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第53話 ポベートールの夢その3

やっとスピカ編完結だお


 耀は遂にスピカに追いついた。広いアジトの中でも簡単に見つけることが出来たのは乱雑に散りばめられた盗賊団の遺体をたどっていったからである。

 


 道中の遺体確認した限り、獣人はいなかった。つまりスピカはまだ仲間に手をかけていない。まだ最悪の状況ではないことに安堵していたのもつかの間、目の前には1匹の獣が立っていた。



 

 目視で確認できるのは獣人の少年、少女合わせて9人、距離にして約二十メートル。




 このままでは最悪の結末になる事は誰の目で見ても分かった。今から行われるのは虐殺であると。

 それを止めるべく耀は足を前に出そうとするが身体に違和感を感じた。手足の震えである。



 その原因は目の前の獣である。服装からスピカであることは分かる。だがスピカであることを判断できるのはそれだけてあった。


 肘、膝下からは毛で覆われており、猛禽類のよう伸びた爪、白い斑模様の美しい毛は血で染まり後ろに姿だけでも異様な雰囲気を醸し出していた。



 


 今、耀を支配している感情は純粋な恐怖。身体が生存本能からこれ以上進んではいけないと警告を出していた。



 

 恐い、今すぐここから逃げ出したい、誰が他に助けを呼んでくれ



 ドロドロとした感情が頭の中で渦巻く。



 耀のその様子を見て後ろから着いてきているだけのオネイロイが嬉しそうにニタニタと薄ら笑いを浮かべていた。



 

 1人の少女と目が合う、瞳に溢れんばかりの涙を浮かべながら、かぼそく震える声で、何かにすがるように耀に向かって一言‥‥‥



 「たすけて‥‥‥」



 その言葉を聞いた瞬間、自然と足が前に出た。自分でも信じられないくらい身体が勝手に動いた。

 目の前の困っている人を放っておけないとか、そう言う次元の話しではない。端から見れば無防備な行為に見えたかもしれない。




 しかし気がついた時には、子供達を背にしてナイフを構える。




 「スピカ!俺だ!分かるか?」




 スピカの現状を探るため、問いかける。


 

 「‥‥‥‥」




 お互い、目線を外すことなく、沈黙が続き額から汗が滴り落ちる。




 「スピ‥「ガァアアァァア!!」



 スピカに語りかけようとした瞬間、耳をおさえなければ耐えきれない程の金切り声が響きわたる。




 開戦の合図だ。




 




ーーーーーーーーーーーーー


 そして現在に至る。不規則な動きに耀の実力てまはついていける筈もなく、背中、鳩尾、首、と的確に急所に攻撃を当てられる。



 スピカの闘い方はもはや理性の無い獣であった。腕につけた武器を使うこともなく、ただの純粋な暴力。

 普通の人間が受ければ挽肉になっていたであろう攻撃を20はくらっていた。




 ナイフを刃の部分ではなく、峰で構え少しでも動きを止めれればと攻撃に合わせようとするがスピカに触ることすらできなかった。


 スピカにとって耀の動きは1つ1つがスローモーションのように見えている。もはやお互いが住んでいる時間軸が違っているのだ。




 しかし、以外にも追い詰められているのは耀ではなく、スピカの方であった。



 1番は耀の防御力なのだが、何故か分からないが耀はスピカの動きに対応しつつあった。


  


 後ろから首筋を狙おうとしても、それに合わせるかのように正面を向いてカウンターを狙ってくる。




 獣化した状態であるが、何も考えていない訳ではない、理性のある上での暴走なのだ。獣化した状態のスピカは1度、耀はと距離を置く。






 ここに来て初めて耀を敵として認識しはじめたのである。





 獣は考える。神経を集中させて目の前の男の視線を探る。




 耀の視線が一瞬だけ自分にではなく、扉の後ろを見たことを獣は見逃さなかった。バックステップをしながら扉に回し蹴りをかます。




 『君に指示を出してるのがバレちゃったか~』




 スピカにとっては見慣れた顔があらわれた。中身は既に死んでいるのたがそんな事は関係なくスピカの攻撃対象がもう1人の男にすり替わる。



 『視線を扉に向けすぎだよ~』




 オネイロイはやれやれとため息をつく。結論から言うと耀が奇跡的に獣化したスピカの動きについてこれたのはオネイロイのスキル、念話と先読みのおかげであった。




ーーーーーーーーー


 スピカを捜索中、オネイロイが耀にあることを話した。



 『多分だけど~スピカちゃんの動きに君はついていけないよ~』




 「そんな事は言われなくても分かってる」




 獣人族の身体能力はウラドから聞かされてたので本気になったスピカの動きにどう対応したら良いか耀は悩んでいた。




 『そこで君にラッキ~チャンス~!』



 オネイロイが人差し指をグイグイと頬に当ててくる。

 この仕草は女性がやることで成立するのであってむさ苦しい男に頬を触られても嫌悪感した生まれない。



 面倒くさそうに頬に当てられた指を振り払う。


 

