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(56)お泊り会で

唯が泊まりに来ました。


お風呂から上がり部屋着に着替えた二人はダイニングで、女子会をスタートさせた。

最近ついつい選んでしまうシードルで乾杯する。

チーズと粗びきソーセージ、それからアボカドとマグロの和え物―――統一性は無いが、自分達の好きな物ばかり並べていた食卓は目に鮮やかで食欲をそそる。


「え!じゃあ、お仕事辞めちゃうの?」

「うん」


ポリっと粗びきソーセージを齧りながら、唯は頷いた。


「なんか勿体無いなぁ、あんなに頑張っていたのに」


大学から本田と別の進路を歩んだ唯は、意外に自分に合った職業に辿り着いた。旅行会社で仕事に邁進し更に通訳案内士の資格取得のため、英検一級試験合格を目指し勉強を続けていた。美味しそう……と言う不純な動機でお菓子会社に就職した七海が、何となく仕事を続けているのに比べると仕事に掛ける情熱が違っていたように思えたので、彼女は余計そう思った。


「どうして辞めようと思ったの?この間までは子供出来るまで続けるって言っていたのに」

「うーん……理由を一つに絞るのは難しいんだけど……」


唯は少し視線を上げて考えを纏めるように暫し言葉を切った。


「原点に戻ったのよ」

「原点?」

「そう、自分が一番やりたい事って何かなぁってね」

「やりたいこと……それは旅行会社の仕事では無いって事?」

「勿論それも仕事をして出来た私の『やりたい事』なんだけど……私はポンちゃんと一緒にいたいって言うのが一番だったから、その本能を優先する事にしたの」

「本能……」

「もともと外国語の勉強も……ポンちゃんが国際線を担当できるようになったら、その飛行機に乗って一緒に現地に着いて行こうって言う邪な動機からだったしね。思った以上に体に合っていて勉強も仕事も遣り甲斐感じて、のめり込んじゃったけど……」

「唯、楽しそうだったもんね」

「うん……本当は結構未練はあるんだよね。それにポンちゃんは気付いてて、ずっと仕事続けなよって言ってくれてたんだ。だけどこの間ポンちゃんの職場の人にいろいろ教えて貰って、やっぱり先ずポンちゃんを支えるのが先決かなって思ったの。ポンちゃんは大丈夫って言うけれど、やっぱりパイロットって大変みたい」

「そっかあ」


七海は唯の決断力にまたしても感心してしまう。


「なんか唯らしいね」

「そう?まあ、ポンちゃんも忙しいし仕事辞めるのはちょっと寂しいけど……結局英検落ちちゃったし、この機会に本腰入れて資格試験頑張ろうかなって。それにポンちゃんママのお仕事お手伝いするのもいいかも。不規則な仕事の旦那さんのお世話を優先させてくれる会社って、恵まれた環境だもんね」

「前向きだなあ」

「んーでも、ポンちゃん不在の間かなり寂しく感じちゃうと思うんだ、仕事無くなったら。だからそうなったら七海に構って貰おうかな~と、自分に都合の良い展開を期待しているんだけど……」


ペロッと舌を出してはにかむ唯に、七海は心臓を撃ち抜かれた。


「ナニソレ、こっちこそ大歓迎だよ……!ウエルカムですからっ」

「会社入ってから忙しくて頻繁に会えなかったもんね、結婚したらいっぱい遊ぼうね!せっかく七海もこっちに引っ越して来て家も近くなったんだし」

「うん!あ~……何だか唯の結婚式が待ちきれないんだけど」

「『待ちきれない』の意味変わって来てるね?」


それから二人で大笑いして、前祝いとばかりに乾杯を繰り返した。







** ** **







翌朝帰って来た黛は、二日酔いで動けなくなった二人を発見した。


「味まずいけど、ちょっとマシになるから飲んどけよ」


と言ってスポーツドリンクを温めて飲ませる黛に、二人は目を潤ませて礼を言った。


「スゴイ……黛君が人に気を使っている……」

「うん、そうでしょ。結構黛君って人に気を使えるんだよ……」

「すごーい」

「ねー、すごいよね~」

「意外~黛君っていい旦那さまなんだなね~」

「そうなの!意外でしょー?」


「……」


全然褒めてない。


黛はそう思ったが、とにかく眠過ぎるので―――取りあえずそんな二人を放置してベッドへ直行したのであった。



遠慮の無い女性陣でした。ヘロヘロなので本音がオブラートに包めないようです(笑)

もともとこういう気遣いは黛の初期設定デフォルトなんですが、当直で疲れ切っているのに、二日酔いの妻たちのお世話を普通にできるのはかなり偉いかもしれません。


お読みいただき、有難うございました!

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