本田家のルール
思いついた(100)話のおまけをもう一つ追加します。設定説明的な短いお話です。
※完結後もブックマーク、お気に入りを付けていただいている方々に感謝を込めてvol.2。
「本田君のお父さんって初めて見た。やっぱり背が高いんだねぇ」
七海がビール瓶を持って本田の母、茉莉花と一緒にテーブルを回っている男性を見ながら言った。それから、名簿を見る。
「本田……『きよし』?『せい』?かな。これ、何て読むの?」
「本田清」
「そう言えば本田家の男の人の名前って皆、一文字なんだね、でも読み方はバラバラだ。きよし、のぶ、こころ、あらた……あんまり統一感ないよね」
「いや、あるぞ。全部、音読みで『シン』だろ?死んだじーちゃんも、確か……『進』って言う名前だった筈だ」
黛が記憶を探る様に瞼を伏せ、コメカミに指を当てて言った。
七海が感心したように唸った。
「へー!本田家は他にも色々決まり事がありそうだね。唯もお祖母ちゃんから花嫁修業を受けてるし。……そう言えば、黛君の名前は誰が考えたの?もしかしてお義父さんのおウチでも『龍』の字を長男には必ずつけなさい!とか言われてたりする?」
黛の父親は『龍一』、黛は『龍之介』となっている。
何かルールがあるのなら、七海のお腹の中にいる子の名前もそれに従わなければならないのだろうか?と七海は今更ながら考えたのだった。
「いや、別に決まりは無い」
黛は真顔で首を振った。
「玲子が親父を好き過ぎてな」
「うん」
それは七海も知っている。
「俺の名前を親父と同じ『龍一』にしようとしたんだ。けど親父に止められて渋々変更したんだと。第二案も『りゅうじ』で『二』か『次』を付けるって玲子が主張したらしいんだけど……ヤヤコシイからって親父に却下された。で、結局呼び間違えも書き間違えもしそうもない、長ったらしい『龍之介』になったらしい」
「へー……じゃあ、黛君は『龍一』二世だった可能性もあるの?」
七海は物凄く玲子らしいエピソードだと思ったが、流石に若干引きつつ尋ねた。日本で父親と同じ名前の男の子などほとんどいないだろう、と。
「いや、アメリカならともかく、日本じゃ受理されないらしいぞ。親子で同姓同名ってのは」
すると彼女の横で、お腹の子供の父親である黛がニマニマしながら呟いた。
「その経緯を聞いた時は『勘弁してくれ』って思ったけど……今は玲子の気持ちが分かるな。俺も女の子が生まれたら『七海』って付けたい」
七海は慌てて、反論した。
「ええ!無理なんでしょ?」
「いや、何でも手続き上の抜け道はあるらしいぞ。まあその為にわざわざ籍を抜いたりするのはちょっとやり過ぎだから『ナナコ』とか『ナナエ』とかでも良いけど」
「えー、そんなの紛らわしい!」
即『却下!』と告げると、黛は一瞬不満げな表情になり……いきなり七海のお腹に耳を寄せた。
「ちょっ」
七海が思わず押し退けると、黛はニシシと笑いながら言った。
「気に入った!って言ってるぞ!」
「言う訳無いから……!」
「ああ!今度は抱き着いてるのか?!また、イチャつきやがって、アイツら……!」
「気にすんな……ホラ、飲めよ」
気を使って田宮のグラスにビールを注ぐ亀井。田宮はウルウルと瞳を潤ませて、亀井の腕に縋りついた。
「亀井~~お前だけが、俺のオアシスだ……」
「そりゃ、どうも……」
傷心を抉られ続ける田宮の為にも、今日だけは自慢の彼女の話題には触れるまい……亀井はそう、改めて自分に言い聞かせたのだった。
田宮をまたオチに使ってしまいました。(大変、便利な人です)
お読みいただき、有難うございました。