 「ラッキーチャンスってなんだよ」

 


 『まず姿を必要としない僕が何故、人の身体を使っているのか説明するね~』



 《聞こえるかい?》



 オネイロイの言葉が頭に響く。音として伝わるのではなく、脳に直接、言葉を当てられるような感覚、初めでオネイロイと遭遇した時よりも更に強いものであった。



 『僕に攻撃してごらん?』





 「はぁ?いきなりなんだよ?」


 

 突拍子もない発言に呆気をとられる。



 『いいから早く~』


 

 隙をついてやろうと話の途中で拳を出そうとするがその動作の前に腕を捕まれる。



 「な!?」



 完全に動作を読まれた。動く前に完璧に止められたのだ。



 『これが念話と先読み、僕のスキルさ~』

 




 『僕の力を100%使うには~どうしても人の身体が必要なんだ~ある程度、距離の離れた場所から念話と先読みを使うには人の身体が必要だったわけ~』



 『僕が念話で先読みした内容を君に伝えるよ~これがあれば君はスピカちゃんについていけるでしょ~』


 

 ニタニタと笑いながらオネイロイは提案する。



 「確かにこれならスピカの動きに対応できる‥‥‥でも何でここまで協力するんだ?」



 『バランスを保つためさ~』



 気味の悪い笑みをうかべてオネイロイは笑った

  

 


ーーーーーーーーーーーーー



 『ああ~触らせるつもりはなかったんだけどなぁ~』



 オネイロイはスピカに向かって賞賛の拍手を始める。



 『やるじゃないか』



 その言葉を言いながら嬉しそうに拍手をするオネイロイ、拍手の振動と共に首の真ん中からフツフツと血が滴る。

 段々と拍手が早まり、オネイロイが大きな声で笑う。



 『アハハハハ』



 ストンっと音がして綺麗な断面図が見え首が地面に転がり落ちる。



 回し蹴りを放ったすれ違いざまの一瞬でスピカはオネイロイに2撃目を当てていたのだ。



 そして標的をまた1人の男にもどす。

 

 



 

 天井にしがみつき蜘蛛のように這いながら、耀の真上へと行き、耀が上を向いた瞬間、真上から真下へと一気に降下して上を向いている無防備な状態の腕に一撃、右手のナイフを弾き飛ばし貫手を顎にくらわせる。



 


 



 ぐちゃりと嫌な音が響く。血が滴りおち、後ろの獣人の少女の1人が小さく悲鳴をあげる。





 勝った!そう確信した瞬間、右腕に今まで経験したことのないような痛みが襲ってきた。




 ポタポタとしたたり落ちる血の発生源は獣の右腕であった。



 「ガアアアアァァァ!!!」




 苦しみのたうち回る。右腕の爪は剥がれ、指は親指以外、全て脱臼していた。



 首を落とされながらもオネイロイはまだ念話と先読みを続けていたのだ。ここにきて初めでオネイロイと耀は先読みと念話のタイミングを合わせる事に成功した。



 顎に向けての攻撃を耀はナイフの峰で受け止めていたのだ。ウラドから貰ったもう一つのナイフ、名前だけ強そうで切れ味最悪のナイフがここにきて初めで役に立った。


 




 《もう限界みたいだ~後は自力で頑張るんだよ~》



 そう言ってオネイロイからの念話が途切れる。完全な戦闘不能、実際に死んだのは盗賊の男だが後は耀の実力で純粋に勝負しなければいけない。




 スピカが痛みで怯んでいるこの勝機を逃さない。全力でスピカにタックルをかます。




 体勢で言うと柔道の肩固め。



 「ガアアアアァァァ!」



 おさえられながらもスピカは耀を引き剥がそうとするが右手を脱臼しているので掴む事ができない。



 腕に精一杯の力をこめる。




 「うおおおおお!」



 「ガアアアアァァァ!!!」




 スピカの暴れる力が段々と弱くなっていく。スピカは純粋なスピード特化方、力の勝負になれば耀にも勝機はある。




 そして徐々に抵抗する力が弱くなり、獣の呼吸が浅くなっていく。



「アァァァァ‥‥‥‥」

 



 落ちた。



 それと同時に獣化していた姿も元に戻る。怪我をしている。傷口が痛々しく残っているが元に戻った姿を見て耀は安堵する。




 緊張の糸が途切れ、気を失いかけるが最後の力を振り絞り、ありったけの魔力をこめてスピカの右手を治療する。



 綺麗に治った右手を確認すると同時に耀の意識も途切れ、スピカに重なるように気絶する。




 重なり気絶する2人の顔は何処か安堵したような、長い旅を終えたような表情をしていた。







まだまだ続くよ

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