第33話 旅立ちの日
俺はまた夢の中にいる。今どこに居るのだろう…何時もの暗闇の夢ではない。雨の降る丘に誰かと向き合っている。お前は誰だ? その謎の影は泣いている。 訳が分からない…でも俺はこの子の涙をとめなければならない…そんな気がする。
夢から覚める寸前にその影から「頑張れ」と言われた気がした。
目が覚めると目の前にラピスとラズリの顔が見えた。
「「ムチューーーー♪」」
近い近い‼
「起きてるからっ!大丈夫だからっ!てかお前ら何しようとした!?」
「「何って言われても…前に言ってたじゃない…」」「眠れるお姫様を王子様が♪」「キスで起こしたって♪」
「それ前に話した童話の話しだからっ!? しかも立場が逆だからな‼」
あれからどうなったんだ? ウラドわ? てか俺をどうやって助けた?
「なぁ俺ってあれからどうなったの?」
「「お爺様が気絶したテルを引き上げたのよ!」」
「それでウラド先生わ?」
「疲れたってお屋敷に戻られたわ」「ねぇテル?ボロボロだけどどうするの?」
俺もここまでボロボロになるとは思わなかった。服なんてそこらじゅう穴があいてるし…
「あー…魔力切れであちこちガタきてるからもう1拍停めてもらってもいいですか?」
なんて決意の弱さだろう…でも身体が上手く動かないんだもん…仕方ないよね?…ね!?
その日、屋敷の人達にもう1拍停めてもらうべく頭を下げにいく。ノエル先輩には「あら?あれだけ意気込んでおいてもう戻ってこられたのですか?」と非常に冷たい眼差しをもらった。なんだか目覚めそうです…
それにしてもウラド先生の姿が見えない…どこに行った?
ウラド先生を探すべく屋敷の中を全て探すが見つからない。あいつらに聞いてみるか…「おーいラピス!ラズリ!どうせ隠れてみてるんだろ?」
「「すごーい♪どうして分かったの?」」
「お前達の行動パターンはもう読んでいる!」
どれだけ一緒にいると思ってるんだ。ある程度の行動は読めるようになったさ…だって…コイツらは…常に俺にイタズラしてくるからな‼そりゃあ俺も必死になるよ‼
「なぁお前達よ…ウラド先生の居場所について知ってるかい?」
「「それならたぶん裏庭にいると思うわ」」
「ありがとな!」
二人の頭を犬をあやすように撫でる。
「「撫でかたがなってないわね♪」」
「ならやめるぞ?」
「「それはダメ♪」」
しばらく二人を撫でたあとその場を後にする。
裏庭に入ると確かにウラドが立っていた。
「ウラド先生‼あの今日は…」
ウラドの顔をみて言葉がつまる…何で…何でそんなに泣きそうな顔してんだよあんた…
「おう…テルか………ふむ…これも運命なのかもしれんの…調度良いついて来るがよい」
そう言って裏庭の後ろにあるツウェペシ家の森に入る。この中には入ってはだめだと言われていたので1度も入ったことがなかった。
ウラドの顔をみていると少し切り傷が残っていた。多分おれの爆発魔法をくらった時のキズだろう。
いったい俺をどこに連れていく気だ?
「あの先生、どちらまで?」
「ついてくれば分かる。そこで話をしよう」
目的地につくまでウラドは終始無言であった。これは多分ウラドの根本に触れるであろう大切な話であることは分かる。
裏庭の後ろにある森の中をぬけた先には花畑があった。その中には物凄い数の墓標が立っている。
見た限りだと100は越えている。
「あの…ここは…」
非常に聞きにくい…何のために俺をここに連れてきた?
「ここはワシの大切な人達を眠っておる」
何を思い出しているのか…その表情はどこか儚げだ。
「ワシは歳をとりすぎた…多くの別れを経験し…何度も何度も心が折れそうになったよ…ワシはこの墓標の数だけ想いを背負っておる。 これからお主が経験することはきっとワシ以上に辛い経験であろう。 お主にそれを背負う覚悟があるか?」
覚悟か…今の俺は…
「想いを背負うとか、まだ俺には分からん。 俺はウラド先生みたいに強くないし頭も良くない……でもな、俺の目に入る範囲の奴等くらい助けれるようになるつもりだ! 」
ウラドの過去になにがあったかは分からない。でも俺は今の想いをウラドに伝えなければならない気がした。
「まだ俺には覚悟なんて出来ていないと思う。その時になってみなくちゃわかんねぇだろ?」
「頑丈なことだけが取り柄なんだ!いざとなったら皆の盾にでもなってやるよ」
その言葉を聞いたウラドはどこか懐かしげな顔をしていた。木立が囁く。ウラドの目を見みる。けっして目をそらすことなくそのまま沈黙が続く。
「うむ‼貴様の覚悟しかと受け取った!今日は身体を休めて明日に備えよ。」
何時もの調子に戻ったウラドは俺の顔を見て何かを思い出したかのように話しはじめる。
「ガハハハハ‼すまなんだ。今日は授業と言っておったが途中から本気になってしまったわい!」
やっぱり本気になってたんですね……やりすぎだよ! 本当に死ぬかとおもったんだぞ!?
