第17話 女のこれから
終わったーーーーーー
何とか今日中に終わらせることができたよ!
あれから数年がたった。私に帰る場所はもうない。
全てを失った私はあの忌々しい男の仕事を引き継いだ。
何もない私には何かが必要だ。
ここには行く宛もない奴等があつまるごみ溜めのような場所だ。騙されて奴隷になる馬鹿か取り返しのつかない罪を犯した馬鹿だけだ。
ある日浅黒い肌の子供が売られてくる。
この子の目からは完全に狂ったものしか出来ない独特の不安定さが伝わってくる。
この子のように狂うことが出来たら私は幸せになれたと思った。
このノエインと言う子供は完全に狂っていた。ほんの数年で私に匹敵するくらい強くなる。必死に闘う奴の姿を見ると昔の自分をみているようで腹が立った。
さらに数年後、このごみ溜めのような場所に純粋な目をした少年がきた。
その少年はどことなくあの人に似ている。
あの人以外に触られるのは苦痛でしかない、しかし私は彼に触れることができた。
いけないことだと分かっていながらあの子のもとに走り出す。
不思議な気持ちだ。いつぶりだろうか演技なしの純粋な笑顔になるのは…
手先が器用なところ、少しエッチなところ、いじめると困ったような顔をするところ、すべてが彼にそっくりだった。
あの子が来てから毎日が楽しい。しかしそんな日常には必ず終わりがくる。
もうすぐ月に1度の闘技大会が始まる。
あの子の試合をみる。あの子には予選を通ることすら出来ないはずだ。
誰も彼を買うものなどいないだろう。
彼を
「虐めたい…」
あぁ思わず声が出てしまった。
しかしそこから予想外なことがおこる。
あの子が試合に勝ち残ってしまった。
勝って注目されては誰かに買われてしまう。
それだけはダメだ‼
何とかしなければ…
私は裏から手を回して第1試合をノエインに設定するように仕組む。
多少怪我はするであろうがこれでまた私のところへ戻ってくる。
これでもう安心だ。
しかしここでまた予想外なことがおこる。
試合がいっこうに終わらない。
もう立ち上がることはできないはずなのに…何故立ち上がることができる?
何で諦めない!?
勝てる筈がない!相手はあのノエインだ。この闘技場で最強の奴隷だ。負けても誰もあの子を責めない、寧ろよく闘ったと褒めるだろう。
しかし何故だろうか……あの子を見ると胸が熱くなる。
忘れていた感情が戻ってくる。
あの子の頑張る姿を見ていると涙がでそうになる。
負けて私のところへ戻ってきてほしい。
だが彼を応援したくなる。負けてほしくない…矛盾している。
この気持ちは何だろう…
結局あの子は試合に負けることはなく勝つこともなかった。
もはや枯れたと思っていたが涙が溢れる。
やはりあの子の行動は読む事が出来ない。
その日の夜、ノエインが脱走した。奴の目には以前のような狂人のものではなく、何かを取り戻した、火の灯った目をしていた。
「ノエイン、お前はあの子に一体何を見た?」
私は主として失格だな…奴を止めずに見逃すなど…。
それからしばらくして、あの子の買い手が見つかった。楽しかった時間に終わりがくる。感情を殺さなければ、いつものように接しては別れが辛くなる。
あの子が主人になる男にバカなことを叫ぶ。
あまりにも突拍子もない発言に笑いそうになる。この子はやはり相当な阿呆だ。何故だか私の心の中で何かが吹っ切れたようなそんな気がした。
あの子と最後に話すチャンスがきた「テル…」行かないで…
言えない…
本当は行ってほしくない。ずっとここで一緒にいたい。だがこの子はあの人ではないのだ。あの人に代わりはいない。
送り出そう。これからこの子が強く生きて行けると信じて…。
そう思った時、私は初めてあの人の気持を理解した。
…………あぁ………あの時、あの人は……こんな気持ちだったのね………
どれだけ辛いことがあろうと決して生きることを諦めないでほしい。とにかく貴方には生きていてほしい。
これは別れではない。
新しい旅路に祝福があることを願い。最後に私は昔のような笑顔で言葉を贈る。
あの人から何度も贈られたあの言葉を………
「いってらっしゃい」




