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黛家の新婚さん  作者: ねがえり太郎
おまけ 黛家の妊婦さん
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四十六、インスタ映え

もう一つ、前話の続きです。

取り留めないおしゃべりのみのお話です。

 (あらた)の目の前に置かれた『プリン・ア・ラモード』の見栄えの良さに七海は目を瞠った。


「うわぁ、可愛いね!」


 少し高さのある杯のようなガラスの器。真ん中に美味しそうなプリンが鎮座しており、その上にはたっぷりとした生クリームと宝石のような葡萄の粒が二つ並んでいる。一つはイエローグリーン。もう一つは濃い紫色だ。プリンをぐるりと囲むように半分にカットされた黄緑色と紫色の実がキラキラと輝くばかりに交互に並んでいる。


「写真撮っても良い?」

「あ、うん」


 紳士的に断りを入れてから、新はスマホを出して撮影を始めた。


「それ、もしかしてSNSに投稿するの?」


 七海は親しい人間としかやりとりしないので、少ない人数としか繋がれないクローズドSNSにしか登録していない。それも学生時代の黛に勧められるまま登録したものだ。会社の後輩、小日向から世間でよく聞く有名なSNSへの登録を勧められたものだが、気が乗らずそのままになっている。交友関係が狭いので親しい人や連絡をあまり取らない人はメールや電話でも事足りるのだ。


「うん。亜梨子(ありす)に見せようと思って」

「新はあの……インスタなんとかって言う写真を投稿するアプリ、使ってるの?」

「『インスタログ』?」

「そう、それ!」







** ** **







 『インスタログ』は写真投稿がメインのお洒落なSNSだ。小日向に誘われたのもそれだった。


「うーん、ちょっと無理かな。マメでもないし、親しい人以外に自分の撮った写真見せたいと思わないし」


 七海がそう悩みつつ返答すると、小日向は左掌に右の拳をポンと当ていかにもピンと来た!と言うかのように真顔になったのだ。


「なるほど!あくまで『自分アピールはしない』と言う訳ですね。それがプレミア感に繋がるのか……そうか……」


 と妙に変な感じで納得されてしまい、七海は真っ赤になった。そんな大層な思想を持っている訳では無い。彼女はあまり要領がよくない、だから手を広げるのが難しいだけなのだ。


「違うよ!ただ単に面倒臭いだけだよ!!」


 と慌てて否定したが小日向に「はいはい、分かってますよ~♪」と軽くあしらわれ、複雑な気持ちになったものだ。







** ** **







 七海から見れば今時の大学生!って感じの新だ。もともとはお洒落にも敏感だし、いかにも流行りのものに手を付けているように見えたのだ。


「インスタは、やってない」

「そうなんだ」


 が、意外とネットに関しては違うらしい。確かに黛お勧めのクローズドSNSに新も登録していて連絡はそれで取っている。新もネットに疎いタイプなのかな?と七海は一瞬親近感を抱いた。しかしそれは直ぐに否定された。


「一時期やってたけど、辞めたんだ」


 新は苦い顔で口を引き結ぶと、溜息を吐きつつこう言った。彼がインスタログを辞めたのは、七海のように『面倒だから』と言った単純な理由では無かったのだ。


「投稿した写真の位置データを分析する人がいてさ。あの日の何時何分にドコドコにいたよね?って指摘してきたり、随分顔を合わせるようになったなーって思ったら、SNSの投稿見て分析して先回りしてたり。それ後から人伝てに聞いて、気持ち悪くなっちゃって」


 何だか聞いているだけで背中がゾワゾワするような嫌な話だった。その様子がアリアリと想像できてしまった七海は、遠慮がちに尋ねた。


「……それって、相手は女の子?ひょっとして」


 新は眉根を寄せて大きく頷いた。


「他にもさ、あまり親しくない女の子に遊びとか飲みに誘われたの断って友達と遊んでたら『私と遊べないって言ってたくせに他の人とは遊ぶんだ?』って嫌味言われたりしてさ。だって彼女いるのに、明らかに俺狙いの女の子の誘いには乗れないよね?」


