(95)手を繋ごう
(94)話の続きです。短いです。
黛を中心とするサッカー部の集まりに一人、また一人とメンバーが増えて行く。
すると想い出話や近況報告に華を咲かせていた和やかな集まりが、徐々に騒がしい物に変化していった。つまり酔っ払いが多くなって、盛り上がり始めたと言う事である。
それまで黛と七海の間を境界に、元サッカー部員と七海のクラスの女子と言う括りが成立していたのだが、いつの間にやら彼方此方から声を掛けられた湯川や加藤の席が移動している。その席に元サッカー部員らしい男が座っており、七海の周りはよく顔を見分けられない人間ばかりになってしまった。しかし何となく見覚えはあるし、学校時代の共通の話題はあるので話せない、と言うほどでは無い。
七海の横にいた加藤の席に腰掛けている元サッカー部の男は七海を挟んでしきりに黛に話しかけているのだが、話の途中で何がしか冗談を口にしてはケラケラ笑う……と言う事を繰り返している。かなり上機嫌な様子だった。
強かに酔っているせいか、酒臭いその男性の体が時折七海に触れる。
悪気は無いようだがあまり居心地が良くないので眉を顰めていると「ん?」とその酔っ払い男性に顔を覗き込まれた。
「具合悪いの~?大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫……」
「あれあれ?江島さんって何か綺麗になったよねぇ~。やっぱ幸せだからかなぁ?黛、このっ!可愛いお嫁さん貰って、羨ましいなぁ~」
そう言って彼は七海越しに黛をトンと小突く。
無表情に見返す黛を、満面の笑顔で見ていた彼が二人の間に目をやり更にニヤニヤし始めた。
「あっ!手ぇ繋いでる!くっそ~羨ましいなぁ、俺も繋ぎたい!七海ちゃん!俺とも手えー繋いでっ」
と言って、空いている方の七海の手を取ろうとその手を伸ばして来た。
うわぁ……と引き気味になった七海の体がふわりと引き上げられる。あれ?と思っている間に七海は席を立たされ、ヒョイと隣の椅子に座らされた。黛が七海を自分の席へ移動させ、代わりにその酔っ払いの男性の横に入れ替わるように座ったのだ。
それから真顔で、その男の手を取り黛はこう言った。
「繋いでやったぞ。嬉しいか?」
「……」
無言になる酔っ払い男。その表情からは笑顔が掻き消え、目は点に。
少し離れた処からその様子を目にした戸次が「うわぁ」と呻いた。
その隣に座り、紫蘇焼酎を飲んでいた湯川が「うへぇ」と溜息を漏らしてからこうつぶやいた。
「独占欲つよっ」
真っ赤になる七海の横で、黛は左手で七海、右手で酔っ払い男の手を握って涼しい顔をしていた。
その後黛に手を握られて呆気に取られていた男が何故か「黛……お前やっぱ綺麗な顔してるな~」などと言いながら、照れてモジモジし始め。それを横で見ていた七海は(黛君あんな事サラリとやるから、遠野君みたいな男性好きな人が執着するんじゃあ……。好きな相手にあんな事されたら……あれは誤解を招くかも)と勝手にヒヤリとします。ますます誤解が加速する結果に。ちなみにお隣さんは単なる上機嫌な酔っ払いなだけで、ノーマルです。
お読みいただき、有難うございました。




