(73)黛家の日常2
短いです。
最近の玲子はと言うと、常に龍一の隣にいるか前から抱き着いているか、背後にぺっとりとくっ付いている。龍一は何を考えているのか分からない表情で自分の好きなように行動しているが、それでも彼女の好きに振る舞わせている。
朝御飯の後、ソファに座って書類を見ている龍一の横に玲子が寄り添っているを眺めながら、七海はキッチンで洗い物をしている。
今日は土曜日。黛はちゃんと休みらしく珍しくのんびりしている。残った食器を運んでシンクへ運び、七海のお手伝いらしき事もしてくれた。下げて貰った食器のうち汚れが大きいモノだけ軽く洗い、備え付けの大きな食洗器へ次々と食器を並べていく。食洗器のお陰で洗い物は実に簡単だ。玲子はなるべく手を怪我しないようにしているので七海にも「お手伝いさん雇ってもいいのよ?」と言ってくれたが、七海はしたくてしている事なのでお断りした。食洗器もあるし、週二でハウスクリーニングも入っている。彼女としては少し物足りないくらいだった。
七海は作業を一通り終えて、龍一にピッタリと寄り添う玲子を眺めながら、隣に立っている黛に呟いた。
「最近玲子さん、お義父さんにピッタリくっ付いてるね」
「ああ、そうだな」
さすがに黛は見慣れているのか、動じた様子も無い。
七海もこれでも随分慣れたと思っていたが、最近のアツアツっぷりは流石に見るたび首の後ろにうっすら汗を掻いてしまうくらい、見ているこっちが照れてしまってしょうがない。
「寂しんじゃないか?もうすぐ米国に戻らなきゃならないから。長期の出張がある時は昔からいっつもあんなだぞ」
しかし黛の指摘にそんな浮ついた気分もトーンダウンしてしまう。
「そっか、もうそんなに……」
そろそろ玲子の休暇の二ヵ月が終わるのだと、やっと七海は認識をあらためた。玲子が帰国してから黛家の照明が20%ほど明るくなったように感じるくらい、活気が生まれたような気がしていた。なのにもうすぐその活気が失われてしまうのだと思うと、何だか複雑な気分になってしまう。
「私も、寂しいなぁ」
ポソリと囁くと、黛がフッと笑って七海の後ろから手を回し腰を引き寄せた。
「俺がいるだろ?」
「……黛君、あんまりいないじゃん」
再び恥ずかしさで頬に熱が灯るのを感じて、七海は照れてプイッと口を尖らせた。
「これで玲子に七海を取られなくて済むな」
しかし七海の反論は見事にスルーされた。どこかご機嫌な黛には、玲子の不在に対する寂しさは感じられない。もともと離れて暮らしていた家族だったからか、それともこれが男性と女性の感傷の違いなのか。
「玲子さんがいなくなるのにそんな事言って!薄情もの~!」
七海はクルリと黛に向き直ると、彼の脇腹をワシっと掴んでやった。
「ぎゃはっやめ……!」
「待て!」
体を捻り逃げ出す黛を七海は追いかけた。
ドタドタと寝室に向かって走り出した二人を、ソファから龍一と玲子が目をまん丸にして眺めていた。
「……随分、楽しそうだな……」
「仲良しねぇ~」
逆に観察されているとは、露とも気が付いていない新婚夫婦だった。
人のイチャイチャには気が付くけど、自分のイチャイチャには気が付かない……という事例紹介。人の振り見て我が身を直さなくても良い時もあると言う教訓話です。(嘘です)
お読みいただき、有難うございました。




