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(5)イケメン行動のワケ


 黛の父、龍一が九州に出張中、初めて黛の家にお泊りした翌朝、向かい合って二人はダイニングテーブルで朝ごはんを食べていた。


「あのさ」


 七海は黛がコンビニで買ってきたタラコお握りを頬張りながら、常々疑問に思っていた事を問いかけてみる事にした。

 テーブルに付こうとした時、黛が自然に椅子を引いてくれた。そこに腰掛けた彼女は、ふと聞いてみようと思い付いたのである。


「いつも思ってたんだけど―――黛君がこうやって椅子を引いてくれたり、車の助手席のドアを開けてくれるのって―――何で?」

「?―――なんか変か?」


 黛はツナマヨお握りのパッケージをピリピリと破きながら首を傾げた。質問の意味が通じていないようだった。


「変……と言うか、照れると言うか……普通の男の子は、しないと思うんだよね。レディファーストって言うの?言わなかったけど、黛君って時々妙に女の子に親切と言うか―――」

「なに?……もしかして焼いてるのか?」


 ダイニングテーブルに乗り出すようにして発せられた彼の弾んだ声に、七海は真っ赤になって否定した。ウキウキしている様子が少しだけ、うっとうしくなる。


「―――違くてっ!」


 当らずとも遠からずの所が無いわけでは無い。

 大切な女性として扱われていることがこそばゆい一方で、誰にでもこういう態度を取っていると思うとちょっとモヤモヤしてしまう気持ちは確かに七海の中に存在する。


 慌てて否定する七海にドキリとするような艶のある笑顔で笑い掛け、黛は思案するように言った。


「大して気にしてなかったけど―――言われたら、確かに無意識にやっているな?多分、玲子の影響だ」

「お母さんの……?」

「玲子が忙しくて会えない時間も多かったから、喜ばせたかったのかもな。『男の子は女の子をこうやってエスコートするんだよ』って言われて、やってあげたらすごく喜んでくれるのが嬉しくてさ。自然と身に付いたのかも」


 詳しくは聞いていないが、黛は幼い頃から玲子と離れて暮らす事が多かったらしい。

 小さな黛が一所懸命エスコートする様子を思い浮かべ、可愛いような切ないような複雑な気持ちになる。

 沈黙する七海の顔を覗き込み、心配そうに黛が言った。


「そんなに気になるか?やらない方が良かったら言ってくれれば……」


 七海は首を振った。


「ううん。私は嬉しいけど―――そうだな、他の女の子にあんまりやらないで欲しいかな。うん、嫉妬しちゃうかも」


 何となく同情心を抱いた事は告げない方が良い気がした。

 玲子と黛は、世間一般と違う親子関係を築いているが、それはそれで一つの形なのだし仲が悪いようには見えなかった。それを可哀想と名付けるのは傲慢な気がしたのだ。




 しかし選んだ言葉が悪かったのかもしれない。




 滅多に嫉妬心を現さない恋人が、拗ねたように言った一言で黛に再び火を付けてしまった。

 朝食後「可愛い可愛い」と連呼され抱きしめられ、結局寝室に逆戻りする事になってしまい―――七海は自分の言葉選びのまずさを、全力で後悔する事となったのだった。

黛が時々妙にスマートなエスコートをする理由でした。


お読みいただき、有難うございました。

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