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(92)同窓会で

(91)話の続きです。

「こっちこっち!」


加藤に手招きされるまま、七海は彼女の隣の席に腰を掛けた。

黛もまるで用心棒のように、無表情のまま七海の隣に腰を下ろす。七海はもう諦めて、彼のしたいようにさせる事にした。


「黛君、二次会これたんだ。久しぶりだね!」

「……誰?」


明るく声を掛ける加藤を見てボソリと呟き、黛は七海に視線を向けた。

七海は慌てて取り成した。


「あっ、そうだよね!女の子って綺麗になっちゃうから分からないよねぇ?」

「……」

「加藤さんだよ、加藤さん!ホラ私と同じクラスだった……加藤さんは……サッカー部では無かったよね?」


黙ったままの黛を、七海はフォローする。


黛は誰になんと思われてもあまり気にしない性質たちなのでフォローなど必要ないだろうが、知合いとの板挟みで七海が辛い。場の雰囲気が悪くなるのは嫌なので、七海は焦りつつ黛を代弁するように振る舞った。


そう言えば加藤は昔、黛にちょっと好意を抱いていた筈……と、七海はやっと思い出した。黛に付き纏われている唯に嫉妬して当て擦りを言っていた事もある。誤解が解けた後は唯に絡む事は無かったが。加藤はイケメン好きで少しミーハーな処があったと思う。本田の弟、あらたを紹介してくれと、ちゃっかり唯に頼み込んだりした事もあった。イケメンに弱いのは七海も一緒だが、加藤は気が強く七海はハラハラさせられる場面が幾つかあったように思う。


けれども『久し振り』と、加藤が言ったという事は……高校で二人に接点があったのだろうか?七海には覚えが無かったので、地雷を踏まないよう気を付けながら加藤に尋ねた。


「加藤さん、黛君と部活か委員で一緒だったの?」

「ううん」

「えっと……じゃあ、何処で……」

「大学の時、合コンでね!私の元カレに呼び出されて黛君も途中から参加したよね」

「えっ……」


七海はヒヤリとした。先ほど七海がしたフォローは藪蛇だったかもしれない、と。大学生の頃なら、女性の外見がそれほど今と変わっているとは考え難い。


それにしても『合コン』って。


と、七海は思った。この間ランチ合コンを彼に提案して貰ったのだが、黛自身は基本的にそう言う集まりを面倒臭がっている。同窓会でさえ興味が無いと言っているくらいだし、基本的にモテるので合コンに行ってまで出会いを探す必要が無かった筈だ。

しかも七海の後ろでずっと無言。きっと加藤の事をまるきり覚えていないに違いないと、これまでの経験から七海は推測した。


「ええと、その……加藤さんの『元カレ』って黛君と仲が良いの……かな?どんな人?」


遠回しに少し話題をずらしてみる。


「黛君の大学の同期よ。彼が言うには、ちょっと浮世離れしている黛君が人とちゃんと接する事ができないから心配だって。だから、いつも黛君の世話を焼いているんだって言ってたわ」

「大学の……」

「優しくてカッコ良かったんだ……今は色々あって……連絡取ってないけど」


何となく嫌な予感がした。


いや、しかしあの人は確か……と、七海はその予感を否定した。


加藤が少し憂いを帯びだ瞳で、黛を見た。


「黛君、遠野君って今でも連絡取ってる?彼、元気でやってる……かな?」

「……」


悪い予感が当たって、七海は口を噤んだ。


しかし七海は混乱していた。遠野は黛の事を好きなのでは無かったのか?男性を好きなのだと思っていたが。加藤の話だと以前から黛にちょっかいを掛けて構って(絡んで?)いたと言うから、あの『遠野』本人に違いないような気がするが。


「遠野……?」


聞き覚えのある言葉に、黛は顔を上げた。


「ああ、アイツは無駄に元気だ。鬱陶しいくらい」


苦々しく黛が言うのを、七海は複雑な気持ちで聞いていた。

やはり黛は遠野の気持ちに気付いてないのかも、と思い至る。ならば、あの執着はただ鬱陶しく感じるだけだろう、とも。


すると加藤が少しオズオズと尋ねた。

何だかその様子が女性らしくて、七海にはいじらしく感じた。以前はちょっとキツイくらいのキッパリした物言いの少女だった。けれどもそんなタイプの加藤でも、恋愛に関してはなかなかキッパリハッキリ強く出るのは難しいのかもしれない、と想像した。


「今でも……会ってるの?その、遠野君に」

「会ってるも何も、さっきまで一緒だった」

「え!」

「今日も同窓会まで付いて来ようとするから、追い払うのが大変だった」


如何にも『鬱陶しい』と言いたげな黛を見ながら、七海は憂鬱な気持ちになった。

妻である七海が『黛君はあげられないので!』と宣言したにも関わらず、いまだに積極的にアプローチしているのかと思うと……黛はノーマルだから心を移すとは思えないが、遠野の想いの深さにちょっと引いてしまう。小学校の同級生をこう呼ぶのは憚られるが、一歩間違えばストーカーだ。


そしてそんな、黛に入れあげている遠野と付き合っていたと言う、加藤。


そこでハタ、と七海は気が付いた。




(あれ?これってもしかして……世にいう『三角関係』ってヤツ??いや……私も入れたら……ひょっとして『四角』……。あっ遠野君って確か婚約者いなかったっけ?じゃあ―――ご……『五角関係』?!あれ?遠野君ってゲイじゃ無くて……もしかして所謂いわゆる『バイ』ってヤツ?!それともお付き合いと言っても、加藤さんとはデート止まりだったりして。そうだよね、まだ学生だったんだし在り得るよね)




「ななみ?―――おい、どうした?」


ハッと現実に返ると、自分を覗き込んでいる夫の心配そうな瞳とかち合う。


「具合悪いのか?」

「あ、ううん」

「無理すんなよ。駄目そうだったら、強制的に連れ帰るからな」


ブンブン……と七海は首を振った。

少し思いに沈んでしまったが、楽しみにしていた同窓会を途中で退席するのは勿体無いと思った。


するとその遣り取りを見ていた加藤が、不思議そうに口を挟んだ。


「『連れ帰る』って……黛君のウチ、江島さんの家の近くなの?」


キョトン、とした顔で尋ねられ、そう言えば前提を説明していなかった事に、七海は漸く思い至った。


「えっと……言って無かったっけ?黛君と結婚した事……」

「……えっ……」


と、小さく声を上げたまま暫く絶句し。




「えええ―――!!」




と、それから両頬を押さえて、加藤は絶叫した。


(そ、そんなに驚く事かな……)


と怯みつつ、すっかり盛り上がった会場が騒がしくて、あまり彼女の絶叫が目立たずに済んだ事に―――七海はホッと胸を撫で下ろしたのだった。



七海は、本気で加藤と遠野がデート止まりって可能性もあると考えています……と、言う訳で結局いまだに遠野のゲイ疑惑は解けないまま。


お読みいただき、有難うございました。

&良いお年をお過ごしください(*´ω`*)

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