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秘書のわたし 番外編  作者: ふとん
秘書のわたしになるまで
2/9

下っ端の私

「疲れてるな、真由美」


 久しぶりに会った弘人は私の顔を見るなりそう言った。


「……そうかも」


 カッコつけて「そう?」などと強がれないほどには疲れていたので、私は苦笑いする。


「今日はもう止めて帰るか?」


「ううん。今日は行く。ぜったい行く。久しぶりやねんで。お酒飲めるの」


「遅くなったけど、今日は誕生日のお祝いだしな」


 弘人が予約してくれたのは、日本酒に合う肴が美味しいと評判の小料理屋だった。こだわりの日本酒のラインナップは私のような素人でも知っているような銘酒揃いだ。

 取引先との会食で知ったというそのお店にわざわざ予約を入れてくれたことが嬉しくて、私は日々の激務の疲れもそこそこにやってきたのだ。ほんの少しでもあの地獄のような日々を忘れたいということもあった。


「仕事、大変そうだな」


 気遣いの言葉がひどく身に染みた。

 弘人は大学時代から付き合っている一つ年上の恋人で、すでに私の両親とも会っている。

 今度、彼の両親と会う約束をしていた。婚約、結納も間近と彼も私も考えていたが、今は保留にしている。


「……お母さんと連絡とってないのか?」


 弘人の心配そうな顔に私は答えられなかった。


 私は先日、母とひどい喧嘩をした。

 きっかけは両親と兄夫婦との同居の話で、その流れで母が私からの仕送りを断ったからだ。

 私の父は寝たきりで母が一人で世話をしていた。近くに住む兄夫婦が様子を見に行っていたが、兄は一戸建てを持つ夢を叶えると共に両親との同居を決めたのだ。

 兄のお嫁さんはとてもいい人で、介護職だ。二人の子を持つというのに両親の面倒まで見てくれるという。

 だというのに、私は都会から仕送りをするだけ。

 年々肩身が狭くなっていって、家族の中での居場所を見つけられなくなっていたところへ母からの仕送りの断りだ。

 私は自分でも訳のわからない怒りにまかせて、たくさんの言い訳を言い募った。

 疲れていたせいもあるだろう。

 けれど私は言い表しようのない喪失感に苛まれたのだ。

――お前はもう必要ない。

 そう言われたわけでもないのに、自分の根幹である家族にそう言われたような心地になって、私は電話口で母に何もかもをぶつけた。


 兄と同居するなら私はもう用済みなのか。

 兄はうちの財産を狙っているのか。

 兄嫁に騙されているんじゃないのか。


 思ってもいないようなことを次々と口走った。

 ひどい娘だ。

 こんなに自分に醜い部分があるなんて、知りたくもなかった。

 

 私は母の言い分を聞かず、仕送りは止めないと最後に言い捨てて電話を切った。そして、実家からかかってくる電話のためにと繋いでいた固定電話にその日から出なくなった。留守番電話には今も時折母と兄と思しき電話が入っている。

