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第49話 ヒーローは遅れてやってくる


 ニーズヘッグの牙………俺が所属している盗賊団は地大陸ではそこそこ有名な盗賊団。総合的にみれば小物の集まり。考えも小物。下卑た感情を集めたまさに屑の集団。

 団員の実力は一流とは言えない。しかしこの盗賊団が恐れられる真の理由は恐怖の植え付け方である。




 人は1つの恐怖を植え付けられるだけでも思考が固まり正常な判断ができなくなる生き物である。ニーズヘッグの牙はそこにつけ込むのが非常に上手い。





 しかしボスは団員の実力に限界を感じていた。そこで兵士をつくりだす考えに到達した。





それも恐怖で支配した従順な兵士を………。







 一定の年齢を過ぎると恐怖の植え付けに時間がかかる。そこでなるべく小さな子供を連れ去りニーズヘッグの兵士として育て上げる。






 最初は人の子供30人で試した。しかし人の子供は団員達が予想していた以上に脆かった。3か月で生きていたのはたったの2人だけ。そこで一人の団員が言った。




「獣人を使おう……」





使える情報をすべて集め大金をつぎ込み人攫い専門の裏ギルドに獣人族を数人捕まえるよう依頼する。





1ヶ月後に連れて来たのは獣人族最強と言われる雪豹族の子供だった。






どんな環境でも生き抜く獣人族の頑丈な身体。まさに俺たちが求めていた商品だった。流石は裏ギルド。大金をつぎ込んだだけあって仕事以上の働きを見せてくれた。







だが俺はあの日の自分の発言を今になって後悔することになった。





-------------





何気なくアジト内を歩いていた時なにかむせ返りそうな激臭に襲われる。嗅ぎ覚えのある臭い。だがここまで密集したのは初めてだった。




曲がり角を覗き込むと床には大量の赤い液体と見覚えのある顔をした仲間達の残骸があった。





「……………」



まるで金縛りにでもあったかのように固まってしまった。




その瞬間、もの凄い勢いで何かの塊が動く、法則性のない何かがはじけたような勢いで……





それが俺の横を走り抜けた時、その塊が何かに気付く。連れ去ってきた子供たちの一人。ニーズヘッグの牙の従順な兵士。





「スピがっプァォ!」





名前を呼ぼうとした瞬間、転ばされた。転んだと言うよりはとばされたと言う表現が正しいかもしれない。男の体は元のいた場所から十メートルほど離れていた。






転倒したとき頭を強く打ったせいか意味の分からない気持ち悪さがこみ上げてくる。




それと同時に転ばさせたと言う恥。その恥の感情はスピカへの怒りに変わる。




腕に力を込め急いで起き上がろうとしたとき不思議な光景を目にした。




十メートルほど先に見えるのは何年間も見てきた見覚えのある足がみえた。





何かがおかしい……自分の身体を見るのが怖い。段々と唇の色が紫色に変色していく。手のひらを見るとべったりと赤黒いものがこびり付いている。






下半身に目をやると鳩尾から下がなくなっていた。





だが男は騒ぐわけでもなく一瞬で自分の状況を理解する。





『俺は今から死ぬのか……』




思えば楽しいと言えるような人生ではなかった。田舎町のチンピラからニーズヘッグの牙まで成り上がり戦闘員として活躍はできていないものの大分この団に貢献できたのではないか………人の不幸の上で生きてきた。人生最後と言う場面で男は今までの自分のしてきたことを少しばかり後悔した。




『まっとうな生き方もできた筈だったな』





今までは自分のことしか考えてこなかった人生。最後くらいはこの団の為に何かを残したい。そう決意して男は大声で叫ぼうとした。




何を叫べばいいかわからない。だが言葉にしなくても俺の想いは皆に伝わる。





「あっブゥっ!……」




しかしその思いは誰にも届くことはなかった。叫ぼうとした瞬間、男が最後に見た光景は足の裏であった。









「へぇ~……人ってこんなになってもまだ生きてるんですね……危ない危ない………あ!……も~お!汚れちゃったじゃないですか!」





まるでバスマットで拭くかのように雑に足についた血を死体の服に擦りつける。







「はぁ………何だか今日は調子がいいですね……」








「うふふ」




スキップをするかのように軽やかに進む。まるでそこには死体など存在していないかのようにスピカは楽しげに笑っていた。







また一人また一人と確実に数を減らしていく。スピカは憎悪だけで動いていた。今までたまっていた憑きものが晴れたかのように軽やかに蹂躙していく。





「うふふっ」






喉をむしりとられた男が叫ぶ





「コポボォォッ!」





何十個も乱雑に転がされた首の表情はどの顔も恐怖に歪んでいた。スピカはその残骸を見て年相応の少女のように笑った。その姿はまるで可憐な花のような………








「クスクス」





しかしスピカは自分の異変に気付いていない。透き通るような白い手足は足は膝下や肘まで毛で覆われ、綺麗に整っていた爪は猛禽類のように伸びていた。





段々と身体が獣に近づいている。しかしスピカはその状況に気付く余裕などないくらいに楽しんでしまっていた。





蹂躙する喜びを知っていまった。獲物を狙うハンターのように特に意味もなく目に入った生き物を刈りつくしていた。







「頭が…………」





-----------





頭が…身体中が、熱い……血が沸騰しそう。







私は何をしているの?






何をやりたかったの?





身体は軽いのに頭が重い………






一つ一つ雑草を引き抜くように命を刈り取る……






気持ちが悪い………でも不思議と気分が高揚する







--------





大分数を減らしたと思っていたがまだ集団で固まっている奴らがいた。





後ろの奴らは隅で脅えている様子だ………卑怯者め






「ミナゴロシダ………」





喉笛をちぎって腸を引きずり出してやる………






一人を摘み取ろうとした瞬間、また一人私の後から雑草が飛び出してくる。






「※※※※※※※」





何か私に話しかけているように感じる………誰だこいつ?







「モウドウデモイイ」






「*********!」




何か必死に命乞いをしている……滑稽だ………今までどれだけ私が苦しめられたかおもいしらせてやろう。







「■■■■■■■■■■■■■!」





もう私も自分で何を言っているのかわからなくなった。






私の意思で自分を制御することができない。勝手に身体が動いてしまう。







地面を蹴る、壁を蹴る、天井を蹴る、まるで弾け飛んだゴムボールのようにスピカは跳躍した。





狙うは首筋、一瞬でこの男の命を刈り取るつもりでスピカは一撃を放った。







だがその一撃は首を跳ねることはなくその一歩手前で止められていた。






男はスピカに囁く。





「俺がお前の大事な物を全部守ってやるよ」












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