言わんばかりに対物ライフルを発射し、それは柚姫の乗る装甲車を貫通した。幸い人的被害は無かったが、弾丸は床を突き破っていた。


 「当たらなければ問題ないってか」


 レティアの言うとおりだろう。勇者の補正かどうか知らないが、あの勇者は射撃に一般人を巻き込まない自信があるのだろう。第二射も一般車を盾にしているにも関わらず、僅かな隙間を狙い発射された。それも今度は弾丸は床から出てきて柚姫付近を通過。衝撃で頬に裂傷が出来たが、問題は第三射だった。背面装甲をぶち破って、ドライバーの胴体を貫通したのだ。


 ドライバーは即死だった。慌ててサエが運転のカバーに入ろうとするが、それより前に車は猛スピードで中央分離帯に乗り上げ派手に横転する。車内は激しく揺らされ、咄嗟にだが柚姫は近くにいた負傷しているエルをかばい、レティアは妹を引き寄せていた。

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