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黛家の新婚さん  作者: ねがえり太郎
おまけ 黛家の妊婦さん
123/157

三十四、カフェごっこ

七海が唯のおウチを訪問します。

お茶請け話にどうぞ( ^^) _旦~~

 午後三時、おやつの時間に本田家に招かれた七海を笑顔で出迎えたのは、唯と先日付き添いのバイトをしてくれた新だった。


「いらっしゃい!」

「お邪魔しまーす」


 玄関で出迎えてくれた唯に連れられて居間に入ると、白いシャツを腕まくりして焦げ茶の長いカフェエプロンを付けた新が、ニッコリと微笑んだ。

 どうやら元気そうだ、と分かって七海も微笑みを返す。先日セクハラで悩んでいたことを打ち明けられて、更に当の相手にバッタリ遭遇してしまって大変な目にあったが、もうそのことを引き摺ってはいないようだ。


「大学は?まだ夏休み中?」

「うん、二十日まで」

「そっか」

「七海はこっちに座ってね」


 短めの赤いカフェエプロンを付けている唯が、七海をソファに座らせた。それから姿勢を正して胸を張る。


「ではお客様?お飲み物は何にしましょうか。冷たい麦茶、温かい番茶、アイスミルクにホットミルク。タンポポコーヒーにジャスミン茶も用意しております」


 澄まして笑顔を作る様子に、慌てて七海も居住まいを正した。


「え?!じゃあ……温かい番茶でお願いします!」

「承知しました」


 ニコリと微笑む唯に、七海は目を丸くした。


「わぁ、本物のカフェみたい!」

「ふふふ、でもオヤツは一択しかないよ?」

「へー、何だろう?……あ!これお土産。被ってないといいけど……」


 七海が差し出したのは黒い箱に入ったカステラだった。


「有難う!じゃあ、一緒に開けちゃって良い?」

「うん、モチロン!」

「『銀座ハチミツ』……のカステラ?」

「うん、最近ハチミツに凝ってて。都心のビルの屋上で蜂を放して、その蜂が集めたハチミツを使っているんだって」


 色んな蜂蜜を試して行く中で、東京で養蜂を行うNPO法人のwebサイトを見つけたのだ。ビルの屋上で集めた蜂蜜で作ったお菓子がある、と知って試したいと思っていた所今回のお誘いがあって、お土産に飼ってみる事にしたのだ。


「大丈夫、今日用意しているのはプリンだから」

「あ!もしかして。……手作りプリン?」


 旅行会社の仕事を辞めてから時間の余裕を得た唯はお菓子作りに手を出し始め、最近は手作りお菓子で、七海をもてなしてくれるようにもなったのだ。以前作って貰ったプリンは、懐かしいような素朴な味で本当に美味しかった。


「うん、でも前作ったのと違うレシピでね。冷やして固めるタイプなの」

「へー、楽しみ!」


 どんな味なのだろう?と胸をワクワクさせる七海の前に、新がお盆を持って現れた。


「はい、お待たせ。冷しプリンと番茶だよ」


 木のお盆には、ぽってりした萩焼のカップに入った番茶と、ガラスの器にぴっちりと詰まった卵色のプリンに焦げ茶のカラメルが薄く乗っている。食欲をそそられる光景に、七海は目を細めた。


「ありがとう、新。本当にカフェの店員さんみたい」


 白いシャツとカフェエプロンを纏った新は、なかなかに良い雰囲気を醸し出している。丁寧な給仕に、一瞬本物のカフェにいるような錯覚を覚えるくらいだ。すると入れ替わりでカステラを切り始めた唯が、キッチンから補足の声を上げる。


