四、予行演習
短い小話です。
夜勤明け、ヘトヘトになった黛はいつも通り家に帰ってすぐに浴室に向かい、サッパリしてから寝巻替わりのTシャツとショートパンツに着替えて寝室のドアを開けた。
平日なら既に七海は起きて活動している時間だった。しかし今日は休日だ、七海はカーテンから差し込む光のお陰でほの暗い部屋の中で眠っている。妊娠しても朝食の用意は今まで通り続けたい、と主張する七海の意見は受け入れたが、その代わり休日はゆっくり眠るように、と主張したのは黛だった。
フラフラとベッドに近付き布団の端から潜り込む。七海の柔らかい体を抱き寄せようと手を伸ばして―――異物の存在に気が付いた。
「ん?」
ペタペタとその異物に触れる。
柔らかかったりゴツゴツしていたりサラサラしていたり……
「あ!」
布団を少し捲って覗くと、卵みたいに丸くなって七海に寄り添う翔太が、スヤスヤと寝息を立てていた。
そこで漸く黛は思い出した。七海が翔太を泊めると言っていた事を。
翔太が間に入っている為、七海に手が届かない事を残念に思ったが―――仰向けになって上掛けを肩まで引き上げた黛は、フッと微笑んだ。
いつかお腹の子が生まれたら―――こうして川の字でベッドに横になる日が来るのだろうか。
そんな想像をしながら。
彼はゆっくりと目を閉じたのだった。
川の字の予行演習でした。
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