(15)噂の真相
(14)の続きの小話です。
帰り道、手を繋いで黛と七海は駅を目指していた。
黛が心配そうに七海の顔を覗き込む。
「本当に大丈夫か……?」
「うん……あのね、ちょっと恥ずかしくて」
「?」
「さっきの看護師さん達、噂してたから。黛君が婚約した事……」
「あー、そっか」
地味だとか目立たないとか、加藤が言っていたと言う事は七海は飲み込んだ。
ただでさえ黛は加藤に厳しく接しているのだ。これ以上黛に心配を掛けて同僚と揉める種を植えるのは嫌だった。
けれども噂話の中でもう一つ、気になっていることがあった。
「ねえ……黛君って、仕事場であんまり話しないの?看護師さんとかと」
「別に話はしているぞ」
「えっと、遠野先生って人はよく話すって言っていたけど……」
「あ~~遠野、ね。アイツは……」
そう言ったきり、黛は黙ってしまった。
七海は不審気に黛の顔を見上げる。黛は気まずげに目を逸らした。
「アイツは……何?」
「いや、まぁ……俺が話をしないって言うのは、仕事に集中しているから。それに下手にしゃべって揉めるのが面倒なんだ。普段通りしているとものスッゴく嫌われるか、好かれるかどちらかだから」
確かに高校の頃の黛は、ガサツでマイペースな物言いで女子に敬遠されていた。
それと同時に、思わぬ優しい行動を示されて嵌ってしまう女子も少なく無かった。
「……黛君、出合った時に比べたら……成長したね……」
感心したように呟く七海に思わず黛は噴き出した。
「何?今更。十五やそこらの高校生の頃から成長していなかったら、逆にヤバいだろ」
「……私はあんまり変わってないかも」
「お前は最初から大人っぽかったもんな」
「それ、高校の頃から老けてたって、意味??」
「ぶはっ」
黛は溜まらず噴き出した。
口を尖らせる七海が可愛らしくて、堪えられなくなったのだ。
すると何故か七海がハッと息を呑んで、こちらを怯えたような目で見ているのに気が付いた。
「そう言えば、看護師さん達が黛君の事『熟女好き』って言ってた……まさかそれで私の事……」
真剣な顔で彼女が言うので、黛は今度こそお腹を抱えてゲラゲラと笑ってしまった。
七海が腹を立てたように、足を踏ん張り拳を固めて抗議した。
「だって、『平岩さん』ってパートの人とは仲良いって……何で笑うの?!」
「ああ、平岩さんは―――玲子と同じくらいの年齢だし、俺がちょっと変な言動をしても動じないからな。子供扱いされてるよ。それに―――」
「それに……?」
聞かれてやっと気が付いた。
平岩さんは少し七海に似ている。素っ気なくて公平で優しい。声質にそれが現れている。
「ん?まあ……」
口を濁して―――黛はニヤリと嗤った。
「もし俺が『熟女好き』だとしたら……」
その意地悪そうな笑いに七海は背筋をヒヤリとさせた。
グイッと腕を引かれて、耳元に息が掛かった。
「……この先お前はこれ以上俺好みに育つって事だな」
「~~~っ!」
その途端、脳の回路がショートして色々な事が吹き飛んでしまった。
いろいろ誤魔化されたのかもしれないと―――七海が気が付いたのは翌朝の事だった。
誤魔化された内容は後ほど小話で追加します。
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