 私は、これ以上家族にひどい言葉を投げつける自分を見たくなかった。


 仕送りはしなくていいと母は言っただけだ。もう帰ってくるななんて言っていない。

 父が倒れてから苦労して家計を支えていた我が家に財産なんてあるわけがなかった。

 介護職は大変だと聞くのに、子供を二人抱えて姑たちの面倒まで見ようなんて兄嫁は本当に良い人だ。


 私はただ、自分の身勝手さが恐ろしくなっただけだ。


 ただただ自己嫌悪に沈む私を励ましてくれたのが、弘人だ。

 彼はそういった人の機微を読み取るのが上手な人で、自分のことをうまく言い表せない私を上手に読み取ってくれる。


「大丈夫。真由美なら何とかできるよ」


 そう言ってくれるだけで良かった。

 私の愚痴を聞いてくれたあと、弘人の仕事の話を聞く。そうやって互いに相槌を打てる関係が私は心地良かった。

 弘人は特別カッコいい男性ではない。でも都会に出たらそれなりに洗練されて、本人もそうやって都会の空気に馴染むことをよしとしていたから、私はそれでいいと思っていた。

 今では彼から同郷の言葉を聞くことはほとんどなかったけれど、それでも良かったのだ。

 同じでなくていい。

 違ってもいいから、そばに居てくれる。

 私は弘人のような人が理想の結婚相手だと思っていたから、結婚を考えたいと言われたときは本当に嬉しかった。

 ラブストーリーのような出来事はなくていい。

 小さな障害を二人で一つずつクリアしていけるような関係を続けていけたら。

 それが私にとっての最大の幸せだった。




――職場の地獄のような有様を思えば。




「やり直し」


 突っ返されたのは私がつい先程提出した書類だ。確か何かの表だった。細かい計算表だらけで大変苦労した。苦労したが、その苦労を労いもしないで私の先輩さまは今日もその麗しいご尊顔を険しくさせただけだった。


「計算が間違ってるわ」


 ボールペンの先で指示されたのは端っこにある足し算であった。間違いは良くない。


「申し訳ありません」


「それと、そのスーツにその口紅似合っていないわ」


 間違いは良くないが、この水田女王さまの指摘は本日も激辛であった。そして今日の彼女の装いは完璧である。ジャケットにスカート、ハイヒールに爪の先まで美しく整えられている。

 私に指摘すると女王さまは話は終わったとばかりに自分の仕事へ戻っていった。彼女は私の倍近くの仕事を抱えているが、その繊手に狂いはない。

 水田からの指摘を受け、ぐったりと席に戻ると聞きたくもない陰口が聞こえてくる。


「また水田さんに怒られてるわよ」


「物覚えがいいことね」


 どこの誰とも知れない陰口というものは、精神的にとても苦痛だと知った。もう陰口は口には出すまい。今度から悪口は堂々と大声で言ってやる。

 私がしおしおと書類の書き直しを始めると、秘書課のドアが開かれて第一声が響いた。


「井沢! 来い!」


 私の直属の上司さまの声であった。


「これから社長の視察に同行する。お前も同行しろ。そのあと、まだ仕事が残っているなら帰社しろ」


 的確かつ鬼のような指示を飛ばすのは、課内からは秘書課の鬼と呼ばれる石川である。

 厳格を美しく整えたようなイケメンの彼から仕事中、笑顔の二文字をついぞ見つけたことはない。

 地味な鳩色のスーツが甲冑か鎧に見えるほど石川主任は凛々しいばかりである。しかし石川は秘書課ではまったくモテない。女性陣からは常に遠巻きにされている。


「それから井沢、その口紅止めろ。似合わない」


 美醜や男女に関係なく投げつけてくるこの口の悪さが、秘書課で石川がモテない最大の理由であった。


 石川について社長室へ辿り着くと、彼は躊躇せずノックをする。

 返事を待って社長室へ入ると、すでに社長は準備を整えて待っていた。


「では、行くか」


 石川と私を見遣って自分のカバンを持ったのは、体長180はある長身のイケメンであった。整えた黒髪に仕立ての良いスーツ。上等と一目で分かる革靴。精悍な顔付きのせいで睨んいるようにも思える双眸は鋭いが、とても理知的だ。

 このイケメンになるべくして生まれたような生物こそが、若干三十歳で社長として働く植村社長である。

 先代から社長職を引き継ぐまでは営業として携わり、成績もトップクラスだったという叩き上げの御曹司であった。

 だからだろうか。先代から居座る役付きとは違い、自分のことは自分で、をモットーとするところがあって今日のように社長秘書の筆頭である石川を引きつれて視察に行くことも多かった。


