第18話 取り戻せぬ過去
ある女の話をしよう。
田舎町に住むその女、容姿は見目麗しく、性格は誰にでも別け隔てなく接する優しい心の持ち主、まさに理想の女性であった。
まだ年端のいかぬ少女であったがその美貌は隣町まで伝わるほどで多くの男が彼女に婚約を迫ってきた。
彼女には既に心に決めた男がいた。
昔から家が隣ということもあり彼とはすぐに仲良くなった。年下で頼りない所もあるが、世話好きの彼女にはそんな彼を最初は弟のような存在として見ていた。
そしていつの間にか1人の男性として意識するようになり、最初のそれとは違い恋心に変わっていた。
そんな二人が恋人になることは必然的なものであった。
明日は何処に行こう。どんな格好で彼に会おう。弁当を作れば喜んでくれるだろうか?
毎日彼のことを考えていた。頼りないが男らしい姿をみせる時もある、少し意地悪をすると涙目になりながら強がる彼が可愛い。私だけが知っている彼の姿。笑顔が素敵だ。彼も私の笑顔を好きだと言ってくれる。
でも彼の性癖は歪んでいる。私に不思議な皮の服を着せたがる。
エッチな所もあるがそんなことなど気にならないほど彼が好きであった。
少し早いがキスもしてみたい。彼が望むならそれ以上も………顔が赤くなる。
自然と私は笑顔になる。
15歳になる頃には彼との結婚も考えるようになった。
手先の器用な彼が指輪をつくってくれた時は涙をながして喜んだ。
だか彼と結ばれることは永遠にない。
彼が病に伏してしまった。治療には人生を三回やり直しても払えることのない、そんな途方もない金がいる。
彼を救える為に何でもしようと思った。争いごとが嫌いな彼女が、生き物を傷つけることなど出来るはずもない彼女が彼を助ける為にそれらを全て行った。家族の反対をおしきって冒険者になった。お金を稼ぐために出来ることは何でもやった。
1年がたつ頃には彼は自力で起き上がれないくらいに病は彼の身体を蝕む。
冒険者として二つ名を与えられるほど強くなった。しかしそれでも彼を救うことができない。
彼の前では結して泣くことはなかった。彼が好きだと言っていた笑顔を必死でつくった。彼には多分それがバレていたのだろう。
「俺は大丈夫だよ。俺のことなんか忘れてもっと幸せにしてくれる男を見つけろ」
言うが私はそれを拒否する。
結して笑顔を崩すことはない。どれだけ辛くても結して泣くことはない。1度泣いてしまうと壊れてしまう気がしたからだ。
まだ足りない。
私には時間がない。
早くしなければ。
そんなとき彼女の元に1人の男が訪れる。醜く肥えた男だった。
それが彼女の人生において1番のあやまちであっただろう。
彼女の最大の幸運は見目麗しい美少女に生まれたこと。
彼女の最大の不運は見目麗しい美少女に生まれたこと。
その男は彼女が自分の物になれば男の治療費を払ってやると言う。
もう残された時間はない。彼女に選択の良しはなかっただろう。
こうして彼女は男の物になった。
彼を助ける事が出来る。結ばれなくてもいい。彼が生きていてくれるなら。
初めては彼に捧げたかった。
その日、初めて私は泣いた。
心の支えは彼との手紙のやりとりたけだった。彼の手紙を読む時だけは唯一笑顔になることができた。
しかしある一定の時期から手紙がまったくこなくなる。しばらくしてからまた手紙がくるようになるのだが違和感を感じた。
あぁ…あの人に会いたい。
彼女にも限界が近づいてくる。
あの男に犯されるたびに自分が汚れていく。洗っても洗っても洗っても洗っても洗っても洗っても洗っても洗っても洗っても洗っても洗っても汚れは落ちない。
あの人以外の男に触られるのは本当に嫌だ。
汚らわしい…あんな男など殺すことは簡単だ。しかし殺してしまっては誰が彼の治療費を払う?
彼はこんな汚れてしまった私を受け入れてくれるだろうか…。
私はこんなに汚れてしまったが彼を諦めることができない。
だか遂に限界がきた。
彼に会いたて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて逃げ出した。
彼の姿を一目見ることが出来れば私はまだ頑張れる。
また昔のように二人で笑い合える日がくると信じて走り出す。
早く会いたいあの可愛い笑顔の彼に、優しい彼に……
村についたとき、彼女は己の間違いに気付く。
村には…
何も残っていなかった。
何もかもが瓦礫に変わっていた。
嘘だ!
彼の家へ走る。
嘘だ!
きっと彼は無事だと
嘘だ!
神に祈る
「私の一生を捧げます。彼が生きていてくれるなら何でも差し出します。だから神様お願いします。」
声にだして祈りながら彼女は走る。
次の瞬間、彼女が見たものは全裸で木に吊るされている愛しの人の姿であった。
身体は獣に食われていてほとんど残っていない。
彼の顔は腐乱していて形を残していない。
しかし私には分かる。
愛しい人を見間違える筈はない。
嘘であってほしいと死体に近づく。
彼の左手の薬指には彼のつくったお揃いの指輪がはめてある。
「嘘だーーーーーー‼‼‼‼‼‼」
涙をながしながら叫ぶ。
これは夢だ!これは夢だ!これは夢だ!これは夢だ!これは夢だ!これは夢だ!
そうだ私は長い夢をみているんだ…目を覚ませばいつもの日常にもどっているはずだ。明日は何を着ていこう…彼は弁当を喜んでくれるだろうか?
……だめだ……………
現実を認められず必死に狂おうとする。しかし私は狂うことさえできなかった。
きっとこれは夢ではない。
狂うことが出来たらどれほど幸せだろうか…
どうしょうもないくらいにこれは現実なのだ。
あいつを殺そう…
私は再びあの醜い男の元へともどる。
部屋の前に行くと男と女の笑い声が聞こえた。
「あの女もバカよのー。恋人はとうの昔に死んでおると言うのにまだワシの言うことを信じておるわい。」
「あなたも酷いひとねぇ~。最初から助けるつもりなんてなかったでしょ?うふふっ!」
「バカいえ!助けてやったわい!病の苦しみから開放してやったんじゃ‼感謝して貰わねば。」
「それにしてもあの男も最高に面白かったわ‼あなたがあの女の純潔を奪った時の話をした時の顔ときたらプハっ!!」
「これこれ、笑うでない。笑うと………ワシも笑ってしまうではないか‼‼ブァッハハハハ‼」
「しかもあの女‼途中から手紙の相手がかわっていたことにも気付かず必死に手紙を書く姿ときたらアーヒヒヒヒィ!」
「ほんと顔以外は空っぽの田舎娘で助かったわい‼ブァッハハハハハハハ‼」
醜い笑い声が聞こえる。
今すぐとめなければ。
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気が付くと私は地面を殴っていた。
その手は真っ赤に汚れており殴りすぎて原形を留めていない死体が2つ転がっていた。
このことについて知っている者と関係していた者を見つけることは簡単であった。
私は全員に制裁をくわえる。
何度悔いても過去は取り戻せない…
続きます




