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白崎にとっての異世界  作者: 南京西瓜
1章 都市連合
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隣の部屋の持ち主なんて案外知れないもの

 ノブハ到着まで途中の野宿を含め二日かかった。ノブハの外壁が見えた時、ずっとハンドルを握っていたサエが小さなため息と供にこう告げた。


 「異常な旅路でしたね」


 「えー、サエ。運転し過ぎておかしくなったの?平穏な旅だったじゃん」


 後部座席のエルが爪の手入れをしながら答えると、サエは再度ため息。前者が本当に溜まった疲れを出すものとすれば、後者はエル馬鹿にするための演技かかったため息。この二日で、エルがいわゆるあほの子だということは柚姫でも理解出来た。そんな彼女でも諜報部隊にいるのはあの読心能力があるからだ。


 「平穏すぎましたね。いつもは魔物や魔獣がよってきて備え付けのそれを何度かぶっ放すのですが、今回は初弾を薬室に送り込むことすらしませんでしたよ」


 備え付けのそれとは、このジープの天板にある重機関銃だ。


 「あー、言われてみればそうだね。いつもは走って追っかけてくる狼がいなかったね、何でだろ?」


 うーんと首を傾げるエル。そんな彼女に柚姫は言う。


 「多分だけど、僕にある加護のお陰かな?」

 

 するとエルは目を輝かせ、

 

 「え、加護って何そのゲームみたいな単語、気になるんですけど?」


 「加護ってのはまぁ、言葉を良くしていってるだけでね、僕の相棒に人狼がいてね、彼女の匂いと言うか存在と言うか、そう言うのが狼を寄せ付けないんだ。本人曰く、私の存在は並大抵の獣の本能に喧嘩売っては駄目だと思わせる、ということだけどね。まさか、世界超えても有効なんてね」


 「何それ、便利じゃん。私もその匂いつけて欲しいな」


 マーキングする犬のように体をこすり付けてくる彼女の額を小突いて、柚姫は言う。


 「彼女はバイじゃないから無理だよ」


 エルはその言葉にきょとんとしたが、運転席のサエはその匂いがどうやってついたものか気付いたらしく、小さくこう呟く。


 「思った以上に肉食ですね」


 さて、ノブハ外壁に設けられた出入り口。その到着前に柚姫はジープに隠された収納スペースに入るようサエに指示された。検問は無さそうだが念のためだと。そしてサエの予想通り、停車を求めらる事無く都市に入り、柚姫がそのスペースから出されたのはジープが完全に止まり、エンジンと思われる機関の動作音が消えたときだ。


 「無事に入ることが出来ました。今は私達の活動拠点に着いたところです。これから私は情報収集してきます。柚姫はエルと一緒にここにいてください」


 活動拠点かと、エルの視界を借りて回りを見ると、集合住宅の駐車場だった。ただ、柚姫の知るそれと違う点は停めている車が全てジープや装甲車といった軍用モデルしかないことか。


 「ここの都市って、傭兵やその家族、支援者向けの住居都市なんだよね」


 エルがそういいながら柚姫を先導。オートロックを解除して二階にある部屋に入った。


 「傭兵という職業柄、部屋を使わない期間があってもそれはおかしなことは無いから、私達みたいな人間が良く使ってるよ」


 「スパイの温床だね、ここ。あの姫さんが放置してるとは思えないけど」


 「温床だけど、スパイの証拠無しに都市連合を支える傭兵の生活基盤に手は出せないでしょ」


エルの意見は最もだ。彼女もこんな正論が言えるのかと感心していると、


「まぁ、サエの受け売りだけどね。私にそんな難しいこと分からないし」


そうでもなかった。どうもこのエルと言う諜報員は諜報員らしく無い。頭が冴える訳でも、ポーカーフェイスでも、演技が上手い訳でも無い。と、なると読心の能力だけが彼女の取り柄と言う事になるが、それで間違いないと柚姫は確信している。工作と呼ばれるような慎重を擁する行為はサエが一任し、目標の人物の思考をエルの毒気が抜かれる言動と人懐っこいスキンシップで接触し能力で読み取る。


さて、そんな組み合わせを柚姫に当てたエクシオンと言う国の目的は何だろうか?ステータスが低いにも関わらず、神宮寺美夏の願いを聞いてサポートを着けた。サエは美夏が懇願したと言っていた。それを考えると、美夏は柚姫が向こうの世界でどんな一族か伝えている筈だ。柚姫を野垂れ死ににするのは惜しいと。だから、エルで美夏の言うことが正しいと確認を取りに来た。そして確証が得られたら、サエを使って何かしらの工作をする。この世界の各国のバランスが分からない以上、エクシオンが都市連合の弱味を握ってどうするか分からないが。


と、なると、エルは言い方は悪いがお役御免。柚姫の依頼をこなすために動くかも知れないが、やるべきことは終わったはず。適当にだらけて終わるのかなと思っていたが、


「ねぇ、柚姫はハニートラップに興味ある?」


エルが昼間からとんでも無い事を言ったので、柚姫はとりあえず曖昧な笑みを浮かべた。

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