(97)お買い物
ショッピングセンターにて。
マンションから徒歩十分のところに大きなショッピングセンターがある。黛と一緒に食材の買い出しがてらブラブラと歩きながら店を眺めていると、意外と子供向けの店が多いのに七海は気が付いた。
「ベビーグッズとか子供のおもちゃのお店って結構多いね。今度翔太連れて遊びに来たいなぁ」
「ちょっと覗いて行こうぜ」
グンッと手を引っ張られ入ったお店は、何ともカラフルで可愛らしいベビーグッズや子供用の知育おもちゃなどがセンス良く配置されている。
黛が真っ先に目を付けたのはベビーカーだ。
「お!これカッコイイ。バギー?三輪だ」
「向かい合えるのっていいよね。ベビーカーで赤ちゃんと同じ方向見ているとちょっと不安になる時あるんだよね、寝てるのか起きてるのか分からなかったりして」
「双子用だ、すげえ」
「ふふ、可愛いねえ」
「これ、何だ?カゴになってる。外せるぞ」
「赤ちゃんが寝ちゃっても起こさずにこのまま持ち運べるんだよ、便利だね」
「詳しいな、七海!」
はしゃぐ黛に対して七海はやや冷静だ。弟の翔太が生まれた頃七海は大学生だった。共働きの両親を助けドタバタ騒ぎながら育児の手伝いをして来た準子育て経験者だ。その頃育児グッズフィーバーの洗礼を受けているので、もはや新製品に感心はするものの目を瞠るほど驚くような事は無い。
「翔太の時、かなりお店回ったり雑誌見たりしたからね。大学時代黛君は勉強で忙しかったかもしれないけど、私は勉強より育児と家事に時間を割いていたから」
と言うか勉強はほとんどしていない。サボりはしないものの受験以降、勉強に力を入れた事はあまり無かったと言って良い。
「育児グッズって見てるだけで楽しいから色々試したくなっちゃうんだよねー。でも結局、使う物って限られるんだけど」
そんな冷静な七海の言葉を聞いても、黛にとってはほぼ初めて見るものばかりなので、興奮を抑えきれない。手に取った赤いベビーカーを手に取ると、パタンと簡単に畳めて驚く。あまりの手軽さに感動して振り向き、七海に満面の笑顔を見せた。
「片手で畳めるぞ。しかも結構軽い。これ欲しいな……!」
「日本製だね。使い易そう」
と、七海も無邪気に喜ぶ黛に微笑んで頷いたのだが。
「買いたい!買ってこうぜ」
「……」
黛がそう言った途端七海は無言で首を振った。それまで一応楽し気にちゃんと合の手を入れてくれていたにも関わらず。
「何でだよー」
「すぐ使わなくなるんだから、翔太のおさがりで十分だよ」
「えー!」
不満げな黛に、七海はちょっと考える素振りをしてから提案した。
「……じゃあさ、とりあえずあるモノ使ってみて―――それで物足りなかったら買おうよ!ね」
「まあ、それなら……」
「と、言う事で。大きな買い物はもう少し後で考えようね」
今度こそニッコリと笑って、七海は黛の背を押して店を出た。
まんまと夫を操縦できた事に満足した七海だが、後々もっと自由な大物との対決が待っているのだと言う事は……この時はすっかり頭から抜け落ちていたのだった。
対決にもならず負ける気配、濃厚かもしれません。
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