第37話 目的の場所へ
あれから何とか猫耳少女をなだめて落ちつかせることに成功した。ちゃんと僕の童貞は守りきることが出来ました!本当だよ?
猫耳少女は冷静になってから自分のやろうとしていたことに気づき、顔を真っ赤にしてうつむいている。いくらお礼がしたいとはいえ、あれはやりすぎだろう…
「あのさ…」
「ひゃい!」
突然話しかけられ、驚いたのかぎこちない返事を返す。やはり恥ずかしいのか俺の顔を直視することが出来ずにいる。
「自己紹介がまだだったよね? 俺の名前は耀。20歳。訳あって旅をしているんだけど…えっと…君の名前を教えてくれるかい?」
なるべく猫耳少女を警戒させないように優しく声がけをする。自分でも驚くほど紳士的な対応が出来ていると思う。
「はい! えっと…獣大陸出身、雪豹族で名前はスピカと申します!16歳です‼」
「成る程、スピカか…それでその雪豹族って言うのは?」
ウラドから習った一般教養にそんな獣人族の名前なかったぞ?猿人族やら犬人族とかはならったのだか…
「やはり知りませんか…かなり珍しい一族ですので…私達、雪豹族は人里離れた山奥に住んでいる少数民族なのです。数も他の民族と比べかなり少ないので地大陸の方が知らないのは当然かもしれませんね…」
なるほど段々と話がみえてきたぞ…珍しい一族、奴隷、あしの枷、泥だらけの格好……これは絶対に厄介事だ。
「なぁスピカ。君がなんでそんなにボロボロなのか教えてくれないか?」
「それは……」
「どうした?何か言いにくいことでもあるのか?」
急に様子がおかしくなってきたぞ?一体何があった?
「話せばテルさんにまで迷惑がかかってしまいます。」
やはり面倒事のようだ…あぁ…異世界に神様がいるなら教えてくれ、あんた俺のこと嫌いなの?何故俺はいつもいつも面倒事に巻き込まれてしまうのだろうか、だがここまで聞いておいて、はいわかりましたなんて言えるかよ…これでも一応勇者だしな……
「大丈夫だ!俺が力になるよ。俺は…」
この子の力になろう。カッコ悪いことなんて出来ない。あいつらと約束したからな…
「俺は勇者だ!」
「嘘をついてはいけません。」
そこそこ冷たい眼差しを俺にむける。
「え!何で?」
結構ドヤ顔で言っちゃたよ?普通に恥ずかしいんだけど…
「勇者とは国から正式な儀式を通して召喚される魔王討伐の先鋭部隊と聞いております。このような場所にいるはずがありませんよ…ユウシャニモミエナイシ(ボソッ
最後聞こえてたぞ!俺そんなに勇者っぽくない?いい加減泣いちゃうよ俺?
「あ―えっと…じゃあ只の旅人でいいや…遠い田舎から来たから結構この辺に疎くてさ…とりあえず近くの町に行きたいんだがどうすればいい?」
もう勇者と言うのは止めよう…俺が悲しくなるだけだから…スピカの事情は町についてからゆっくり聞けばいいか…
「近くの町ですか……はい…近くまででしたら…私が案内しますよ…」
「町に行きたくないのか?」
事情と関係しているのだろうか…
「いえ!大丈夫です‼大丈夫ですから…気にしないで下さい!えっと…ここから一番近い町ですね!行きましょう!」
「いや今日はもう日が落ち始めてるから明日の朝、出発しようか」
これは町に何かあるな…
「はい!えっと…それでは明日の朝に‼それでは私は外で休みますので!」
スピカがテントから出ようとする。
「いやいや女の子に外で寝かせることなんて出来ないよ!俺が外で寝るからさ!スピカがテントで寝なよ!」
女の子を外で寝かすとか男じゃねぇだろ!
