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第39話 揃えましょう

毎日更新の目標が…

武器屋を目指して歩き出す。スピカが何か言っているような気がするが、気にしたら負けだ。回りの視線もひそひそ話も何もかもが気のせいだと思え………


「それで…子供は何人ほしいですか?」


「まだその話してたの!? いい加減にしろよ!回りを見てみろ! もう完全に変質者を見る目だ!」



スピカの暴走が止まらない。もう無視出来ない領域まできている。このままでは俺は完璧に奴隷にハードコア変態プレイを押し付けようとしているヤバイ奴になってしまう…



俺はスピカの口を手でふさぎこれ以上悪化しないよう強制的に黙らせる。



「フゴフゴフゴ!」


スピカが顔を真っ赤にしてジタバタと抵抗している…そして5秒もしない内に…


「キュ~~」


気絶した。


こいつは一体何を想像していたのか今の行動でオーバーヒートをおこしてしまったようだ。どれだけ暴走していたんだよ…



気絶したスピカを背負い、武器屋へと歩きだす。あぁ~スピカって着痩せするタイプなんだな~と背中に伝わる幸せを感じながら

歩く。


スピカの体型はパッと見、スレンダーな印象が強かったのだが冷静になって背中の感触を感じてみると手のひらから少しはみ出るくらいのサイズがあるのではないかと思われ、引っ込む所は引っ込んで出るところは出るといった非常にすばらしい体型である。



「スピカも黙ってればカワイイタイプなのにね…」


どうやら異世界は残念美人が多いようだ。



しばらくするとあの服屋の店員に聞いていた名前の店が見える。

ファンタジーにありがちな外装をした店でちらほらと男心をくすぐるような武器たどが飾ってある。



「ここがマルクスか……おい。スピカ!起きろ~~」


軽く揺さぶりながらスピカに声かけをおこなう。


「ん~~あと5分……」


あらカワイイ寝言! イカンイカン! 目的を忘れるな…



「寝ぼけるなー!着いたぞスピカ 武器屋だ!」


スピカの頬を左右に引き伸ばし無理やり起こす


「にゃふ! ひひゃいれふ! 」


「やっと起きたか…」


「あれ?私いつの間に……? ん?ん~~はっ!」


何かを思い出したようだ…スピカの顔が赤くなるのはもう見馴れたな…


「あの……ごめんなさい……また私…」


下をむいてモジモジと謝るスピカはとても愛おしく感じなんだか守ってあげたくなるような不思議な気分になる。


「もういいよ…大丈夫だからさ…」


うん…もう2度とあんな目にはあいたくないな……もっと場所を選らんでくれれば…いや…そうじゃなく……うん


「はい! それでは行きましょう‼ 」


空気を変えようとしてくれているのかスピカのテンションが一気に上がる。


「あぁ。 行こうか」


店の扉を開けると中には更にファンタジー仕様になっており男としてはこれを見せられてはしゃがずにはいられない。ドラゴンの鱗を使った剣に漆黒の弓、実用性皆無の大剣、派手な装飾のナイフなどなどより取りみどりだ。


「うぉー!カッケェー! スピカ見てみろよ‼」


少年のようにはしゃぎまわる俺を見てスピカは…



「はい…そう…ですね?」


少し引いていた…何でさ! カッコイイじゃん‼


「えっと…武器屋は初めてですか?」


その時、俺は気づいてしまった…この世界では武器なんてあって当然の代物なのでこんな大きなリアクションをとるやつなんていない……例えるなら東京の街中で「凄いよ!ビルにテレビがついてる!」と同じくらい恥ずかしい行為なのだろう。



「いやー…ね!…ここの武器があまりにも素晴らしいからさ!」



「はぁ……」



結局何を言おうが引かれることにかわりはありませんでした。カウンターに座っているスキンヘッドの髭モジャおっさんが上機嫌で俺を見ている。気持ち悪いくらいニヤニヤしている……やめろ!おっさん微笑まれても嬉しくねぇよ!



「あんちゃん!いい趣味してるじゃねぇか!この辺じゃ珍しいぜ!武器見てはしゃげる奴!」


やはりこの世界では武器を見てはしゃいでる奴は痛い奴扱いされるみたいだ。


「俺はマルクス、この武器屋の鍛冶と店主の両方をやっている」


「俺は耀…田舎者で世間に疎いとこあるけどまぁ気にしないでくれ…」


「テルか!いい名前じゃねぇか! 俺はお前が気に入ったよ!何でも好きな武器選びな! 1つくらいならプレゼントしてやるぜ!」


このおっさんは良いおっさんだ!