「今日のプリンは新が作ったんだよ」

「え!本当?」


 目を瞠った七海は、ツヤツヤしたプリンと新を交互に眺める。その視線に照れた様子ではにかみつつ、新は後ろ頭に手を当てた。


「うん。だけど唯が付きっ切りで見てくれたけどね」

「新って結構手先が器用だよね。手際が良いんだよ」


 唯の褒め言葉に、七海は感心して声を漏らした。


「へー、意外だなぁ」


 黛も本田も、積極的に料理に手を出すタイプではない。新も実家暮らしが長いので、自分で何かを作ると言う話はこれまで聞いたことが無かった。それが突然お菓子作りに興味を持つなんて、と七海は意外に感じたのだ。

 そうこうするうちに、白いお盆にカステラの乗った皿を三つ乗せた唯が近づいて来た。


「お待たせ、七海のお土産のカステラも切ったよ。じゃあ、食べようか?」


 唯が七海の隣に座り、新も向いの席に腰掛けた。『いただきます』をして、七海は早速ガラス容器に入ったプリンにスプーンを差し込む。口の中に運ぶと、バニラの甘い香りが広がった。




「んん!わっ……美味しい!」




 一口食べて七海が思わず声を上げると、喜びが抑えられないのか新は満足気にニンマリと微笑を漏らした。トロリとした舌ざわりが、するりと溶けて行く。それでいて、まったりと濃厚な味なのだ。思わず声を漏らしてしまうのは仕方が無い。


「作るのは簡単なんだよ。でも生クリームをたっぷり使ってるから、満足感があるでしょう?」

「うん、お店で売ってるプリンみたい!スゴイね、新」

「えへへ」


 新は褒められてまんざらでもない様子だ。


「じゃあ、また作ろうかな?」

「うん、作って作って!腕を上げて亜梨子ちゃんを驚かせて上げたら良いよ」


 七海がそう言うと、唯は笑った。


「いっそ、料理と家事を極めて主夫になっちゃったら?」

「え?」


 目を丸くする新に、唯は揶揄うようにこう続けた。


「この間みたいに、職場の先輩に絡まれちゃったら大変でしょ?専業主夫ならそう言う機会も少なくなるかなぁって」

「―――」


 本屋で絡まれた顛末について、聞き及んでいた唯は軽い気持ちでそう言ったのだが。―――新は真顔になって、眉を寄せて黙り込んでしまった。


 いつも調子が好過ぎるくらいにニコニコしている新の真顔は珍しい。明るい顔をしているからすっかり立ち直ったと受け取ってしまったが、もしかするとまだ彼の中で傷は癒えていなかったのかもしれない……と心配になった唯は、七海と目を見交わし、慌てて取り成す言葉を口にした。


「あの、新ゴメンね。揶揄ったりして……」

「……アリかも」

「えっ」


 すると新は真顔のまま、呟いたのだ。


「専業主夫。亜梨子が日本に就職出来るか分からないし、仕事場が海外だったら、俺が付いて行こうかなぁ……」


 新の独白に、唯と七海は再び目を見交わした。


「そしたら、もう勉強も、面倒な就活もしなくても良いし!」

「「……」」


 続けられた言葉に、二人の目が細められた。姉達が『弟』を心配する必要はなかったようだ。新の中ではすっかりセクハラ事件は過去のことになっている。


「新、勉強してちゃんと就職しなさい」

「え!」

「亜梨子ちゃんだって就職できるか分からないでしょ?新が養わなきゃならないかもしれないし」

「えー!大丈夫だと思うけど……亜梨子優秀だし……」

「女の人は子供が産まれたら仕事出来ない期間もあるんだよ?その時はどうするの?」

「……んー」


 新は少し考えてから、『閃いた!』と言うような明るい表情でスプーンを突き出した。




「二人で実家に住む!それか、ここの客間に泊めて貰う!」

「「……」」




 新のちゃっかりした提案は、唯に即座に却下された。




 先日、肉食女子の先輩からのセクハラに悩む新に、一旦は同情を示した七海だったが―――この遣り取りを見て改めて『新は職場で苦労するくらいでちょうど良いかもしれない』などと、思い直したのである。

えーと、新が適当でスミマセン…<(_ _)>


お読みいただき、誠にありがとうございました!

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