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(29)新婚生活の始まり

更に少し遡りますが(26)話の夜の小話です。

話が前後してしまって、スイマセン<(_ _)>

ひとの無いまゆずみ家の広いお風呂に入りホカホカに温まった七海は、パジャマに着替えて寝室に入った。元は黛の自室だった部屋に天井と壁紙を変えるだけの簡単なリフォームを施して、ベッドを二人用に入れ替えている。

ウォークイン・クローゼットは元々広く、黛は半分も使用していなかったので七海の荷物を持ち込むのは簡単だった。あと少し開けていない段ボールが残っているが、明日中には整理する事が出来るだろう。

黛が蓄えている医学書を含む沢山の書籍は、使用していなかった五畳ほどの小さなスペースに作り付けの書棚を設置して収める事になった。今までほぼ書斎のような趣だった黛の私室が、それだけで二人用の部屋らしく見えてくるから不思議だと思った。


仕事が休みに入った今日、七海は最後の荷物と共に黛家に引っ越して来た。

籍を入れるのは元旦の予定で、黛も義父となる予定の龍一も仕事で不在のマンションに、何故か自分一人でのうのうと寛いでいる状況も面白いなぁと、七海は呑気に考えを巡らせていた。


「広いなぁ……」


黛家は広い。新婚二人の寝室となる以前、一人部屋として使用していたこの部屋も十四畳ほどの広さである。七海と広美が使っていた二段ベットを押し込めた部屋はちなみに五畳だ―――つまり黛家の新しい書庫と同じ広さしかない。格差を肌で実感してしまう。何と龍一と玲子の寝室には専用の浴室と洗面脱衣室もあるらしい。だから七海が使っている浴室は今まで黛専用だったと言う事だ。


「ん~~とうっ!」


軽く助走を付けて、真新しいダブルベットに飛び込んだ。

ボフンっと体が跳ねて、包み込まれるように体が沈み込む。


「今日は疲れたなぁ……」


あらたに手伝って貰い引っ越し作業を終え、妹と片付けをしながら久し振りのおしゃべり。近所の蕎麦屋に引っ越し蕎麦を食べに行って、レンタカーに乗った妹を見送った後スーパーで食材と日用品を買い足した。マンションの共同入口の解錠に手間取って、勤務終了時間ギリギリのコンシェルジュに手間を掛けさせてしまった。


黛からは、帰りはいつになるか分からないので寝ているように申し渡されている。そろそろ掛け布団の中に入って眠らないとな……と思いながら、フカフカの布団の上でゴロゴロしている内に、七海はすうッと意識の向こう側へ吸い込まれてしまったのだった。







** ** **







体が揺すられる感覚で目を覚ました。

数日後には夫になる予定の、婚約者が自分の顔を覗き込んでいた。

その優しい目元にドキリと心臓が跳ねる。


「お、目ぇ覚めちゃった?起こさないように布団に入れたつもりなんだけど」

「ん……」


どうやら七海は掛け布団の上でゴロゴロ転がっている内に、眠ってしまったらしい。ボタンダウンシャツにチノパンといったラフな格好の黛が、腰に手を当てて七海を見下ろしている。きっと帰宅直後、部屋を覗いて直ぐに寝こけていた七海に気付き、布団の中に収めてくれたのだろう。


「おかえりなさい」


寝惚けまなこで七海が体を起こすと、ニカッと満面の笑顔を返された。


「おうっ。今日悪かったな、手伝えなくて」

「いいよ~仕事だもん。あ、新君に連絡してくれてアリガト。やっぱり男手あって助かったよ」

「ちょうどアイツの体が空いてて良かったな。じゃ、俺シャワー浴びてくるから寝てていーよ」

「あ、うん」


着替えを手にしてボタンを外しながら黛が出て行った後、扉がパタンとしまった。


「う~ん!」


ゴロンと再びベッドに体を横たえて、七海は唸った。




(なんなんだ!何で黛君ってあんなに優しいの?)




嬉しさ半分、擽ったさ半分。

付き合って半年が経ち少しづつ慣れたものの、やっぱり恥ずかしさは七海の中からまだまだ消えてくれない。


昔は友達だった。

黛は七海にとって―――好みの顔をしているだけの、色々とハイスペックな所為かデリカシーに欠けてて口が悪くて……訳の分からない変な奴。

けれどもズケズケ言いたい事を言い合えるし、優しい所もあるから嫌いにはなれなかった。


『俺が好きなのはお前だ』と告白(訂正?)されて、自分の気持ちも打ち明けた。

すると掌を返したように、今まで彼の口から出て来た事の無い『可愛い』とか『好きだ』とか言う台詞が大盤振る舞いされるようになってしまった。


……と言う事は。


それまでの七海を小馬鹿にしているかのような揶揄い言葉は照れ隠しか―――若しくは口下手なゆえの誤解を招く言い方でしか無くて、それを七海が悪く取っていただけだったり?―――つまり世に言う『ツンデレ』みたいなものなのだろうか、と彼女は考える。


それが途端に『デレデレ』になってしまって―――七海は好意の海にドブドブと溺れそうになってしまう事もしばしばだ。半年経って漸くそれにも慣れ始めたけれど。それでも好みドストライクのイケメンに優しくいたわられ微笑まれてしまうと―――散々見慣れている筈なのにザワザワと胸が落ち着かない。

これから毎日顔を合わせて行けばいつかこの状況にもちゃんと慣れて行くのかなぁ?慣れないと本当に困っちゃうなぁ……と、グルグルとどうにもならない事を考えていると、パタリと寝室の扉が開いて黛が現れた。




「あれ?まだ寝て無かったのか?」

「あ、うん。ちょっと目が冴えちゃって」




すると黛がニンマリと笑顔になった。


(あ、ヤバ)


と七海が思った次の瞬間には、スルリと上掛けとシーツの間に入り込んできた黛の逞しい体が上から覆い被さって来て、両手首をあっと言う間に拘束されてしまう。


「じゃあ、ちょっと俺に付き合って運動するか。その方がよく眠れるだろ?」


七海は間近にある整った顔に真っ赤になりながら、呟いた。


「言い方が親父臭い……」

「あれ?年上好きだった?残念、同い年なんだ」


チュッと口付けられて、七海は観念する事にした。

慣れる慣れないとか悩んでいる暇はない。好きな人と結婚して、大事にされているのに何を悩む必要があるだろうか。

七海にできるのは―――優しくされたら、精一杯優しくし返す事だけだ。




(明日は早起きして、朝ごはん作ろう)




―――と決意したもののその夜更に疲れてしまい、翌朝七海は結局黛と一緒の時間に起きる事となってしまった。


バタバタと簡素な食事しか用意できなかったが、黛が満足気なのでホッと胸を撫で下ろした。黛家引っ越し後、七海の初めての夜と朝の出来事である。



サラリとこなしているように見えて、七海も結構ドギマギしていたと言うお話です。


お読みいただき、有難うございました。

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