兵士は死に価値を求める。
リベンジしてきたアホ野郎を、返り討ちにするのが楽しみだという野郎もいるだろう。
しかし、リベンジという言葉も、返り討ちという言葉も、まだ人の差で収まるに過ぎないと、お互いが思っているわけだ。今回のことはそれで済まないこと。
にも関わらず、人が結託してやるというのだ。
「”魔天”のダーリヤ」
男にあんのか、女にあんのか。勇気とは無知なのか。
テロリスト達が総出するほど、ぶっ殺したい男。死すら厭わないと、豪語できる人々が一丸となって立ち向かうのは。
ロシアの軍総指令にして、ロシア最強の男。”魔天”、ダーリヤ・レジリフト=アッガイマン。
『名実をとれば、最強であろう』
そう評価される男の命を狩ることができるか。
◇ ◇
ブロロロロ
「また命を狙われてるんですか?」
「ああ、そうだ」
今日のダーリヤさん。中国マフィアのトップである伊賀吉峰と一緒に公務をする予定であった。運転手は伊賀のボディガード、王來星が務めている。
「私は命を狙われないように、しっかりと服従させるか、殺すかしますよ」
「いやいや、理由もある」
「は?」
彼等の日常的な会話。そして、日常的に繰り広げられる刺客の連続。
伊賀は確かに見えた、ダーリヤ側の後部座席の窓に向かって飛んで来る弾丸。訓練された兵士の狙撃はまさに的確であり、動く車の中にいるダーリヤの頭部にキッチリと合わせていた。
バギイィィッ
強化ガラスをすんなりと打ち破り、迫る弾丸は特別性であろう。
「それはな」
音と衝撃が発生してからの動作はあまりにも遅く、しかしながら、それでも余裕のある動作となっていた。ダーリヤの動きは精密かつ迅速を、確実で神速に成せるものであった。彼に向かって飛んで来る弾丸を優しく左手で握り掴む。強化ガラスを突き破った弾丸はいとも簡単に止まる。
「兵士のテストだ」
「私共がいるのに止めてくれません?」
掴んだ弾丸はどこも潰れているところはなく、綺麗な物であった。ダーリヤはその弾丸を正面に向ける。
「お」
運転手である王は気付く。遠い前方から放たれたロケット弾。直撃すれば、車は木っ端微塵であろう。ダーリヤを除けば死ぬ。ダーリヤは手にした弾丸を右の掌に乗せ、左のデコピンで弾く構えをとる。
「左利きでしたか?」
「どちらも使えなければならないことだ」
弾かれた弾丸はフロントガラスをあっさり貫いて、向かってくるロケット弾に合わさって爆裂した。
「あの~」
「王。左に曲がれ」
「ああ」
ダーリヤの指示通り、王は左に曲がる。少しでも、狙われるリスクを避けるなら直線に突っ走るのは格好の的だ。しかし、
「100m先に地雷がある」
「どーゆうカーナビだ?」
呆れてもなお、直進する王に。伊賀も困ったと溜め息をつく。超迷惑なんですけど?。しかし、ダーリヤは謝罪など一切なく、横の窓ガラスを破壊し身を出した。
本来なら吸い込む挙動を出してもおかしくはないこと。いや、不可能であろうことをしているのが事実であろう。
「ふぅ」
それは吐息のように軽いものであるにも関わらず、3人を乗せた車体は軽々と宙へと上がった。
地面に仕掛けられていた地雷を余裕で回避するも
「少し斜めってません?」
「うむ。まだまだ修練が足らんことだな」
伊賀の言葉と自らの体感から、ダーリヤは自然と動き、伊賀の方の窓を拳で割って身を乗り出す
「ちょっと」
「ふぅ」
傾きを正確に直す吐息。なんなのこの人。
「勘弁してくださいよ。兵士のメカニズムのために、私達を巻き込まないでください」
圧倒的ではなく、決められた格別。
それでもなお、立ち向かうには一体どれだけの
「酷い事をしたんです?」
「一々覚えてられんぞ」
憎しみや恨みなど、人は環境によって風化するだろう。
それでも成し遂げたいと願うのは一体、人に何があり、何を感じてきたか。
でも、無理だろう。たかが兵器や人間を買ったとしても、この男には勝てない。すでにこれもまた彼の掌のこと。いくら銃で撃とうと、ミサイルをつぎ込もうと、兵力で押し潰そうともできぬ存在。
「あらら、可哀想に」
武器を手に取ろうと、ダーリヤが操るのは武器ではなく、災害そのものだ。
不吉を孕んだ暗黒色の雲は、テロリスト達の上空に現れ、無慈悲の雷を何度も落とした。怒りや憎しみなど、災害の前では悲哀に変えるもの。死を覚悟したなど、生ぬるい事だと思い知らされる、人の無力さ。
「無理なんですよ。ダーリヤさんに勝つのなんてね」
復讐するという人生を歩まされた人々に、墓場の建設くらいはしてあげる伊賀であった。
「伊賀。そんなことより、地域の復興活動に人材を注いでくれ」
「故意で嵐を呼んだ人にこき使われたくないんですけど?ダーリヤさん」