「井沢は、仕事には慣れたか?」


 雲の上のイケメン社長は下々の社員にも気さくだ。私は無礼にならない程度に「はい」と答えると、社長は笑った。


「石川にいびられていないか? こいつは無駄に厳しいからな」


「余計なことを言うな。行くぞ」


 石川のぞんざいな言葉にも社長は怒りもしないで「分かった」と笑う。石川と社長はいわゆるご学友なんだそうで。石川もその隙の無い存在感の通り、良いところの坊ちゃんなのだ。 

 石川と社長に続いて独楽鼠のように社内を歩けば、羨望の的である。

 社長はいわずもがな、石川も外見と仕事ぶりは優良物件なので秘書課の外では人気があるのだ。

 必然的に私は彼らのあとを嫉妬の視線にさらされて歩くことになる。


 実はこの同行が私は書類仕事よりも大嫌いであった。

 嫉妬されるような美人でもないんだからそう睨まないで欲しいのだ。秘書課の中でも外でも陰口を叩かれ続けるのは、実に胃が痛い。お蔭さまでわずかに居た社内の友人は陰口の対象になることを恐れて皆離れていってしまった。人間関係の虚しいところである。


 その後、私は石川と社長のあとをついて工場やビルの視察を終え、帰社したのは午後四時を回ろうかというところであった。


(今日も残業か)


 私の机には事務仕事が山と積まれている。増えているように思うのは気のせいだろうか。

 ちらりと諸先輩の机を見遣るが、あれほど山のようにあった仕事が跡形もなくなっていた。化け物の集団なのだろうか。


「お疲れさま。井沢さん」


 わずかに残った書類をのんびりと見ていた先輩の一人がそうにっこりと笑った。社長秘書の一人、沖島である。好青年風の笑顔は実に爽やかだが、彼が目下私にとって一番の天敵であった。


「今晩、ヒマ?」


「暇ではありません。仕事を片付けるように言われています」


 視察を終えた石川は社長と共に会食へ行ってしまったが、私への石川の指示は帰社して残りの仕事を片付けることである。間違ってはいない。

 

「仕事手伝ってあげるよ」


「結構です」


「結構? OKってことだね。了解」


 まるで昔の押し売りのようなことを言って、沖島は問答無用に私の仕事の一部を横からかっさらった。彼が手に取ったのは私の苦手なスピーチ文書作りだったから正直助かったが。

 沖島は私が止める間もなく書類を素早く見ながらパソコンを打ち始める。彼は私より二つ年下だがその優秀さを買われて社長秘書に抜擢された秘書課の秘蔵っ子だ。ポスト石川とまことしやかに噂されていて、石川も沖島の優秀さには一目置いているようだった。


「これやってあげるから、今晩付き合ってよ。井沢ちゃん」


 年下だろうが沖島は先輩だ。その上優秀な彼が仕事を手伝ってくれるなら有り難いことこの上ない。だが、この軽口を叩くホストみたいな彼が一番の曲者であった。


「今晩の合コン一人足りなくてさぁ。座ってるだけでいいしタダ酒とタダ飯食べれるよ」


 タダの飲食はとても魅力的だが私は素直に頷けなかった。


「……そう言って、この前私にばかりかまった挙句、私を美人客室乗務員お持ち帰りの口実に使ったのは誰でしょうか」


「さぁ、誰だろう。あの子とももう別れちゃったし」


 確かに美人だったけど、と悪びれもしないこのチャラ男はまさしく女の敵であった。

 彼は合コンに参加しては女の子に気を持たせるだけ持たせてお持ち帰りし、ポイ捨てする非情極まりない男なのである。

 沖島に誘われてノコノコ参加した私はタダ酒をかっくらっていただけであったが、沖島は仕事中の調子で私を構い倒し、女の子たちの嫉妬を煽ってから「実は君が気になってた」と甘い言葉でその日一番の女の子をお持ち帰りする。いかにも恋愛に興味無さそうな私はその疑似餌である。

