第22話 ラピスとラズリ
やっべ‼寝てたよ…
今日の夢は何時もと違い気持ちの良い夢だ。広い泉の上でボード漕ぐ、そしてそのボードの上で昼寝をする。
異世界に来て今一番心安らぐ夢をみている。だが夢と気付いてしまえばすぐに終わりがくる。
一筋の光が差し込む。
目を開けると何時もと変わらない使用人室の天井が見え…天井が見え…見えない。青い空が見える。
あぁ何て気持ちの良い朝だろう。こんなに熟睡出来たのは久しぶりだ。ただ1つ気になることがある。これはどういうことだ?
俺の今の状況を説明するとベットのマットレスごと泉に浮かんでいる。自分で言っていてもよく分からない。こんな手の込んだイタズラをする奴等はあいつらしかいない。
「ラピスーーーーーーー‼」「ラズリーーーーーー‼」あの忌々しい双子の名前を叫ぶ。
ツェペッシュ家の使用人になってから1ヶ月ほどたった。
日課としてつけていた日記にはもうあの双子への恨みしか書いていない気がする。
最近はあの二人の見分けもつくようになってきた。最初は服で見分けがつくと思っていたが、あの二人は回りの人間を困らせる為にランダムで服を交換していることが最近判明した。名前を間違える瞬間を楽しんでやがるのだ。多分このことを知っているのは俺だけだろう。
クソガキめ‼
いつも俺に対して精神的にくる陰湿なイタズラを発案し無邪気な笑顔でその悪魔のような作戦を実行するのがラピス。性格は好奇心が強く危険なことをやりたがる。何となくだが常に獲物を狙う獣に近い野性的なオーラを感じる。ノエル先輩に買って頂いたアッパルを食べたのはこいつだ。一生ゆるさない。
そして俺に対して洒落にならないレベルの危険なイタズラを発案し何気ない顔で鬼のような作戦を実行するのがラズリ。性格はバイオレンスでありラピスの後ろをついてまわっているイメージがある。俺を殴っているのは大抵こいつだ。こいつは俺の事を本気で殺そうとしているんじゃないかと思う時がある。この間の落とし穴のイタズラは戻ってくるのに2日もかかった。あそこまで深く穴を掘れるのかと感心するレベルであった。結局ウラド先生に助けて頂いたのだが…
「「キャハハハハ♪ばれたーー♪」」
ラピスとラズリが走り去る。今日は白がラピスで黒がラズリか…。
「待って‼おいてかないで‼せめて誰か呼んでからにしてーーーーー!」
「「キャハハハハ♪バーカバーカ♪」」
無邪気な笑い声が遠ざかっていく。
「ちくしょーーーーーーーーー!」
寝ている人間を気付かれずに運び出すなんて神業をこんな下らないことに使うなんて、とんでもない奴等だ。
悔しい…毎日イタズラをされるのだが同じイタズラを受けたことは1度もない。なんてレパートリーの多さなんだろう。
さて今日の救助は誰だろう…。
三時間ほど立つとウラド先生が来てくださる。
「ガハハハハハハ‼‼今日もやられておるのー‼」
あんたの孫にやられてんだよ‼少しは申し訳なさそうにしろよ‼
孫バカが‼
「早く助けて下さいよーーー!」
日本で言うと洞爺湖ぐらいの泉である。自力で戻るのは俺には荷が重すぎる。
「待っとれーーーーい‼」
ウラド先生が何か呪文を唱えている。かなりの荒業を使う予感がする。
泉に手をつける。
「波引き‼」
水を素手で掴んで引っ張りあげる。すると波がおこるはずのない泉に巨大な波がおこる。
「ギャーーーーーーー!」
後ろから波に押され信じられない速度が出る。
しかし途中で振り落とされ泉の上を小石のように何回もバウンドする。そのまま陸地に到着するのだが勢いは止まらず地面の上に身体を引きずられる。