「そんなワケにはいけません‼テルさんがテントで寝て下さい!」
「いやいやスピカがテントで寝なよ!」
「テルさんが!」「スピカが!」
「分かりました‼それじゃあ私がテントで寝ますね‼」
「スピカが!ってエエエエ!ここってあれじゃないの?じゃあ二人で一緒寝ようみたいなラブコメ展開じゃないの?何か間違えた?あれ?」
「?」
そんな首を傾げてないでさぁ~可愛いからいいんだけどね…ラブコメ展開起きないな…実は異世界ハーレムとか結構憧れてんだけどね…
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結局俺は外で焚き火をしながら一夜をすごしました。こっそりテントを覗いてスピカの可愛い寝顔を見ていたのは俺だけの秘密です。それにしても野宿って結構辛いですね!
「ふぁ…あっ!テルさんおはようございます!朝ごはんにしましょう‼」
可愛いアクビをありがとう! もうお腹いっぱいです‼ まぁ食べるんですけどね‼ てか俺の非常食なんですけどね! 意外と遠慮ないのねこの子…
「パンくらいしかないけど大丈夫?」
「はい!大好物です‼」
なんだかペットでも買った気分だよ…
朝食をすませたあと町にむかって歩きはじめる。
「なぁスピカ、近くの町はどこにあるんだ?」
「ここから歩いて三時間ほどでニーブルムと言う町があります。そちらにむかいましょう!」
「よろしくな!」
ニーブルムに行くまでスピカは怯えた様子で回りをキョロキョロと見渡し草むらから音がするだけで声をあげて驚いていた。
道中の魔物には驚く様子もなく冷静に対応をしてくれたのだが。そこで分かったことがある……それは……
ガルゥゥゥ‼
群れからはぐれたブラッケスト ウルフがあらわれた。1頭だけだが危険なことにはかわりない。
「ブラッケスト ウルフだ! スピカ!気をつけ…」
その瞬間スピカが戦闘体勢に入り四つん這いになる。物凄い勢いで走りだしブラッケスト ウルフの頭にむかって引っかくようにして右腕をなぎはらう。
「ガアァ‼」
パンッ!
何かがはじけた音がした。一瞬の出来事であった…目で確認することが難しい程のスピードでスピカはブラッケスト ウルフを瞬殺したのだ。
ゴロゴロ…
ブラッケスト ウルフの頭が俺の足下に転がってかる。既に息絶えた頭が俺を見つめている……怖いよ‼
スピカは物凄く強い…
「テルさん! 見てください! 新しい食材が手に入りましたよ♪ これでお昼は困りませんね♪」
何でそんな笑顔になれるの君!?怖いよ!
「君はあれだね……うん…」
「どうかしましたか?」
「何でもないです…」
スピカのスピードは異常だ。獣人は物理限界を超えた動きが出来ると聞いていたがここまでとは……とりあえずステータスでも見てみるか。
【鑑定】
――――――
スピカ・クロイツェフ 16歳 雪豹族 獣大陸 アルガヌス雪山
LEVEL18
体力480
魔力30
力350
防御450
すばやさ1540
器用120
運45
スキル 獣化 気配察知
―――――――
一瞬、見間違えかと思ったがこの子は身体能力がずば抜けている。特にスピードがヤバイ、これは予想外だ。獣人族とは皆こんなに強いのか?もう勇者必要ないじゃん!
「スピカって強いよね…」
「そんなことないですよ、私なんて村では下から数えた方が早いくらいですから…」
どこか遠い目をしている。下から数えた方が早い?嘘だろ……獣人ってヤバイな…
スキル欄を持っている人は久し振りに見たな…気配察知はなんとなく分かるのだがこの獣化ってなんだ?……あとで聞いてみるか…
あれから二時間ほど時間がたった。心なしかスピカの歩く速度が早いような気がした。
「テルさん!見えて来ましたよ!あれがニーブルムです。」
勇者の旅で、一番最初に訪れた町は水が綺麗な西洋の雰囲気をもったまるで絵本の中のような町でした。




