(93)同窓会で2
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。
(92)話の続きです。短めです。
少し落ち着きを取り戻した加藤が、興味津々な様子で身を乗り出して来た。
「ねえ、いつから復縁したの」
復縁……と聞いて七海は、ああそうか、高校時代二週間だけ付き合っていた事は皆知っていたのだと思い出した。最近は説明がややこしくなるので高校時代の付き合いはカウントせずに、ただ『友達だった』とだけ周囲には話していた。その所為か、七海の頭から最初の付き合いの事はすっかり抜け落ちていた。
「ええと……去年かな」
「え!じゃあ一年くらい付き合って、もう結婚?」
「一年も……経ってないかな」
本当は半年とちょっと、と言う方が正確なのだが加藤の態度を見て一年でも早過ぎると思われているようなので、七海は口を濁した。
「ええ!大丈夫?そんな勢いで結婚しちゃって……」
加藤が心配そうに七海の顔を見て―――それからチラリと黛の顔を見た。
何となくだが……加藤は七海が黛に焦って結婚を迫ったと思っているようだった。まあ、普通はそう考えるだろうな、と七海は思う。黛に結婚を焦らなければならない理由が特にあるとは皆思わないだろう、と。
「どういう意味だ?」
黛が珍しく加藤の台詞にちゃんと反応した。
「ほら、電撃婚!とか勢いで結婚しちゃった夫婦って離婚も早いって……あっ」
流石に言い過ぎたと思ったらしい加藤が、そこまで言ってから口を噤んだ。黛は無表情のまま慌てる加藤に尋ねた。
「勢いで結婚したら……何故離婚するんだ?」
そんな処を突っ込んで聞かれると思っていなかった加藤は「え?何でって……」と戸惑いつつ頭を巡らせた。
「ええと……あれじゃない?その……恋に浮かれて勢いで結婚すると、相手の事をよく知らないままだったり、自分が本当にその人と結婚しても良かったのかって考えないままだったりすることに、熱が冷めた途端気が付いちゃうとか」
黛は腕を組み右手を顎にあて、何事かを考える素振りを示した。その様子に加藤は慌てて補足する。
「あ!皆が皆って事じゃないよ、芸能人とかそう言う場合が多いってだけで……」
「七海も……結婚して『早まった』なんて考えたりするのか?」
黛が少し沈んだような低い声で七海に尋ねた。
「え?ええと……ううん」
七海が戸惑いつつ首を振ると、黛が更に真剣な面持ちで質問を重ねた。
「何か不安があるなら、言ってくれ。知りたい事があったら黙ってないで直ぐに聞いて欲しい」
思いの外真面目な様子で尋ねるので、七海はちょっと体を引き気味に頷いた。
「うん、分かった。今のところ知らない事は無いと思うけど……」
そう言い掛けてフッと言葉を切った七海が、何かを思いついたような表情になったので黛はガシリと彼女の手を掴んだ。
「どうした?」
七海は一瞬元カノの美山とその他の顔を合わせた事の無い彼女の事を思い浮かべたのだが―――特に改めて聞く事でも無いし、それに関してはもう自分の中で解決した事なので(まあ、いっか)と首を振った。それに黛の性格なら、七海が聞きたいと言えば隠さず何でも答えるだろう。わざわざ昔の微妙な話を耳に入れたくないな、とも思った。
「ううん、何でもない」
そう言ってニコリと笑った七海を見て―――本心からそう言ったのに、黛が何故か蒼くなって掴んでいる手にギュッと力を込め、もう一方の手を腰にまわして離れた体を引き寄せた。
「何だ?何かあるのか」
「無いってば」
「……離婚なんかしないからな」
「うん、分かってるよ」
其処まで言ってから七海は妙に周りが静かな事に気が付いた。
ハッと顔を上げると、目を丸くしている加藤と目が合う。それから周囲を見渡すと自分達に注目しているたくさんの視線が、パパッと気まずげに逸らされる。
羞恥心に頬を染め七海は慌てて黛を引き離したが、拗ねた様子の黛にまたガッチリと手を握り込まれてしまったのだった。
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