王様だーれだ?
今日は村の人々に声をかけまくることにした。
彼らはほとんど……現状僕以外……はNPCであるため、同じ台詞しか吐かない。武器屋とか服屋とかは複雑な会話もできるが、彼らは例外的な存在である。
最新のVRMMOであっても、モブキャラの扱いの存外さは、普通のゲームとなんら変わりない。
僕は城の前にいる村人に声をかけた。
「魔王に刃向かった領主様が殺されてはや数年……この空っぽの城は魔王に見せしめとして残されているのだ……」
なんだって?
この城の主は死んでいる?しかも王様ですらなかった?
たしかに、魔王城の近くに王様がいるはずもない。
じゃあチュートリアルの王様は何者なんだ?
僕は急いで城の中に入り、王様のいる間まで走っていった。
そこにいたのは、やはり僕の知る王様であった。
小さな王冠を頭にのせ、赤いチョッキと青白のカボチャパンツを履いたヘンテコな王様。
髪は老いのせいか白く、立派なヒゲも蓄えていた。
「おや、君は勇者3号くんじゃないか。」と王様は言った。
「村人から王様は亡くなっているという話を聞いたんだが、お前は誰だ?」と僕は言った。
すると王様の顔はみるみると赤くなり、
「王様に向かって貴様とは何事かぁ!」と叫んだ。
王様の叫び声が城内に反響する。
「……なんてな。儂は王様の振りをしてただけじゃよ。君が村人の振りをしていたのと同じようにの。服は村の服屋で適当に揃えた。王冠はもともとここにあったしの。何人もの勇者見習いがここからスタートして混乱するもんじゃから、どうせなら儂が導こうと王様ごっこを始めることにしたのだ。」
偽の王様はぺこりとお辞儀をすると、キングという名前だと言った。
NPCにしろ冒険者にしろ、名前は頭の上に表示されているので、名前は既に知っていたが、まさか役名ではなくハンドルネームとはな。
「ということは、あなたもバグの影響を?」
「バグ?……ああ、影響は受けておるわい。そういえば、お前さんと同じように旅立った他の勇者はどうしたのかの?」
「 村では僕と同じ境遇の者はいなかったから、恐らくゲームオーバーになっているでしょうね」
そもそも、彼らが3回倒れたらゲームオーバーという事実を知っていたかどうかも怪しい。
僕もこの事実を図書館で初めて知ったのだから。
この世界での図書館は、世界観の補完のみならず、攻略やゲームのQ&Aなどの役割も担っているのだ。
チュートリアルでの説明があまりに不親切だから怪しいと思ったら、こういうからくりがあったのか。
まあ、しょぼいとは言え、装備品とお金を貰えたのはありがたいことであった。
通常ならそれすらなかったということなのだ。
「ちなみに、あなたのレベルは?」と僕は聞いた。
キングはにっこりと笑い、「レベル1じゃよ」と言った。