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白崎にとっての異世界  作者: 南京西瓜
1章 都市連合
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拳故に加減はしやすい

 「連絡は取れました。後は来るのを待つだけですね」


 「うん。ご苦労様。やっぱ良い餌だと食いつきがいいね」


 誘拐犯ことサエの言葉に、柚姫は自分の前にいる少女に見えない瞳を向けた。椅子に座らされ四肢を拘束された彼女の髪はレティアと同じ赤色。体型は姉より少し控えめだが、勝気な瞳はレティアといい勝負だ。


 名前はエフィー。彼女が買い物をしに外出したところを、サエが背後から忍び寄り拘束、そしてこのサエが所属する組織の街活動拠点であるこの住居へ連れてこられた。椅子に縛り付けてから暫くは暴れたり、騒いだりしていたが、今は柚姫の共有の力で大人しくなっている。


 「エルの読心に似たものかと思っていましたが、相手の言動まで制限できるとなると全く別物ですね」


 わざわざ共有の力を使ったのは、彼のサエ達に対する見返りだからだ。


 「でもさ、私の力で得た情報と、柚姫の力で得た情報ってほとんど食い違いなかったよね」


 エフィーが大人しくなってすぐに、エルは柚姫に対しては失敗した読心を実行。そこで得られた情報を元に柚姫に質問し、彼は全てそれに答えてみせた。


 「ですが、回答までエルに比べ遅かったですね」

  

 サエの言うとおり、柚姫はあくまで共有だ。読み取るのではなく、相手の思考や記憶を共有するので目的の情報を細かく指定しないと莫大な情報量、もしくはぼやけた情報しか得られないし、相手がそもそも共有する気がなければ何も得られない。


 現在、柚姫とエフィーの繋がりは細い。軽い肉体接触しかしていないからだ。実の所、エフィーを無理やりにでも抱けばもっと太い繋がりは出来る。何せ男が女の中に入るのだから。だが、細い繋がりでも相手の気の持ち方である程度はリカバリー出来る。エフィーが暴れている時も、柚姫は耳元で暴れるならその分姉を殴り飛ばすよと囁いた後で共有の力を使えば容易く暴れたい気持ちを共有することが出来た。

 

 「それで、本当に殴り飛ばすだけで終わるのですか?」


 サエが聞いているのはレティアの処遇についてだろう。柚姫は彼女を殴りたいからとサエに協力してもらっている。本当に殴ってはい終わりと思っているのだろうか?


 「まさか。約束はしっかりと守ってもらうよ。先ずは約束破った罰として気が済むまで殴って、その後に再度僕の奴隷になってもらう。まぁ、嘘つきは信じられないからそれなりの首輪は付けるけどね」


 「その後は?」


 「うーん。予定は決めてるけどさ、レティアが奴隷になったら僕と君達の契約は終わりだから言うのはどうかと思ってるんだよね」


 そうだ。エルとサエとの関係も、レティアが戻れば終わる。それが当初の予定だ。だが、柚姫としてはもう少しばかり契約を延長したいと思っている。と言うのも、約束を破った人物はまだいる。この都市連合の姫、シャルティアだ。実行犯がレティアで、主犯は姫とそのメイドと思っている。だから次はメイドのユーミ、彼女から情報を共有してから本丸のシャルティアと行きたいのだが、


 (サエさんがいたほうがやりやすいよね)

 

 だから柚姫は尋ねた。


 「相手が大きくなるけど、契約の延長でもする?」


 具体的な名前は出さないが、サエには今までの自分の経緯を伝えている。彼女ならそこから答えを導き出すだろう。


 「そうですね。私個人のみのお手伝いとなりますがいいでしょうか。見返りは今のままで結構です」


 導いたからこそエルには、いや、自分の所属する組織に迷惑をかけれないこそ、元裏メイド部隊の一員として協力するといったところか。


 「そうか。まぁ、詳しい話は後で詰めよう。それで、レティアは今どこに?追跡ぐらいしてるでしょ」


 「場所はあなたに言っても分かりませんでしょうから、言い換えるとまっすぐこちらに向かっています。かなりスピードを出していますね、少し出迎えの準備を早めたほうがよさそうです」


 サエはそう言って玄関へと向かう。ならば自分も準備と柚姫は立ち上がる。そこにエルが介助すると寄ってきてくれたが、


 「あぁ、大丈夫だよ。そうだね君は部屋の端にいてくれないかな。そこで部屋全体を見ててよ」


 すでに肉体接触がなくても視界を共有できるほど繋がっているため辞退する。エルは不思議そうな顔をするが、それでも素直にしたがってくれる。柚姫の視界にエルの視界が映る。一階建ての住居のダイニングルームにいくつかの椅子しかなく、その一つにエフィーが拘束され、その近くに柚姫がいる。見えないはずの眼に風景が映り、自分自身の姿を三人称視点で自分の眼に映るなんともおかしい状況だが、この視界とはもう二十年以上の付き合いだ。慣れてしまえば不便は無い。


 「姉をどうする気なの?」


 静かにしていたと思っていたエフィーが小さな声で聞いてきた。勝手に喋った彼女にエルがだまれと言わんばかりに近づこうとしたので制止させる。騒ぐなと言ったが、黙れと言った覚えは無い。


 「どうするもこうするも、躾けてもとの奴隷に戻ってもらうだけだよ」


 「姉は!レティアはもう奴隷じゃない」


 「奴隷だよ。僕がこうしてここにいる以上ね」


 エフィーはまだ何か言いたそうだったが、本能的に言ってはいけないと感じたのか口を紡ぐ。それほどまでに、柚姫の先ほどの声音は怖いと感じるものだった。


 「大丈夫。本当に君には何もしないよ。これが終われば少し前と同じ生活に戻るだけだから。むしろ、この数日が特別で異常だっただけ。そう思いなよ」


 柚姫はそう言うと玄関とこの部屋を仕切る扉付近に陣取る。まずは有無を言わさず顔面を殴り飛ばす。それからのことは考える。そのためのポジショニングだ。


 ぐっと拳に力を入れ、そしてそれを開く。生まれてこのかた、この拳だけを武器として生きてきた。自分の戦闘用の能力の都合上、拳で殴るのがイメージしやすいからと得物を使ったことはほとんど無い。だが、それを不便と思ったことは皆無。むしろ、自分の体で直接相手に触れるからこそ、繊細な調整がしやすくて気に入っている。例えばそう、餌に食いつき眼前に現われたレティアの顔面を、今後の行動に支障が出ない限界の強さで殴れるから。

 

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