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(63)七海のお願い

職場の後輩である肉食系カワイ子ちゃん、小日向こひなたからこまめに合コンの催促をされ、一度頷いてしまった手前七海は取りあえず黛に聞いてみるだけ聞いてみようと決心した。


その日ちょうど七海が寝る間際に帰宅した黛が着替えを取りに寝室に現れたので、彼が身支度を終える間本を読んで起きている事にした。いつもなら『待たずに寝て良い』と言われているので、翌朝仕事の日はそのまま布団に潜り込んで寝てしまう所だったのだが。


「あれ?待っててくれたのか?」


寝巻替わりのスウェットに着替え、少し渇き残しのある髪のまま寝室に戻って来た黛が弾んだ声でベッドに上がって来る。


(あ、何か勘違いしている!)


と思ったが早いか、黛は布団に入り身を寄せて来る。直ぐに手を取られて、七海はベッドに押し付けられた。

ウキウキと聞こえそうなくらい満面の笑顔の黛が、七海を楽しそうに見下ろしている。


「明日も仕事だから、ちょっとだけな?」

「まっ……」


などとまるで七海がおねだりでもしたかのような口振りで言い、チュッと頬に軽くキスを落としてから七海の口を塞ごうとする。


「ま、まゆずみくん、ちがっ……んうー」

「……」

「ぷはっ……あのっ……ちょっと話がっんぷ……!」

「……」

「ちょっ……っ」


ゴチン!


「ったあ~!」


痛む額に手を当て、黛は体を起こした。

七海もハァっと息を吐きながら体を起こし、黛に向き直った。手加減はしたつもりだ。彼女が本気を出せばこの程度では済まされない。


「ひでー!七海が誘ったくせに」

「ちがーう!分かってるでしょ、聞こえない振りして~!」

「ちっ……バレたか」


唇を尖らせ黛は額を擦っている。七海は自分がお願いする立場だった事を思い出し理性を取り戻した。ペコリと頭を下げ素直に謝った。


「ゴメンなさい。話があるから待ってたの」

「話?俺はボディランゲージの方が……」


と懲りずに手を伸ばしてくるので、七海はそれをガっと掴んで拘束した。

すると黛は直ぐに大人しくなる。本気で力比べをすれば七海など簡単に跳ねのけられる筈なので、それは彼のただの戯れだと容易に理解できた。


「あのね、この間私が後輩に合コンしたいって言われた事……覚えている?」

「んー?ああ、えらく『医者』に食いついた女の話か?」

「そうなの、あれから何度か聞いてみるだけ聞いてみて欲しいって言われて……黛君の同僚って皆ものスゴく忙しいと思うから、やっぱり合コンとか無理だと思うとは伝えたんだけど」


けれども小日向のお願いの仕方が上手で、ついに七海は再び頷いてしまったのだ。何とも可愛らしく「覚えてますか?待ってますよお~!」「このチョコ美味しいんですよ!あ、下心アリです」などと言いながら絶妙な力加減で、時折小出しに言われるとちょっとだけなら尋ねてみてもいいかも……なんて思ってしまうのだ。

しかし黛が人の橋渡し役など、進んでやるようなタイプでは無いと七海も分かっている。


「合コンなら出そうな奴いるな」

「えっ」


事も無げに黛が言うので、こちらから依頼しておいて……と自覚しつつも七海は驚いた。


「寝る時間削っても出るってヤツは何人かいる。プライベートは職場と離れた環境の子と付き合いたいって言う研修医は多いぞ」

「えー、そうなの?でも何となく看護師さんとか……周りに女の人の多い職場だから出会いに困らないようなイメージあるんだけど」

「職場に依るかもしれないけど、うちでは研修医って何も出来ないくせにアチコチの部署を短期間で回るお荷物って思われている節があるからな。看護師さんも職業意識が高い人が多いから俺達が余計な事するとイラっとするみたいで、それで凹んで苦手意識持っちゃって職場の関係をプライベートまで持ち込みたくなくなるって奴も結構多いんだ」

「じゃあ、黛君の職場のお医者さんは看護師さんと付き合う人ってあまりいないの?」

「……いや、いなくもない」

「そうなの?どっちなの?」

「まあ……人に依るかな。だから合コンに出たいってヤツは確かにいる」

「へえー、じゃあ土日とか休みの前日なら集まりやすいのかな?」

「……お前も出る気か?」

「え?そうだね多分……流石に丸投げじゃ後輩が心細いと思うし……」


そこまで考えていなかったが、きっと初対面同士の合コンなら仲介役がいた方が良いだろう、と七海は考えた。最初だけ居て後で抜けると言う手もあるし、とも。


「昼だ」

「え?」

「夜は駄目、ランチ合コンなら紹介しても良い」


黛は真面目な表情で提案した。


「ええ?お昼に合コン?」

「そういうのもアリって何かで読んだぞ。一定量以上飲むとグダグダになる奴とかスプラッタな話ばかりになる奴もいるから、顔合わせはそれぐらい距離を取って後は気に入った相手同士に任せればいいんじゃないか」

「……なるほど。そっか、そうだよね」


黛の職場の飲み会はとてもハードらしいと、七海も聞いている。確かに黛の言う案の方が普通の合コンより適当に思われた。もし本当に同行する事になっても、その方が七海も気楽に応じられる。


「ありがとう、じゃあそれでも良いか後輩に聞いてみるね。そしたら黛君も職場の人に聞いてみてくれる?」

「ああ」

「……」


ギュッと七海は黛に抱き着いた。


「本当にアリガトね。黛君がこんなに気を使ってくれるなんて思わなかったよ。ゴメンね、忙しいのに」

「気にするな」


黛は七海をギュッと抱きしめ返した。

七海の胸がじんわりと熱くなる。


マイペースで我儘で、周りより自分の事を優先していた黛が、おそらく七海の立場のために色々と考えて配慮してくれているのだ。この優しさにどうしたら報いる事ができるだろう……?


黛は七海の背を撫でながら、如何にも嬉しそうに言った。


「七海の『お願い』だからな!」


そしてニヤニヤ笑いが目に見えるくらい声に喜色を滲ませて続けた。


「楽しみだな~七海は真面目だから、お願い聞いたら絶対すっごい『お返し』してくれるんだろうなぁ」

「……え……」

「いやー、楽しみだなぁ。何して貰おっかなぁ……」


何となく黛の手が怪しい動きを始めたので―――七海はタラリと額に汗が滲むような気分になったのだった。


下心アリの優しさだったようです( ̄∇ ̄*)

あと、七海は妹の広美みたいにちゃっかり甘えて来る年下の女の子に割と弱いです。


お読みいただき、ありがとうございました。

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