(17)自業自得2(☆)
少し大人っぽい表現があります。苦手な方は閲覧にご注意下さい。
※別サイトと一部内容に変更があります。
いつもビールを頼む七海は、あまり深酒はしない。
ビールを飲み過ぎるとお腹いっぱいになってしまうからだ。
黛は考えた末、その日のお泊りにスパークリングの日本酒を何種類か用意する事にした。
ビールはアルコール度数がそれほど高く無い。
物珍しい発砲日本酒であれば、少しは七海を酔わせる事ができるのではと思ったからだ。
と言うのは、未だに最中に緊張している様子の七海にもう少しリラックスして貰えないかと考えたのだ。
「なあに、これ?日本酒?私日本酒は……」
「発泡酒だから、シャンパンみたいなもんだって。ちょっと飲んでみないか?」
「へえー、じゃあちょっとだけ……」
食器棚にあった暫く使われていないお猪口を洗って、お互いに注ぎ合った。
一時間後。
ニコニコしている七海に黛は真正面から見据えられていた。
ススっと躱そうとすると、笑顔のまま体勢を変え覗き込んでくる。
いつも積極的な黛に対して引き気味の七海が、今は前のめりの体勢になっている。嬉しいハズなのに何故か照れくさくなって黛は頬を染めた。
対する七海は頬を染めるでもなく、むしろ飲み始めより白くなっているように見える。
「黛君ってさ~」
七海がニコニコしながら、黛の両頬を両手で挟み込んだ。
「どうしてそんなに綺麗な顔をしているの?」
「『どうして』と言われても……」
ほぼ十年近く付き合って来て今更の台詞に、彼は何と答えて良いか分からない。
「……見れば見るほど綺麗だよね~~」
笑顔の七海から目を逸らす事も許されず、黛はゴクリと唾を飲み込んだ。
「それにけっこう良い体つきしているよね―――もしかしてジムか何かに通ってる?」
そう言うと七海はススス……と頬に添えた手を首筋に這わせ、それからゆっくりと胸に添える。黛は息を呑んで、掠れた声で答えた。
「いや……家で筋トレするくらい……で」
「ふ~~ん」
すると七海が更に手を下げて―――脇腹をわしっと掴んだので、くすぐったさに思わず彼は体を捻って後ろへ逃げた。そのためポスン、とソファに背を預ける形になってしまう。
「お、おい七海……」
追い詰められた黛がテーブルの上に目を走らせると、記憶していた以上に空き瓶が転がっているのが目に入った。そう言えばトイレに立って帰って来た時―――七海がやけに寡黙だった気がした。しかしその後再び普通に話しだしたので、気にも留めなかったのだが―――彼女は思った以上の酒量を摂取してしまったらしい……。
相変わらず顔が白いので、一見して酔っているように見えないのだが。
「黛くん……」
甘い声音に頭がクラクラしてしまう。
七海は満面の笑みで、ソファに背を預ける黛に覆い被さるように彼の両脇に手を付いて見下ろしている。
「だーいすき」
そうしてチュッと口付けを落とされた。
黛の頭が、一瞬真っ白になる。
無邪気に笑う七海の笑顔が再び近づいて来た。
再び優しく柔らかく口付けられる感触に黛の胸がザワリと騒いだ。
―――溜まらず彼は支配者のように上から見下ろす彼女の細い体を、ギュウっと乱暴に抱き寄せてしまう。
するとそこで突然。
相手の抵抗が―――ふにゃりと抜けた。
ドキドキと高鳴る胸をそのままに、急に大胆になった恋人の顔を覗き込むと。
スヤスヤと安らかな寝息を立てて、彼女は既に夢の世界へ旅立った後だった……。
その日彼女は終ぞ目を覚ます事は無く―――泣く泣く黛は既に部屋着に着替えていた彼女を自分のベッドまで運び、お腹を冷やさないようにタオルケットに包んだ後、居間に放置された空き瓶をキッチンへ移動して―――スヤスヤと眠る彼女の隣に身を横たえた。
往生際悪く頬を突いてみたり、耳元で呼びかけてみたりしたが熟睡している様子の彼女が目を覚ます事は無く。
黛は良い匂いのする柔らかい体を抱き込んで―――邪な動機に動かされて七海を酔わせようと企んだ事を後悔しつつ……眠れぬ夜を過ごしたのだった。
お約束の展開でスイマセン。最初の段階で結末を予想していた方も多いのでは。
お読みいただき、有難うございました。