 ちやほやされ慣れている肉食女子たちは「何でそんな地味な女に」という静かな嫉妬に溺れて沖島の罠にはまる。

 沖島の大好物はあくまでも肉食女子である。彼女たちは沖島の爽やかなビジュアルに勝手に爽やかな好青年をイメージし、本人も知らぬうちに嫉妬を煽られてしまう。沖島は自分の外面を最大限に活かした戦法で肉食女子を食い散らかしているのだ。


「沖島の馬鹿に付き合う暇があるなら、さっさと仕事しなさい」


 冷たく言い放ったのはすでに仕事を終えた水田女王さまである。


「その馬鹿に付き合ってると馬鹿がうつるわよ」


「さっきからバカバカ酷いですよ。水田先輩も合コン行きませんか?」


 沖島の軽口に水田は冷笑を投げた。


「そんな馬鹿馬鹿しい席に私を連れていけると思っているの?」


 こんな超絶上から目線のセリフを人生で一度は言ってみたいものである。

 さすがの沖島もそれ以上女王さまを勧誘するような真似はせず、女王さまは定時でご帰宅された。そして私は結局一人では仕事が終わらず沖島の思うまま手伝われ、まんまと合コンのメンバーに加入させられてしまった。格差社会が身に染みる。


 それでも仕事を手伝ってもらったのだからといらぬ義理を果たしてしまったせいだろうか。

 間違いなくそのせいに違いないが、今夜の私も肉食女子の嫉妬の視線に怯えていた。


「沖島さんが今日参加するって聞いてぇ、楽しみにしてたんです」


 今日のために特別にオシャレをしたのだろう。気合いの入った化粧と髪型から沖島を落とそうという気概が見える。そんな肉食女子をはす向かいに据えて沖島は爽やかさ全開で軽やかに微笑んだ。


「この井沢さんは秘書課に入ったばっかりなんだよ。慣れない職場だから息抜きに連れて来たんだ」

 

「へぇ、井沢さんも秘書なんですか」


 すごいですね、と微笑む彼女の瞳は笑っていない。もうカンベンしてくれ。私はあなたを釣る疑似餌に過ぎない。 


 今日は何某物産女子との合コンであった。沖島が合コンに参加する時はそこそこイケてるメンツを用意する。だからたとえ沖島が屑野郎でも男女問わず彼の参加する合コンは盛況であった。沖島狙いを諦めた女子と沖島狙いで集まったレベルの高い女子目当ての男でカップルが出来ることもしばしばなのだ。

 そして今日も沖島の標的となった憐れな肉食女子はメンツの中でも特に美人な受付嬢であった。


 合コンもたけなわになってくると席替えが行われたりするが沖島は実に巧みに受付嬢の嫉妬を煽り、最終的にはたちの悪い手品師のように受付嬢をお持ち帰りする算段を立てていた。相変わらず鮮やかな手並みである。

 私はいつものようにヤケクソのように飲み食いし、合コンを終えた。

 会計を済ませて三々五々に散ろうかというところで、私は思わぬ珍客に捕まった。


「こんなところで何をしている。井沢」


 鬼上司の石川である。

 常以上に顔をしかめて私を睨んできているというのに、迫力のイケメンの登場で各々それぞれに収穫のあったご様子の女子たちが一斉に石川に視線を集中させた。沖島が集めたメンツもそこそこイケている男子たちなのだが、見た目だけは上等なイケメンの石川には太刀打ちできなかったようだ。


