※ モテる男 のおまけ
前話の後書きに載せる予定だったのですが、長くなったので分けました。
カレー屋さんに移動した後のおまけ話です。
カレーを食べた後、デザートが運ばれてきた。可愛らしいパフェを嬉しそうに頬張る新を眺めながら、七海は先ほどの出来事を思い出した。
『俺の大事な……ええと……(義姉の唯の親友で、そんでもって大好きな幼馴染の龍ちゃんの大事な奥さん―――なんだけどなんて言ったら良いのかな?この人に余計な個人情報もう与えたくないし……)そう、大事な人で!……それで小学校からずっと(ゲームに)付き合ってくれている人なんです!』
と宣言した新の台詞。飛ばした( )部分を七海は勝手に脳内補完していたから、その台詞が意図する所を正しく理解していた。それに周囲の視線に気が付いて動転してしまっていたから、その台詞を箕浦がどう受け取っているかなど細かい事を考えている余裕などあの時は無かったのだが、改めて振り返ってみると―――
七海と新の関係を良く知らない相手からしたら、もしかして違った意味合いに聞こえるのでは?と言うことに、今更ながらに七海は気が付いたのだ。
『俺の大事な……ええと……そう、大事な人で!……それで小学校からずっと付き合ってくれている人なんです!』
『えっ……じゃあ、その人が……?あの、でも本田君はまだ学生でしょう?!』
『学生だと何が悪いんですか?』
『その……悪くは……ない、です。別に悪くはないわよ。い、いやーね。深い意味で言ったわけじゃないわ。ただそう、珍しいなって、大変そうだなって思って』
『大変なんです。だから俺達を放って置いてくれませんか』
『それならそうと……言ってくれれば。ねぇ?私も邪魔をするとか、無理強いするとかそう言うつもりじゃなくって……』
バクバクペロリと、小さめのパフェを見る間に平らげてしまう新に向かって、七海は恐る恐る尋ねてみた。
「あの、新?」
「ん?」
「あのバイト先の……箕浦さんって人、亜梨子ちゃんの写真って見た事あるのかな?」
「いや?見せたことはないけど」
「あっ、そうなんだ」
やっぱり……!と七海は思った。
「何でそんなこと聞くの?」
すると質問の意図を掴み切れない新が首を傾げる。
「いや、ホラ。亜梨子ちゃんって金髪碧眼のパーフェクト美女でしょ?女性陣が亜梨子ちゃんの写真見てたらさ、そもそも怯んで新に迫って来ないんじゃないかなぁって。牽制になったんじゃないかなって」
「んー……そう言う場合もあるけど……」
新は口籠り、肩を落とした。
「逆にやる気出す人もいるんだよね」
「そうなんだ……!」
亜梨子のような美女が彼女だと知ってなお、闘争心を燃やせるような女性がいるとは……!余程自分に自信があるのだなぁ、と七海は逆に感心してしまった。しかし二人は現在、超遠距離恋愛中だ。やはり、その心の隙間に入り込めるのでは、と期待してしまう女性はいるかもしれない……と七海は想像する。やはり新の言う通りモテるのも結構大変なんだなぁ、と。
けれども本命のいる新に迫る女性達には、そもそも真面目に新と付き合いたいと思い詰めて言い寄って来る人間は少なかった。恋愛に縁遠かった七海には想像もできないことであったが、単なる遊び目的や、一途に恋人を大事にする新と、彼が大事にしているその金髪美女への腹いせとして、誘惑を仕掛ける人間も多かったのだ。つまりそのような一部の女性にとっては亜梨子の写真は、嫉妬や羨望、闘争心への薪にしかならない場合があるのだ。
「それにさ」
新はムスッと肘を付いて手の上に顎を乗せた。
「その流れで男性スタッフにも見せなきゃならないだろ?男どもに見せたら煩いんだよ。金髪碧眼!ってだけで変な想像されるから」
「変な想像……??」
キョトンとする七海に、不機嫌な表情を崩さないまま腕組みをして新は呟いた。
「下ネタだよ!野郎どもに亜梨子を揶揄われるのもオカズにされるのも嫌なんだ。例え想像でもね!」
「あ……な、なるほど……」
思わず七海は真っ赤になって口籠ってしまう。しかしこれだけはハッキリ確信したのだ。
(あの人やっぱり、ぜっったい勘違いしていると思う……!)
箕浦の最初の勘違い―――七海が新の義理の姉、という誤解はおそらく解消されたのではないかと思う。けれどもあの箕浦の反応……思い返せば思い返すほど、分かってしまう。箕浦は七海のことを新の彼女だと、しかもまだ学生なのにその『彼女』を妊娠させてしまったのだと誤解しているのではないだろうか?
「……あの人に、もう会わないといいね」
そう言った思いも含めて、七海は呟いた。
「ホントだよ!今日はたまたまだろうけど……この駅でこれまで会った事ないから、本当に吃驚したよ」
新は面倒臭そうに溜息を吐く。
「あの人、新がここに住んでるって知ってるの?」
「んーどうだろ?口に出したことはなかったと思うけど、事務所の書類って管理甘いから履歴書とか見てるかもなぁ。あ!でもここの本屋のこと話題にしたことはあるかな?だからこの辺に住んでるって、何となく分かってたりはするかも」
「そうなんだ……」
もしかして新に会いたくてここに現れたのだろうか?しかし、そうだとしてもあの慌てっぷりでは二度と現れることはないだろうと七海は思った。
「というか、無いと良いな……」
「ん?」
「ううん、何でも!ホラ、もっと食べて良いんだよ?気分上げて行こう……!」
「やった!じゃ、プリン頼んで良い?」
「たんと食べなさい」
「わーい、七海大好き!」
「……」
新は割と軽く『好き』という言葉を使う。子供の頃からそうだから、七海は恋愛的な意味じゃないと理解しているのだが。
この言葉遣いも誤解を招く一因かもなぁ……と七海は考えたが、漸く上がった新の気分が下げたくないので、窘める事はせずにまたしても言葉を飲み込んだのだった。
またしてもオチもヤマも無い設定説明のような話でスミマセン。
お読みいただき、有難うございました!