 ウンウンと七海は大きく相槌を打った。新ってやっぱりモテるんだなぁ……と内心感心もしたものの、思い遣りをもってそれは口に出さない事にする。


「大学の友達皆で撮った写真に女の子が混じってたりした時もさ、とばっちりでその子に突っかかったりされた事もあったよ。その子はただ同じゼミの友達ってだけで俺に気がある訳じゃないんだよ?だからさ、もう誰でも見れるSNSってやってないんだ。周りに迷惑掛けるのも嫌だし」

「それは大変だったね」


 何となく(のぶ)を思い出した。彼もストーカーだの女友達だのに絡まれて大変そうだったのだ。


「……信さんみたいだね」

「えっ……」


 七海がポロリと口にした台詞に、新は言葉を失った。しかしその反応を見過ごした七海は自分で言った台詞に改めて納得し頷きつつ続きを口にしてしまった。


「だって信さんも女の子によく付き纏われてたし……」

「なっ……違うよ!俺は信兄(のぶにい)みたいな女たらしとは違うから!」


 新の過剰反応に七海は目を丸くした。七海は知らなかったが、新は女性関係にだらしなかった(と思春期の新は感じていた)信の素行にかつて反発心を抱いていたのだ。その兄と同じように言われてしまい、モヤっとしたものが胸を塞いでつい強めに反論してしまう。


「『女たらし』って……信さんは別に……女の人を弄んでいた訳じゃないでしょう?誤解はあったかもしれないけど」


 本当は細かい事は知らないのだが、一応七海は否定してみた。信の場合、おそらく愛想が良い為に誤解される事が多かったのかもしれないと想像する。良心的に考えるとたぶんそう言うことだろう、と七海は思った。ただ信にも隙のようなものはあったかもしれない、くらいのことは考えていたが、それはこの際胸にしまっておく。




「そうかもしれないけど……でも、なんかヤダ。信兄と一緒にされるのは」




 そう呟いたきり、ムッと口を引き結ぶ新。


 しかしその拗ねた様子を目にして、七海は不謹慎にも噴き出してしまった。

 ツボに入ってしまったのか、笑いがなかなか止められず苦しくなる。最後には咳き込んでしまうくらい笑ってしまい苦し気に息を整えていると、泣きそうな顔でしょげている新が目に入る。


 焦った七海は慌てて謝った。


「ゴメンね、笑って。大丈夫、新はイイ子だよ!そう……えーと、少なくとも『女たらし』ではない。それは私が保障する!」

「……」


 恨みがましい視線を向けられ、七海はフォローの言葉を繋ぐ。この場合信が女たらしかどうかの議論は横に置いておく事にする。新以上に信のことを知っている訳ではないし、そもそも新視点の彼の印象など想像つかないからだ。ここを掘り下げても、きっと良い結果にはならない。


「あっ、亜梨子ちゃんにこのスコーンの写真も見せてあげようよ。それで温かい内に食べて感想付けよう?ね?」


 と、スコーンの乗った皿をくるりと百八十度回転させて、新が写真を取りやすいように差し出した。七海の気持ちがやっと通じたのか、おずおずと新は頷いた。




「……このジャムとクリーム……両方乗せて食べても良い?」

「いいよ!たっぷり乗せちゃって!」




 と請け負うと漸く新の表情から硬さが取れた。その様子に七海はホッと肩を落とす。そして思う。食べ物一つで機嫌を良くするなんて子供っぽい新は『女たらし』なんてものにはとてもなれそうもないよね、と。そして新が単純な性格で助かったなぁ、と改めて安堵したのであった。

実は新も妙に信の事に突っかかってしまい、そんな自分に慌ててました。

だから七海が子ども扱いしてくれて、ホッとしていて乗っかってます。


ちなみにプリンアラモードの葡萄はシャインマスカット(黄緑)とニューピオーネ(濃い葡萄色)。両方とも種なしで皮つきでも食べられます。季節により添える果物を変える事になっています。スコーンに添えられた「ジャムとクリーム」と新は表現しましたが、メニュー表記では「ブルーベリーのコンフィチュールとクレームドゥーブル」となっております。本文には出て来ないままで終わる裏設定です。


お読みいただき、有難うございました。

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