(47)黛家の日常
玲子と七海が夕食へ。短いです。
設定説明みたいな小話です。
何となくそうかもと思ってはいたが、現実を目の前にすると落ち着かない。
七海は目の前で龍一にピョンと抱き着き頬にキスをする玲子を見て、ドギマギしていた。
(そ、そうか米国暮らし長いから……)
龍一はと言うと何を考えているのか分からない顔で、玲子の行動を受け止めている。
黛が両親の目の前でも七海に抱き着いたり、キスするのを躊躇わないワケが分かったような気がした。
そう言えば付き合ったその日に黛にキスをされ、それを龍一に目撃されたのだった。その時龍一も黛もケロッとしていて、動揺してアタフタしていたのは七海一人だったのだと思い出す。
(こういうのが、日常だったんだ)
なるほど、なるほど……と、唱えて七海はソワソワする自分を何とか落ち着かせた。
龍一も黛も仕事で遅くなるある夜、七海は玲子に誘われてこじんまりとしたフレンチレストランを訪れた。
三種類のタパスで準備運動、前菜は真っ赤なパプリカに塩鱈とポテトが詰まっていて程良い塩加減のしっとりした歯触り。メインは綺麗な薄桃色の松坂ポークのグリルで、掛かっているソースがこれまた絶品だった。
最後にかぼちゃの味わいが濃厚なプリンをアールグレイと一緒にいただくと、自分が満腹になっている事にやっと気が付いた。
「うーん、苦しいです……美味しくて思わず夢中になってしまいました」
「でしょ?ついつい食べ過ぎちゃうのよねー」
得意げに微笑む玲子の笑顔が眩しい。
何と美しい四十代だろう……!と、七海は目をぱちくりさせてしまう。
もともと黛の顔の造作が好きで―――まだ女性的に見えた出合ったばかりの頃の黛にソックリ(順序が逆か?)な玲子の顔は、観賞しているだけで幸せな気持ちになってしまう。
ふと、今朝の龍一と玲子の遣り取りを思い出して七海は今日思った事を口にした。
「玲子さんとお義父さんって、ラブラブですよね」
「ラブラブ?」
「未だに恋人同士みたいで」
玲子の若々しさの秘訣は、そういう龍一との関係性にも理由があるのではないかと七海は思ったのだ。
「んー……」
玲子は七海の言葉に躊躇する態度を示した。
今朝まさにラブラブな二人の様子を目の前にした七海は、何故そのように躊躇するのか理解できない。玲子は少し考え込むようにワインを一口含んで、それから口を開いた。
「ラブラブって言うか……私が龍一さんの事を好きなだけで、龍一さんは流されているだけなんだけど」
「へ?」
「ずっと私の片想いなの。こっちからガンガン行かないと忘れられちゃうからなぁ」
「そんな事……無いんじゃないですか?」
今まで龍一と玲子について話した機会は少ないが、その言葉には彼なりの愛情が籠っているように七海には感じられた。それに夫婦でこんなに大きな子供もいるのに―――『片想い』って事は無いだろう。何かの比喩だろうか?と七海は内心首を捻った。
「そうだとイイけどねー!まあ、私は彼に付いて来るなって言われても、一生付いて行くつもりだけど」
そう言って華やかに笑う玲子は、大層魅力的で。
若い七海と並んでいても、大半の男性(黛以外)が玲子の方を見て頬を染めるだろうと……七海は確信している。
その後は玲子が話題を変え、アメリカでの面白話を披露してくれた。七海はお腹が捻じれるほど笑ってしまい、その話は有耶無耶なまま終わってしまったが。
玲子ほどの美貌を兼ね備え、ジャズピアニストとして成功した女性で―――医者にまでなった立派な(?)息子がいると言うのに、未だに夫に『片想い』していると言い切るなんて。
就職して結婚して、自分の勘違いや幼い所を把握して、やっと色々分かって来たと思っていたのに。
世の中まだまだ分からない事だらけだなぁ……と七海は思ったのだった。
後日談で龍一と玲子の馴れ初めを語らせるつもりだったのですが、大人な二人はあまりぶっちゃけてくれませんでした。龍一が語らなかったので、玲子に話させたかったのですが……無念。作者の力量不足です。中途半端になりスイマセン。
お読みいただき有難うございました。




