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(60)お疲れさま

短め。ある日の夫婦の日常のヒトコマです。

黛によると外科は他の科より割と体育会系で、飲み会も多い方だと言う。数時間、時には十数時間も長い時間立ったまま手術を行う外科医達の間には自然とそういうチームワークや連帯感を育てる風習が出来上がるらしい……と、彼の話の断片を繋げて総合的に七海はそう受け取っている。

しかしただでさえ精神的にも厳しく仕事量が多いのに更に飲み会も多いとは、一体躰の方は大丈夫なのかと七海は心配になってしまう。これがリアル『医者の不養生』と言うヤツだろうか?そう言えば自分の会社でも企画営業課など多忙な職場は飲み会が多いらしい。仕事のハードさと飲み会の多さは密接な相関関係にあるのかもしれない……と七海は思った。


七海と付き合い始めた黛は飲み会への誘いを頻繁に断るようになったようだ。デートの最中に酔っぱらった同期から抗議や揶揄いの電話が掛かって来る事が何度かあった。電話を掛けてくるのは専ら黛の大学生時代の同期で現在の同僚である遠野だったらしい。彼は偶然にも七海の小学校の同級生で、その事実が最近発覚したのだ。

遠慮ない遣り取りを横で聞いていて相手を知らないまま「仲がいいんだね」と黛に告げると、黛は一瞬押し黙って「ただの腐れ縁」と曖昧に否定していた。

二人の微妙な関係性は結局七海には理解できなかったのだが、取りあえず遠野の電話のお陰(?)で黛の事情が一部理解できた事自体は、正直有難いと思っている。黛自身の口から直接、七海に会うために飲み会を断っているという話題が出る事は無かったのだから。


しかし節目節目の飲み会や、上司のピンポイントな誘いなど断れないものも結構あるようで、七海の職場と比べるとやはり黛の飲み会の方が断然多い。そして体育会系と言うだけあってその時間も長く―――時には朝方まで掛かる事がある。やはりストレスが大きい仕事だからだろうか……?と七海は勝手に推測している。


今日も黛から『飲み会になった。寝てて』とメッセージが入り、作ってあった夕食一人分を冷蔵庫にしまってから、身支度をしてベッドに入った。


玲子は旅行中。龍一も不在で―――今日は何となく人恋しい。大家族で育った七海は家に人の気配が無いと言う環境は殆ど経験して来なかった。

龍一などはマンションに居たとしても防音室に籠ってしまったり自室で仕事をしたりする事が多いのだが、それでも人の気配があるだけで少し落ち着く気がするのだ。


しかしフカフカの上掛けにくるまると七海の意識は直ぐに途切れ、すんなりと眠りに落ちてしまう。彼女はあまり長く物事を気にしていられない、お得な体質だった。







気が付くと何かにガッチリと体を拘束されていた。

堅いそれをかいくぐり、携帯に手を伸ばすとまだ朝の三時だ。熱くてゴツゴツした体に抱き寄せられていて、肩口に押し付けられた頭から仄かにアルコールの匂いがする。どうやら夫は今日、帰って来てそのままベッドに直行して来たようだ。


「まゆずみくん……?おかえり……」

「つかれた」


珍しい。仕事の後に弱音を吐く黛はかなりレアだった。


「お疲れさまデス」


七海はそう呟くと、ポンポンと擦る様に自分の体に回った腕に優しく触れてあげた。


「ん……」


そう小さく声を漏らした黛の腕のいましめが、明確な返事のようにギュッと狭まった。


「七海に会いたかった」

「うん」


何かあったのかもしれない。


そう思ったけれども七海は黛の腕を擦って、黙ってされるがままにしていた。

するとやがて後ろ頭に押し付けられた黛の顔から、スースーと規則正しい呼吸音が聞こえて来た。存外安らかな寝息だったので、七海はホッとして優しく呟いた。


「おやすみなさい」


ゴツゴツした腕に拘束されて少し寝づらい気もしたが、目を閉じると直ぐに眠気に襲われる。


今日もお互い普段通りの出勤日だ。


七海は残った夕飯をどう朝御飯に活用しようか考えを巡らそうとして―――そのまますうっと意識を失ったのだった。



いろいろとお疲れの黛でした。


お読みいただき、有難うございました。

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