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白崎にとっての異世界  作者: 南京西瓜
1章 都市連合
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約束よりも

 「寝ましたか?」


 装甲車から姿を現したレティアに、ユーミが静かに尋ねた。


 「まだだ。だが、すぐに深い眠りに落ちる」


 「そうですか。では、少し時間を置いてから実行しましょうか」


 懐からナイフを取り出すメイドを見て、そして柚姫から最後に聞かれた質問を思い出し、レティアは尋ねた。


 「本当にお前に協力すれば、私を奴隷から解放してくれるんだろうな?」


 時間は今朝に遡る。柚姫が目覚める前にレティアを起こしたのはユーミだった。彼女は目覚めが悪そうなレティアにこう問うた。


 「元の傭兵に戻りたくありませんか?」


 一瞬、眼前のメイドが何を言っているのか理解出来なかった。寝起きで頭が回転していないからではない。質問が突拍子の過ぎたのだ。レティアは少し間を置いてから、


 「そりゃ、奴隷になる前の生活のほうがいいさ」


 「でしょうね。ならばこれから行う、柚姫の暗殺を実行してくれるのなら自由になれます。私がそう言うとすれば、あなたはどうしますか?」


 くどい言い回しだとレティアは思う。もっと単刀直入に聞いてこればいいのに。


 「奴隷の主人殺しって、問答無用で極刑じゃなかったか?」


 「殺しとばれたらそうなりますが、この世の中、事故と言うものが起こるものですよ」


 無表情で言うユーミに、レティアは大きく息を吐いた。深く考えるのは止めるべきだと。そもそも、数時間前では監視するとしか言っていなかったのに、隠す事無く暗殺すると明言した。それをレティアに話すということは、首を横に振った場合少なからず生きていく上で面倒臭いペナルティが付き纏うと考えるべきだろう。


 むしろ、協力すると答えない理由が無い。国家権力を使って合法的に奴隷から解放してくれると言ってくれているのだ。どうやって柚姫を篭絡させるか、はたまた穏便に殺害するか年単位で考えていたところに、この条件だ。飛びつくなというほうが難しい。政治問題が見え隠れするが、レティアにしてみればどうでもいいこと。相手が何を求め、報酬は何か。ただそれだけだ。


 ただまぁ、唯一心に引っかかったのは柚姫とした約束だ。危害を加えるな。だが、ただの口約束だ。それに、殺してしまえば約束なんて意味をなさない。


 そう思い、ユーミに手を貸した。彼女の計画は難しいものではなかった。夜に薬で眠らせて急所を一突き。後は野ざらしにしたら、魔物や野獣が食い漁る。そうなれば例え誰かが死体を見つけてもナイフの傷なんて分からない。


 だが、柚姫はまるでこちらの思惑を見抜いたのかのように、しきりに約束の話を持ち出してきた。つい先ほどのそうだ。こちらを疑っているかのように約束を持ち出しているのに、素直に眠りについた。試されている。そう思えて仕方が無い。だから、心を落ち着かせる意味を込めてユーミに尋ねた。


 「もちろんです。もし、彼が狸寝入りで抵抗したとしても、そのために傭兵を雇ったのです。勇者としてのステータスが低くとも、彼が普通に戦えることは私が良く知っています。ですから数で囲んでしまう算段です」


 ユーミは手に持っていたナイフをレティアに手渡す。


 「計画は私、実行はあなた。だけど真実は誰も知らず、姫様は関与していない。これを守るなら、あなたは自由です。よろしいですね?」


 頷くしかない。ナイフを受け取ったレティアの背後にゼーファが立ち、そっと彼女の肩に手を置いた。


 「つらいか?」


 「つらくないさ。好き好んで奴になった訳では無い。それにあいつは一応は勇者だ。私が躊躇う理由は無い。無いが……あいつを殺すことに何故か得体の知れない恐怖がある。それだけだ」


 それからユーミが暗殺実行を宣言するのにそれほど時間は経たなかった。レティアが先ほど受け取ったナイフを引き抜き、ゼーファと残りの傭兵二人が忍び足で車両の中に入っていく。


 「よく寝ているぜ」


 車両の座席で、眠っている柚姫を見てゼーファがそう伝える。それはそうだろう。薬で眠らせているのだから。小さな窓から入る僅かな月光しか無い車内。その車内で柚姫は小さな寝息を立てて、気持ちよさそうに寝ている。ご丁寧に仰向けになっている。


 「勇者は嫌いだ。けど、お前には感謝してるさ」


 レティアは呟き、ナイフを逆手に構える。狙うは首だ。一番柔らかく狙いやすい。刃をそっと首筋に当てて狙いをつける。振り下ろすだけ。


 「化けて出るなよ?」


 躊躇いも無く、レティアは自分が自由になるための一撃を振り下ろす。切っ先は無防備な喉、頚動脈付近に突き刺さり、次の瞬間には激しい出血。ナイフを引き抜いた彼女は毛布を受け取り、それを柚姫に被せ、大量の血が飛散しないようにする。頚動脈を裂いたからと言って、即死するわけでは無い。多少なりとも暴れるだろうから、それを封じる目的もあった。だが、柚姫は全く動かなかった。彼女は知らないが、ユーミが眠り薬に、痺れ薬混ぜていた結果だ。


時間にして数分。毛布が血を吸えなくなり始めた頃、レティアは確信する。


「終わったぜ」


彼女の背後で、万が一の反撃に備え拳銃を構えていたゼーファが一息。そしてユーミに結果を伝えるよう男の方の傭兵に指示を出した。


ほどなくして車両に現れたユーミ。彼女は毛布をめくり柚姫の生死の確認を始めた。


眠ったまま殺されたせいか、柚姫の顔は血に汚れてこそいるが、穏やかなままだった。


 「死亡を確認しました。主人の死亡によりレティア、あなたの所有権は本来は奴隷商に戻されるところ、契約に則り晴れて奴隷から解放されます。 手続きはこちらでしましょう」


 淡々と告げられると、本当はうれしいはずの奴隷からの解放という現実に素直に喜べない。だが、ゼーファが肩を叩き、満面の笑みを浮かべたのを見て、ようやく実感がわいてきた。これからは自由だ。ノブハに置いてきた、唯一の肉親のと一緒に暮らし、昔みたいに傭兵仲間と馬鹿をする。この拘束され続けた数年間を取り戻す。


 「感謝はしているさ」


 もう動かなくなった柚姫に、レティアは物好きとも言える条件で引き取ってくれたことに対する感謝を再度した。

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