(18)翌朝の彼女
(17)話の翌朝です。補足のようなお話。
目を覚ました時、七海は自分の体がガッシリと抱えられているのに気が付いた。
頭と体が心無しかダルい気がして昨晩飲み過ぎたのかもしれない……と思い至る。
靄が掛かっているように昨晩の記憶の断片が繋がら無いが、とにかく何か飲もうと七海はまずこの拘束から抜け出すために体をモゾモゾ動かした。
するとどういう仕組みかギュウっと自分に絡まる腕の力が強くなったので、観念して彼女はまずその主を起こす事にした。
クルリと体勢を変えると、整った目鼻立ちが間近になる。
(睫毛が長いなぁ)
などと呑気な事を考えていると、その瞼がパチリと開いてドキリとする。
「おはよ」
「……はよ」
歯切れ悪く返す黛は、少し頬を薄赤くしている。
熱でもあるのかと思い、七海は彼の頬っぺたと額に触れた。
「熱でもあるの?」
「……熱は……無い。お前は?体調は大丈夫か……?」
逆に心配されてしまった。
「ちょっとダルイけど大丈夫。私ひょっとして飲み過ぎた……?どうやってベッドに入ったか全然記憶にないんだけど」
「……そっか」
いつもスパスパ話す黛が取る、どうもスッキリしない口調に首を捻りつつ七海は尋ねた。
「黛君が寝かせてくれたの?」
「うん―――重かった」
「え!ごめ……」
迷惑を掛けたと慌てる七海を見て、黛は柔らかく笑った。
「嘘だよ。七海はもっと食った方がいい。ところで―――」
少し視線をずらして黛がボソリと呟いた。
「昨日の事―――何処まで覚えている?」
聞かれて七海は記憶を探った。断片的な場面が頭に浮かぶのだが何だか実感が湧かず、それぞれが上手く繋がらない。
「あんまり……日本酒飲んで……それから、うーん。私もしかして何かやらかした……?あっまさか……」
黛はゴクリと唾を飲み込んだ。
「―――吐いちゃった!?ゴメン、そんなに飲み過ぎたような気がしなくて―――」
「……吐いてはいない。ちょっと酔っぱらってたみたいだけど、見た目は全然変わらなかったし―――」
「もしかして何か迷惑掛けちゃった?!私あんまり飲み過ぎる事なくて……」
「いや全然、むしろ……」
―――言い掛けて、飲み込む。そして少し思案してから、黛は再び口を開いた。
「俺のいない処で飲み過ぎるなよ。眠っちゃうから―――他の人には少し迷惑かも」
自分以外の男の目の前で酔っぱらって貰っては困る、と敢えて厳しい口調で言った。
神妙な表情で黛が力強く言うと―――七海はそれ以上追及せずにシュンとして頷いたのだった。
七海は酔うと大胆になると判明。嬉しい様な心配な様な複雑な気持ちになった黛でした。
お読みいただき、有難うございました。