「ウラド先生!俺じゃなきゃ絶対死んでますよ今の‼」
「ガハハハ‼お前だからやったんじゃ‼」
この爺ありしてあの孫あり、あいつら絶対お前の影響受けてんぞ
あの二人に弱点はないのか…ここはウラド先生に聞いてみよう
「ウラド先生‼ラピスとラズリについてお話が‼」
「ウムそれは屋敷に戻って仕事を終わらせてから聞こうか‼」
くっ…そういえば朝の仕事をまだ終わらせていない…まぁあんたの孫が原因だけどね‼
「は~い了解しました~」
だらけた返事をする。
今日の朝出来なかった作業をする。
あの双子の部屋の掃除、昼飯の仕込み、まぁ仕込みと言っても料理長のこだわりが強いせいでほとんど触らせてもらえないのだか…それが終わればノエル先輩と買い物だ‼あ~ノエル先輩可愛い‼普段は冷たいのだが時々優しくしてくれる。これがぞくにいうクーデレと言うやつか‼そしてラピスとラズリの世話をする。まぁいつも拒絶されぶっ飛ばされるのだが短く終わる分俺も楽だ。小屋にいるオオトカゲに餌をやれば今日の仕事は終わりだ。
夜になるとウラド先生の一般教養の授業な行われる。この男見た目に反してなかなか出来る男だ…。
「先生‼朝の話なですが…あいつらのこと教えてください。あいつらのイタズラに最近殺されそうです…」
俺の心の叫びをぶつける
「大丈夫じゃ‼貴様は死なん‼あの子らも加減は分かっとるわい‼」
加減が分かってねぇから話をしてんだよ俺は‼孫バカもいい加減にしとけよ‼
あの双子の力は子供とは言え異常だ。日常生活では加減が出来ているのだが人と接するときそれが全く出来ていない。きっと何か理由があるはずだ。
「先生‼教えて下さい!」
真剣な眼差しでウラドを見つめる
「まぁ、そろそろお前にも話していい頃じゃろ…」
ウラドの雰囲気がかわる。多分だがこれからする話はラピスとラズリの根本に触れる話だ
「お前も気づいておると思うがあやつ等には親がおらん。もう死んでおるのだ。」
まぁ何となくだがそこには気づいていた。もしかして結構重い話なのだろうか…。
「親の愛情を知らんあの子達にとって本当の家族はワシだけじゎ…しかし、どう努力しようがワシはあの子達の親にはなることができん」
絶対強者であるウラドが自分の弱さを見せる。
「あの子達にも学校へ通わせた時期があった。しかし、回りの子供はあの子達を受け入れることが出来なかったよ…」
「あの子達は幼くして他の子供と比べると才能がずば抜けているんじゃ、吸血族でもあれだけの力と魔力を持って生まれる子はそうそうおらん。子供というのは残酷じゃの…自分と違うものはとことん拒絶し突き放す。化け物扱いされるあの子達を助けることがワシには出来んかった。大人のワシが出ていっても悪化するだけじゃったわ。」
ウラドの手に力がこもるのが分かる。あの子達の抱える心の闇に触れる。
「人から拒絶されるというのは幼いあの子達に深い傷をつけてしまった。友達をつくる為に人も雇った。じゃがあの子達は賢い、すぐ見破られてしもうた。あの子達の心の壁を壊すことはワシには…出来んかった…。ワシも普段は優しい爺として接しているが心のどこかであの子達に距離をおいてしまう。情けないの…」
あの子達にとってイタズラとは自分の存在を伝えるための手段なのだ。俺への嫌がらせもあるだろうが、心の根本的な部分は違う。ラピス…ラズリ…お前達本当は寂しいだけじゃないのか?人と真剣に接することが恐いだけじゃないのか?
あいつ等には真剣に向き合ってくれる理解者が必要だ。
「ありがとう…」
俺はウラドにお礼を言うとその場から立ち去る。