「いいねぇ~~‼ 武器屋なんてあって当然と思われてる世の中だ。 お前みたいに新鮮なリアクションをしてくれる奴ぁ珍しくてなぁ」


プレゼントと言ってもどれくらいの値段までOKなのだろうか、あんまり高いのを選んでもイヤらしいからな…


「テルさん! チャンスです!一番高いやつを選びましょう」



「遠慮ないな!?」



まぁいいか…武器をみよう。魔法だって打ち続けることが出来るわけじゃない。何か俺に合う武器はないのか……大剣…は実用性がないし…でも!大剣のロマンを捨てきれない…どのぞの狩ゲーみたいに振り回したい…


試しに大剣に手をかけると…



ズシッ



「おぉ!何だこれ!重すぎるだろ…」



「そんな大剣振り回せる奴なんていねぇよ。 仮に持てたとしても隙がでかすぎて実戦じゃ何の役にも立たないね…」



「じゃあ何で作ったの?」



「ロマンさ‼」


俺は無言で親指を立てる。

コイツは中々男のロマンというものを分かっているな。


「ほう…お前もイケル口か…今日は大サービスだ!俺がお前に合う武器を選んでやるよ!」


「テルさん!私にも‼」


「お前ほんと遠慮ないな!?」


なんやかんやでスピカの武器もサービスしてくれることになった。なんだか申し訳なくなってきたな…


…マルクスがめっちゃくちゃ幸せそうな顔で武器を選んでいるのでこれはこれで良いのかもしれないな…



「まずはそのベッピンなねぇちゃんからだな!多分だがあんたは武器を持つと弱くなるタイプだ。 素手での戦いで邪魔にならないように手足の小手で良いだろう。」


流れるような作業でスピカの装備を選び始める。凄いな…見ただけでスピカの戦闘スタイルを見抜いたのか…



「これなんてどうだ?」


マルクスが選んだのは普通の銀小手であった。何の特徴もない只の小手、まぁ無料でくれるのだから文句は言えないのだが期待はずれだな……


「あんちゃん 今何の特徴もない只の小手だと思ったろ?」


ニヤニヤしながら俺を見る。


「この小手にはちょっとした仕掛けがあってだな…」


マルクスが自分の手足に小手をつけ始める…


「ある一定の速度でこの小手を着けたままふると…ふんっ!」


マルクスが大振りの右ストートを放つ。


しかし…


「あれ?…ふんっ!…ふんっ!」


何も起きなかった…



「おかしいな~設計上可能なはずだったんだが…スピードが足りないのか…うーん…」


一人で悩みはじめる。一体俺に何を見せようとしたのだろうか…


「スピードが足りないって言うならスピカは問題ないと思うぜ。なぁスピカ?」


「はい!速さだけには自信があります!」


スピカに試して貰うべく小手を着けてもらう。しかし枷が邪魔をして右足だけ小手を着けることが出来なかった。仕方がない…何時かは外せる時が来るさ。


スピカが腕と左足に小手を着ける。


「嬢ちゃん!おもいっきり腕を振るんだぞ‼」


「はい!…すぅ…はぁ…すぅ…」


集中する為に目を閉じ深呼吸をしはじめる。なんだか見ている俺まで緊張してきたな…


「ガァ!」


腕をフック気味に降る。その瞬間あまりのスピードにスピカの姿がブレる。


ピュン!



音がした瞬間、腕の小手から鋭い羽のような形をした刃が出ていた。どこから出たんだ?それにしてもあの刃は切れるのだろうか…刃としての役割を果たせるのか不安になるくらい透明で鋭い。まるでガラス細工のようだ。


そしてしばらくの静寂が続く……カンッ!


店に飾ってある花瓶が横に別れる。切り口を見ても最初から切り離されていたかのように綺麗だ。



「これは…」


切った本人すら自覚がない。


「いやー!凄いな嬢ちゃん‼こんなに切れのあるパンチ見たことねぇや! この武器は多分、嬢ちゃんにしか使いこなせないだろう。こりゃ良いもん見せてもらった!」


―――――――――――


【鑑定】


インビシブル 生息地 不明


姿を確認した者はおらずどのような生き物かも謎である。ただ羽のようなものを落とすことから鳥の姿をしているのではないかと研究者の間でも話題となっており、その羽に切り裂けぬものは無いと言われている。羽は一枚で金貨50枚で取り引きされている。



―――――――――――



羽を鑑定してみるとなんだか凄いことが書いてある。説明を読むだけで絶対に安物で無いことが分かる。これは小手1つだけでも白金貨が数枚はいきそうだ。



「こんな高価な物貰っちゃって良いんですか?」



「使いこなせない奴に売るなんて勿体無いだろ?」


マルクスが微笑む。アンタ最高だ!



