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(43)夫の甲斐性

(42)話の翌朝の話。短めです。


龍一が不在で三人だけで朝食を囲んだ日。

洗い物を終えてエプロンを外した七海を見て黛は固まった。


「そんな服持ってたっけ?」


ウエストに向けて斜めのタックが入ったチェック柄のワンピース。カッティングが独特で、体のシルエットがとても綺麗に見える。

スラリとした七海にとても良く似合っていて、思わず黛は見惚れてしまったのだ。


「ええと……似合わないかな?」


七海は頬を染めて恥ずかしそうに手をモジモジと合わせた。


「いや、似合うけど……」


黛が正直に白状すると、少し俯き加減だった七海の顔が上がってパアッと華やいだ。


「良かった。これ、お義母さんに買っていただいたの」

「それで会社行くのか?」

「え、うん。勿論」


もうすぐ出勤時間だ。七海は何故黛が当り前の事を尋ねるのかよく理解できなかった。

すると唐突に、黛は七海に歩み寄りグッとその体を抱き寄せた。


「うわ」


よろけてすっぽりと七海は黛の腕の中に囲われてしまう。爽やかな朝のいきなりな行為に七海は驚いて声を上げた。


「可愛い」

「ま、黛君……」


耳元で囁かれて真っ赤になってしまう。

この後の段取りをスッポリ忘れそうになる位、七海の頭に血が上った。


「可愛すぎて……他人に見せたくない」

「え?」

「違うの着て?」

「えっと」


黛のオネダリに七海が戸惑っていると、玲子がペシッと彼の後ろ頭を叩いた。


「こらっ!何を小っちゃい事言っているの」


黛は七海を抱きしめたまま、玲子の方を振り向き不満げに眉根を寄せた。


「俺の奥さんなんだから、俺の好きにしていいだろ?」


玲子は腕組みをして、背の高い息子を見上げて言い放った。


「ウチの嫁だもん。私の好きにするわよ」

「……」


母子おやこの良く分からない言い合いに、七海は口を挟めなかった。

どちらにしても、二人は七海の意志にはあまり頓着していなさそうだ。




「妻を魅力的に装わせるのも、夫の甲斐性でしょ?」




ビシッと息子の顔面に人差し指を差し出して、玲子は言い放った。

そう言われると―――黛も反論できずに、言葉に詰まってしまう。

何か言おうとして口を開け、結局何も言えず……それから名残惜しそうに七海を見下ろして。黛は渋々彼女を自分の檻から解放したのだった。




昨日会社帰りに軽く夕食を食べた後、玲子は七海を引っ張って百貨店のブランドショップに連れ込み、試着室に押し込んで選んだ服を次々に試着させた。タクシーで購入した衣装を全て持ち帰り七海のクローゼットにある服を出して購入した服と組み合わせ、二週間分のコーディネイトを決めてしまったのだ。


「先ずはこの通りに着る事。それから次の週から七海が組み合わせを決めるの。決まったら見せてね、私がチェックするから」


と教官よろしく指示を出したのだった。


黛家の『嫁の心得その2』として玲子が提示したのは『自分の魅力を最大限引き出す服を身に着けること!』だった。

玲子に言わせると七海が持っている無難な服は悪くは無いが、無難×無難の組み合わせで固めると野暮ったい……らしい。無難な服には『これは!』と思う魅力的なアイテムを加えること!と玲子先生はもっともらしくのたまったのだ。

玲子は七海にコーディネイトのポイントを説明しながら二週間のワードローブを決めてくれた。彼女の説明は大変分かり易く、ファッション講義はとても面白かったので―――七海は遠慮も忘れて素直に彼女に従ったのだった。




だから、黛が折れてくれて七海はホッとした。勿論、彼の小さなヤキモチ(?)はちょっとばかり嬉しかったのだが。


「俺の奥さんなのに……」


黛が肩を落とすのを見て―――申し訳ないと思いつつ七海は笑ってしまった。



黛家の『嫁の心得その2』でした。

今回は『俺の奥さん』<『ウチの嫁』で決着。


お読みいただき、有難うございました。

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