第35話 ブラッケスト ウルフ
汚い短剣をブラッケスト ウルフに向ける。持っている俺でさえも不安にさせるような代物だ。安心感がまったくない。普通は武器を持っているだけで強くなったように感じる筈なのだが…
見れば見るほど役に立たなそうだ。
「グォォォォ!」
怯む様子もなく群れの中から数頭、左右に別れてに走ってくる。群れが1ヶ所にいてくれればまだなんとか対応出来ていたのだがこの様に狙いをつけにくくされてしまっては何も出来ない。
「グルゥゥゥ!」
「なんの‼」
飛びかかってきた1頭の攻撃を身をひねるように躱し、短剣を脇腹にを突き刺す。
「ギャン!」
性能は普通の短剣だ。ちゃんと刺さる。手応えもあるが…ウラドがくれた短剣、普通の短剣ではなく魔物に対してとてつもない威力があるとかそんな感じだろ!
「どうだ犬ッコロ!」
クレイヴ・ソリッシュとか大層な名前してんだ‼何かあるだろ!
「グルゥゥゥ!」
口から涎をたらしながらゆっくりと立ち上がる。短剣を刺した脇腹から血が出ている。普通に血がでている。ただそれだけだ……うん…あれだ……これってもしかして……
「普通の短剣じゃん‼」
「「「「グォォォォォ‼‼」」」」
俺が叫んだ瞬間、回りを囲むようにして様子を伺っていた群れが一斉に襲いかかってくる。どうやら仲間を傷つけられご立腹の様子だ。 仲間思いだね‼
「にょわぁぁぁぁ!」
ボン‼
ウラド戦で使った混合魔法を使い霧をだす。
奇声をあげながら逃げる。時間をかければ倒せないこともない。でも倒した頃には絶対俺もぶっ倒れてる。これは逃げるのではない! 戦略的撤退だ!
三下みたいなことを考えながらなんとか逃げきる。
五キロほど休むことなく走りきる。やはり荷物を抱えて走るというのはめちゃくちゃ疲れる。
「ぶっはぁ! ぜぇ! ぜぇ! 死ぬかと思った!」
手に持った短剣をみる。
「…………只の汚い短剣じゃん‼」
なめてんの? めっちゃ何かあるかと思ってたのに‼ 鑑定したときのUnknownの表示に期待してのに‼ ねぇ?何で?何で俺の異世界生活ってこんなに上手くいかないの?
「2度と使うか‼ 素手の方がまだマシだよ!」
クレイヴ・ソリッシュを鞘に戻し袋に封印する。
「町でナイフでも買おう…」
その場に座り込み考える…
やはり俺は対集団戦に弱い。一対一ならなんとかできる…だが集団でこられると俺は無力だ。基本逃げるしかない。……でもいつも逃げれると言う保障はない。
……素手の闘いにはやはり限界がある。ウラドのような怪力であれば狼の群れなど簡単に片づけることができるが俺にはあんな人外なことは出来ない…
頼みの爆発魔法もあれだけの数は倒しきれない。たが俺には混合魔法しかない。今の爆発魔法では効率が悪すぎる。威力は絶大だがもし味方がいたら巻き込んでしまう。遠くから撃てて尚且つ威力を維持する……
そんなこと出来るのか…思い出せ…爆発の原理を……他にも爆発をおこす方法がある筈だ。……水…風……別ける……出来るか?……待てよ…………
「やれる‼… 何で気付かなかったんだろう…ヒントはあったじゃないか! 」
アオーーーーン
遠吠えが聞こえる…ブラッケスト ウルフか!
「1度狙った獲物は逃がさないってことか…丁度いい!実験体になってもらおう‼」
奴等が来る前に先ずは準備をしなければ……
集中しろ……
先ずは左手を突き出すようにして水魔法を使う。水の中からあれを取り出すだけだ。あの時も出来たじゃないか……
大量の汗が落ちる。集中しなければ散らしてしまいそうだ。
落ち着け……
「俺なら出来る筈だ‼」
その時、左手に何かが集まる感覚がきた。第1段階はクリアした。
慌てるな……次の段階にいこう…
右手で風魔法を…その時、まわりの草木がざわつきはじめる、俺の回りを中心に風が集まる。その中からさらにアレを取り出す。
魔力が物凄いスピードで抜けていく…
手にあるものを混ぜあわせる。やはりこの世界の魔法は化学の力で強くすることができる。
「よし!よし!よし!いいぞ‼」
成功だ‼
2つのモノを合わせ、散らさないように混ぜあわせると透明な球体が完成した。それを風魔法でさらに圧縮させ野球ボールほどの大きさにする。他人から見れば透明な何かを掴んでいるようにしか見えないが耀の手にあるソレはそんな可愛いものではない。
今、耀の手にあるものとは………
グォォォォォ‼
その時、ブラッケスト ウルフの群れがふたたび姿をあらわす。
「出やがったな…」
「グルゥゥゥ‼」
半端なく怒っている…毛が逆立って牙が剥き出しだ。
群れはまだ片間っている。仕掛けるなら今しかない!
「くらえ!」
火魔法を投げつける。大きさはバレーボール程だ。50メートルほど先のブラッケスト ウルフに放つが簡単に避けられてしまう。
だがそれでいい。狙ったのは足元に生えている草なのだから…
「あえて名前をつけるなら【 エクスプロージョン 】てとこかな?」
そのセリフを言うと同時に手にある気体を投げつける。
その瞬間…
バァァァァァァン‼
「うぉ!」
物凄い爆発音と共に辺り一面が吹き飛ばされる。
その爆発は充分に距離をとっていた筈の耀でさえ捲き込まれてしまい吹き飛ばされるほどであった。
それは一瞬の出来事であった。使った耀自身もここまで威力があるとは思わかったのだ。
まずは耀が行ったことを説明しよう。
爆発には様々な種類があるがその中でも特に秀でて危険な者がある。
酸水素ガス
水素など水に含まれているごく普通の気体に過ぎないだ……たが水素はあるものと混ぜあわせることにより非常に危険なものにかわる。地上の生き物であればほとんどが必要とするもの…酸素
水魔法で水素をとりだし、風魔法で空気中の酸素と混ぜあわせる。
混合気体の出来上がりである。ひとたび着火すると、この混合気体は発熱反応により水蒸気へと変わり、爆発をおこす。
水素と酸素を上手く調整すればその発生する熱エネルギーは最高で約2700度にたっするといわれている。
風、水、火3種魔法を混ぜあわせることで出来る今の俺に出来る最高の魔法だ。
何かから物質を取り出すというのは御菓子作りのときにやったことがある。
「まさかラピスとラズリの為に作っていたケーキの技術が使えるとは思わなかったよ……ウプゥッ……気持ち悪い……魔力9割程持ってかれた…まだまだ改善しなければいけんな…それにしても…」
これは……
「やりすぎた……」
目の前を見ると巨大なクレーターが出来上がっていた。
素材の回収をしようとクレーターまで向かうのだがそこには肉片しか残っていなかった……
「旅に出てから数時間……この先がおもいやられる…」
初勝利をしたのに全然嬉しくないのは何故だろうか……
残っていた肉片で焼き肉をしながらこの先を考える。
「仲間が必要だな…」