「また沖島の馬鹿に連れられてきやがったのか。いい加減、学習しろ」


 私は慣れてしまったが、女子たちは唖然となる。それに構わず石川はその悪態を存分に披露してくれる。


「そんなにバカ騒ぎがしたいなら、今度は会食までついてこい。狸親父どもの酌を思う存分させてやる」


「それだけはご勘弁ください」


 会食で嫌なことでもあったのかもしれない。

 素直に頭を下げる私とそれを呆れた様子で見下ろす石川の関係は説明するまでもなく知れたようで、女子たちの熱気が一気に冷めていく。さすが観賞用のイケメン石川である。


「帰るぞ。沖島、井沢」


 犬でも呼びつけるように言って、踵を返す石川の後を追わないわけにはいかない。私はしがない下っ端なのである。

 それは沖島も同じようで、せっかく手に入れた肉食女子にあっさり別れを告げている。

 沖島の魔手を逃れた受付嬢は不満そうであったが、のちに己の幸運を知るだろう。


 そして私と沖島は石川の後に続いて駅へ向かう道すがら、滔々と仕事のミスを並べたてられた。

 

――秘書辞めたい。切実に。


 疲れ切った私が帰宅したのはすでに深夜だった。石川の説教が長すぎるせいだ。

 せめてもの救いは、沖島の合コンでは女子が財布を開けずに済むことだろうか。沖島は極悪非道のチャラ男だが今のところタダ酒タダ飯の約束は破ったことがない。そういうところも断りにくくて彼は非情に厄介な敵であった。


 私は今日一日胸に秘めていた罵詈雑言を吐き出しながらシャワーを浴びて、リビングに所狭しと並べられた本に立ち向かう。

 積まれた書籍は様々だ。秘書検定、英語、行儀作法、マナー一般、ファッション誌に経済誌、パソコン情報雑誌まで。

 石川たちは非情だが、彼らの優秀さは生え抜きだ。平凡な事務職だった私は目についたことはすべて勉強しなければ追いつけなかった。

 仕事に関することはもちろんのこと、化粧にファッション、ブランド、贈答品まで。必要と思われたことは一つずつでも勉強しなければ何一つ仕事にならない。

 石川たちは指示をするが、何も教えてくれない。指摘の中から私が発見していくしかないのだ。奴らは大昔の徒弟制度時代から生きているに違いない。最近の若者の豆腐のようなメンタルをまったく理解していないのだ。それでも、歯を食いしばってやっていくしかなかった。

 実家への仕送りを続けるために。

 仕送りはもはや私のプライドやらを一切合切支えている。これがなければ私は明日にも無職を選んでいるかもしれない。文化的水準の生活を維持するためにも私は仕事を辞めるわけにはいかなかった。


「この口紅、デパートの店員さんおすすめだったのに……」


 今日、石川と水田から散々似合わないと指摘された口紅は、頻繁に足を運ぶようになったデパートの化粧品売り場で少しは背伸びしようと買った口紅であった。

 店員さんは褒めてくれたが、どうやら体のいいお世辞だったようだ。

 このような化かし合いも勉強の一つとなる。多くの来客や他社との人間と接する機会の多い秘書という仕事柄、表面上は和やかに会話していても本音を言うことなどほぼ皆無だからだ。本音と建て前と言えば聞こえが悪いかもしれないが、思ったことを口に出来ないことが多い仕事だ。言葉の選び方や態度に気を付けなければならないことは山ほどある。

 それを指摘してくれる優しい先輩などいないので、私は体感して覚えるしかなかった。


「……いつか見てろ。化け物集団」


 この秘書という仕事を辞めないでいられたら、いつかあの社長秘書化け物三人衆をぎゃふんと言わせてやるのだ。

 私は三人衆が参りましたと土下座するという子供のような夢想を思い浮かべながら、勉強に没頭していった。




――あとから思えば、こんな日常はまだ幸せだったのだ。


 私の少しスリリングでエキサイティングな日々の終わりを告げたのは、一番信じていた人だった。


『――ごめん。別れてくれ』


 電話から聞こえてきたのはとても静かな声だった。

 

「……どういうこと? 弘人」


 私の震える声に、弘人は淡々と答えた。


『上司のお嬢さんと結婚することになった』


 その日はとても綺麗に晴れた朝で、弘人の両親と会う約束の日だった。




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