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第52話 ポベートールの夢その2

おはよう


 先程の漫才のようなやり取りのせいか緊張感などは何処かに消え去ってしまった。

 オネイロイには聞きたいことが山ほどあるが、1つ1つ聞いていては時間がかかりすぎるので質問を1つに絞ることにした。



 「オネイロイ、何をしに来た?」



 端的に問いかける。



 『結末を見届けに~あと~バランスを保つためかな?』




 「結末?‥‥バランスってなんのだ?」


 質問をして更に謎が深まった。



 『簡単に説明するとね~‥オネイロイと言う存在は~言わば多くの集合体なんだ~その中の1つが~スピカちゃんと変に共鳴してしまってね~』


 

 理解が追いつかないような話しを淡々と進めていく。



 『このままだと敵味方関係なくスピカちゃんに全員殺されちゃうんだ~本当なら君達の物語はもっと簡単に解決するはずだったんだ~』



 

 「スピカが?スピカは街で待っている筈だ」


 



 『君が遅すぎたんだよ~スピカちゃんなら先に中に入っちゃたよ~』



 『だからバランスを保つ為に僕が手伝いに来たんだ~彼女は今、獣の夢にとり憑かれてる~かなり厄介だよ~』





 突っ込みたい事は山ほどあるが今、スピカの身に異変が起こっていて、敵味方関係ない状況にあるらしい。つまり、スピカの仲間たちも危ないと言うことだ。



 「時間が惜しい!急ごう!」



 考えている暇などい。覚悟を決め、ニーズヘッグのアジトへ走り込む。



 『あはは~思い切りの良い人間は好きだよ~』



 耀の後ろにつくようにして、オネイロイも走り出す。



 


ーーーーーーーーーーーーー




 アジトの入り口に入ると異様な空気が充満していた。奥に入れば入るほど濃くなる嗅いだことのない臭い。

 鼻腔の奥を刺激するようなむせ返りそうになるツンとした刺激臭。それの正体はすぐに分かった。




 ピチャン‥‥



 足下の水溜まりに目を向けると、水溜まりは赤く染まっており、それが血溜まりに気付くのに思考の停止から時間がかかった。思考が停止したのは血溜まりを見たからでなく。その発生原因を見たからであった。




 そこには数々の人間だった物、肉の塊がそこら中に散らばっていた。



 呼吸が荒くなり、心臓の鼓動が段々と早くなっていく。血が頭へと上っていき顔が熱くなる。




 「ハァ‥ハァハァハァ‥ハァ」


 砕けた頭蓋、広げられた腹部、えぐられた喉、どの遺体もその顔は恐怖にゆがんでいた。





 思考が段々と状況をのみこみ、意識がゆっくりと戻ってくる。それと同時に胃の奥から酸っぱい物がこみ上げてきた。



 「っぷ‥ウゲェ‥」



 耐えきれなくなり、その場で胃の中の物を吐き出してしまう。むせ返りうな臭いの中、掌で顔に当てながら壁に身体を預けて進む。



 

 死体を見たのは初めでだった。日本にいた頃、葬式でみた綺麗に着飾った遺体とは違う。

 覚悟を決めた筈だった。自分の防御力には自信があったがこの光景を見て自分が死なないと言う自信が消え失せてしまった。





 恐い。




 足を前に進めながら耀の頭の中にはその言葉がグルグルと回っていた。



 『#$&#&$$-$&#-$!』



 隣を元気な足取りで歩くオネイロイは嬉しそうに何かを話しかけてくる。しかし今、耀にはその言葉に耳を傾ける余裕などなかった。





 「ううぅぅ‥‥」


 

 ゆっくりと歩いていると前から声が聞こえた。



 「っ!」



 身体が反射的に臨戦態勢に入り、ナイフを抜く。ゆっくりと声の方向に近づいて行く。



 そこには壁にもたれ掛かるようにして座っている男がいた。



 「助けてくれぇ‥‥‥」



 消え去りそうな声で目の前の男に声をかけられた。生き残りがいた。



 ゆっくりと警戒を怠らず、男に近づく、しかしその警戒が無意味であることに男の姿を見て気付いた。



 その男は両足を潰され、腹部から右の脇腹にかけてえぐりとられていた。



 『うーん‥もってあと数分ってとこかな?』



 オネイロイが冷静に男の状況を口にする。



 「おい!何があった!」



 死にかけの男に肩を掴むようにして問いかける。



 「化け物‥‥‥」



 その言葉を最後に男は動かなくなった




 あの可憐な少女がこれをやったのか、耀は現実を受け止めきれなかった。しかし、このままではスピカの大切な人達を自分の手で殺めてしまう。



 考えている暇などない、先程の情けない姿とは打って変わって、耀は大きく深呼吸する。



 「気持ちを切りかえろ!俺!」



 自分に言い聞かせるようにハッキリと声に出して気合いを入れ直す。



 






おやすみ

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