まぁ…やっぱりウラドは豪快に笑っているくらいが一番良いな。
「ワシはもうしばらくここにおるがお主は一人で帰れるか?」
「ああ、 大丈夫だ」
俺は森の中を通りウラドより一足先に屋敷へともどる。花畑を後にする直前、多くの墓標の並ぶ中、その奥にまだ別の空間があるのが見えた。あれは一体何だったのだろうか……
―――――――――――――
テルが花畑を立ち去ったあとウラドは1つ奥の空間へと足を運ぶ。その先には純白の墓標が5つある。他のそれとは違い大きさもその空間に見合うものであった。
「パーシバル、 レイビィ 、アーネル、 カヴェイン、清茂」
「ワシだけ歳を重ねていった…今となっては後悔してばかりじゃ…あの時ワシに力があればっ!…いかんの今となってはもう遅い、過去は取り戻せぬ。なぁ 皆…」
ウラドは純白の墓標に話しかける。
「最近は面白い奴に出会ったぞ…今日はお前達にその事を話に来たのだ。そやつは勇者としての才能は0に近いじゃろう。じゃがその分、奴は目標に向かって迷いながらも真っ直ぐ進むことができる男じゃ。最初は豆粒より小さく感じた彼奴がこの数ヶ月でワシを本気にさせるくらい強くなった。見たこともない魔法でワシにキズをつけた。」
「パーシバル…ワシは役目を果たせているだろうか?」
その答えを返してくれる者はだけもいない…
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屋敷に戻ると部屋にはボロボロになった服の代わりに新しい服がおいてあった。
元々俺がボロボロになることを予想していたようでなんだか煮え切らない気持ちになる。
今になって負けたことの悔しさを実感する。負けることは前までは当たり前だと思っていた。ウラドの言葉が今でも耳に残っている。最後の授業で自分の弱点がはっきりと分かった。俺は自分の防御力に過信しすぎている。いつかそれだけでは通用しないことがおきるだろう。
「強くなりてぇ…」
そんな言葉を言い眠りについた。
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「どうやって起こそうかしら?」 「決まってるでしょ?」
「「1、2の3で♪」」
朝になるとまたラピスとラズリの顔が目の前にある。
「「ムチューーーー♪」」
「何回やんだよ! もう飽きたよそのながれは!」
「「キャー♪」」
トテトテトテ
ラピスとラズリが逃げるように部屋から出る。最後まであいつららしい起こし方だな…
さて行こうか…
屋敷の使用人達の姿が見えない…どこに行った?どこにもいないなんて今まで1度もなかったぞ?
辺りを見渡しながら屋敷を出ると…
「「「「「行ってらっしゃいませ勇者テル様」」」」」
屋敷の使用人達が全員左右にわかれて立っていた。何がおきたか分からずボーっとしていると
「ガハハハハ!やはり旅立ちの日は盛大にせんとな‼」
「ウラド先生…」
「ガハハハハ!もう先生などとよばすともよいわ…今からワシとお主は1人の友としてお前を送り出すのだからな‼」
「さぁ!テルよ‼ 世界の広さを見てこい‼これは餞別じゃ‼受けとれ‼」
何か荷物の入った袋を渡される。
まさか異世界の奴等に…異世界奴等に泣かされる日がくるとは思わなかったよ…
「……いまっ!…で…今まで…ありがどうございまじだぁ!」
深々と礼をする。泣きすぎて顔をあげることができない。
「「あ~♪テルが泣いてる~♪」」
ウラドの後ろに隠れていたラピスとラズリが顔を出す。
「ねぇテル?私達の言ったこと覚えてる?」「頑張ったらご褒美をあげるって…」
「「チュッ♪」」
「えっ?」
「「キャハハハ♪」」
二人が走り去る。
今度は涙ではなく汗が吹き出る。あいつ等、最後にとんでもないイタズラをしやがったな……嫌だ怖くて顔をあげれない……。
「テルよ……………」
何?その沈黙‼ やめて‼ 旅立ちは盛大しようよ?
恐る恐る顔をあげると……スッキリしたような顔をしたウラドがいた。
「ワシに勝てたら許してやろう…」
何が!?
先程までの感動ムードをぶち壊された挙げ句、左右から小さな声で罵声を浴びせられる
「ロリコン」「あんな小さな子供に…」「ウラド様が可哀想…」
「ペド」「ガッカリだわ…」「少しカッコイイと思ってたのですが…」
最後のノエル先輩だよね?チクショー‼まだフラグ折れてなかったのかよ‼
罵声のアーチを浴びながら旅に出る。
俺らしい旅立ちだな…なんて思う
「「「「「「頑張れーーー‼‼」」」」」」
「辛くなったらいつでも戻ってこい‼張り倒してくれるわ‼ガハハハハハハハっ‼‼」
少し離れたところで皆の声援が聞こえる。
振り返ってみるとラピスとラズリが泣いていた。俺に涙を見せないように明るく振る舞っていたのだろう。本当に強い子達だ。次に会う時はいつになるか分からないが…
「必ず魔王を倒して‼‼」
皆につたわるように大声をあげる。
「また会いにくるよ‼‼‼」
今日はなんて良い旅立ちの日なんだろう。
そう思いながら一歩、また一歩と歩きだした。
ツウェペシ家編終了
やっと勇者の話に入れる…




