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(19)プレ夫婦会議

入籍前の話し合い。オチ無し小話です。

 結婚後に必要な物を見繕う為、休日を合わせてあちこちお店を見て回った日。

 休憩しようと入ったカフェで、コーヒーを飲みながらまゆずみが言った。


「入籍前に確認して置きたい事があるんだが」

「なあに?」


 七海はティラミスとカタラーナを味わっている。

 少し苦味があると甘みがより引き立つのは何故だろう、と思いながら。


「籍はどっちに入る?」

「どっちって?」

「七海が『黛』になるのか、俺が『江島』になるのか、どっちが良い?」

「えっ―――」


 カタラーナに伸ばしたフォークを止めて、七海は顔を上げた。


「それ、確認必要?黛君一人っ子なんだから『江島』になったら困らない?」

「別に困らないが」

「ええ?黛君は困らないかもしれないけれど、お義父さんと玲子さんが困るんじゃない?」

「そんな事は無い。別に親子の縁が切れる訳じゃない。継がなきゃいけないような物がある訳じゃないし」


 七海も最近おぼろげながら、黛家に世間一般の家庭が持つ拘りや仕来たりが無い事が理解できるようになった。世間一般の典型、中流家庭の江島家で育った彼女には、まだまだ驚かされる事の方が多いのだが。

 しかし黛が自分の意見を押し付けている訳では無い事も理解している。

 逆に七海が思う『常識』を主張しても構わないのだ。黛は風変わりな持論を隠しはしないが―――例え正反対の意見だとしても、七海の意見にもキチンと耳を傾ける。


「私の家はお兄ちゃんもいるし兄弟も多いから―――黛君の籍に入るよ」

「そうか」

「それに何か黛君が『江島君』になったら違和感あるよ」


 黛は目を丸くした。




「お前―――ひょっとして、結婚しても俺の事、苗字呼びする気か?」

「え」




 ギクリとする七海に、黛はズイっと詰め寄った。

 七海はその美しい顔からサッと視線を逸らし、薫り高いミルクティにそそくさと口を付けた。


「もう結婚するんだから、名前で呼べよ。同じ苗字になるのにおかしいぞ」

「……」

「七海」


 名前を呼ばれチラリと七海は目を向ける。

 黛が恨めしそうな顔で見ているのが目に入り、彼女は気まずい表情で再度目を逸らした。


「何で黙っている?」

「だって……今更名前でなんか呼べないよ。ずっと十年近く『黛君』って呼んでるのに、しっくり来ない」

「よし、分かった」


 黛が妙にアッサリ引いた。

 そして事も無げにこう言ったのだ。


「俺が『江島』になる。そうすればもう俺は『黛』じゃなくなる。―――なら名前で呼ぶしかないだろ?」

「えーー!」

「俺は、名前で呼んで欲しい」

「そ……」


 七海は真っ赤になって口を噤んだ。

 黛が聞き返すと、彼女は観念したようにガクリと肩を落として小さな声で白旗を上げた。




「『そ』?」

「そ……れは、また今度。いつか呼ぶから……そんな事で苗字決めないでよ」




 七海がモジモジしながら呟くのを見て、ちょっと黛は萌えてしまったが。


 それを伝えると更に恋人が意固地になるような気がしたので、口には出さなかった。


 最初から七海を名前呼びしている黛には、どのあたりに彼女の恥ずかしがるポイントがあるのか皆目見当もつかない。

 しかしそのうちまた、自分はこのネタで七海をからかって楽しんでしまうかもしれない……と言う確信だけは、この時しっかり持ってしまったのだった。



『プレ夫婦会議・その2』もあるかもしれません。


お読みいただき、有難うございました。

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