「スゲーよマルクスさん! 俺は? 俺は? 俺にもなんかカッコイイ武器を選らんでくれよ!」



キラキラと少年のような目をしてマルクスを見つめる。



「おぉ~いいね~その目‼ そんなに楽しみにされてはいい武器を渡したくなっちまうじゃねぇか! 待ってろ! 今あんちゃんにお似合いの武器見繕ってやらぁ!」


二階へと走りさるマルクス。ワクワクしながら待機する。こんな気持ちは少年の頃に初めて親に買ってもらった誕生日プレゼント以来かもしれないな…



「おう! あんちゃん‼ いくつか持ってきたぜ!」


ゴトゴトといくつが武器を机におく。不思議な形をしたナイフ、ねじれており刺すことに特化したナイフ、三日月型のナイフ、などなど……


「全部ナイフじゃん‼」


何で? 期待してたのと違いすぎるんですけど!?何かの嫌がらせなんだろうか?…


「まぁまぁ…そう言うな、理由はあるぞ!」


「なんだ?」


「お前、剣、似合わない。」


そんな片言で残酷な真実をつげなくてもいいじゃん‼


「俺としても本当は勇者様みたいな伝説級の武器持たせてやりたいがお前には似合わないしどちらかと言えば盗賊っぽいからナイフか短剣かな?ロマンだけじゃ補えないものがあるんだよ…」



「そろそろ泣くよ俺!?」


「まぁタダだしいいだろ?何か選べよ…」


「グヌヌ…そう言われると何も言えないぃぃ…」


直感で透明な珠がはめ込んであるナイフをとる。見た目は真っ白。特に選んだ意味は無いのだが……なんとなく?


「ほぉぉ!それを選んだか…いい目をしているな! 正直な話それを取られると大赤字なんだがまぁいいだろ!俺は俺の選んだやつにしか武器を売らないしあげるのなんてめったにないからな感謝しろよ!」



まじで?そんな当たりを混ぜてたの?


「外で試してみるか!」


腕を引っ張られ店の裏庭に連れて行かれると…



「取り合えずそのナイフを持った手で魔法を使ってみろよ」


言われた通りに火魔法をつかってみると…火魔法は発動することなく魔力が何かに吸われた感覚だけが残った。



「何もおきないぞ?」


「へへっ! ナイフを見てみろな!」


ナイフを見てみると中心にある珠の中に火が灯っている。


「なんじゃこれ!?」


「説明が面倒だ…取りあえずあの薪を斬ってみな!」


その言葉に従い薪を斬りつけてみふと…


ボォ!


なんと切り口から火が出てきた。これはもしやRPGとかにありがちな魔法剣というものではないか?剣ではなくナイフだけど…

その後も水、風、などの魔法を試してみたがどれもインパクトにかける。


「うーん…それにしても威力がないな…お前…魔法の才能ないだろ?」


残念な物を見る目で俺を見る。…むかつくな…間違ってないけどさ!


だが俺にはまだ試してないアレが残っている。



両手でナイフを持ち混合魔法を使う。1度使えばコツが掴めるので前回のように時間もかからない。魔力を調整して小さな爆発をおこす準備をする。


真ん中の珠が赤く振動している。これは大丈夫なのか?もしかして危険なことをしているのではないか?少し不安になってきた。



ええい!男は度胸だ!やってやるよ‼


「うぉぉぉぉぉ!」


両手を突き出しナイフを近くの木に突き刺す。ナイフは根元までズブリと入る。木に刺しているというのに全く力を入れることなく突き刺さる。それだけでもこのナイフが業物だということがわかる。


「どうだ!」


………………何もおきない………



「ぷっ…」


誰だ今笑ったやつ!怒らないから出てきなさい‼


「プフプフッ……テルさんが…プフッ…うぉぉって……プフッ」



お前かよ‼ 笑い方まで可愛いなおい!



「くっ…」



恥ずかしさから無言になりナイフを抜いてその場から立ち去ろうとした瞬間。



バァァン!


目の前で木がはじけた。


「ぐもぉぉぉぉ!」


体が爆風で中に浮く。少量の魔力しか込めていない筈なのだがこれは威力が高すぎる。



「あれ?…え?…マルクス…これってどういうこと?」




「なんだこれ?」



「お前もわかんねぇのかよ‼」


―――――――――――――――――


「実はそのナイフをつくったのは俺じゃない…昔、魔大陸で鍛冶の修行していた時に師匠からこっそり盗っ…譲り受けたものだ。なので詳しい機能はしらんのだ」



「お前絶対にそれパクってきた物だろ!パクったものを人にあげるとかどんな神経してんだよ!」



「俺は使いこなせなかったからな…持ってても意味ないしな…やるよ」



「異世界に来てやっとマトモな奴に会えたと思ったのに…」



「まぁまぁ~そう言うなってタダであげるからよ」


このおっさん…良い奴から一気に最低な泥棒に成り下がりやがった。自分から好感度さげる奴、初めて見たよ…



取りあえず一通りの装備を揃えることができたので良しとしよう。店主に一応お礼を言って店をでる。



「さてと…なぁスピカ」


「何でしょうか?」


「取りあえず宿を探そうか」



しばらくの沈黙。この子絶対勘違いしてるよ…



「えっ…えっと…よろしくお願いします」




やっぱりね!



「そっちの話じゃねぇよ!もう飽きたよこのくだり!そうじゃなくて!……話をしよう。」



「何の話ですか?」




不安そうな顔で俺を見る。



「スピカの事情についてだ」




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