第15話 再会を信じて
個人的にテルよりノエインが好き
ヤバイぞ…俺の危機感知センサーが警告音を鳴らしている。
この見ただけで人を殺せそうな男が俺の主人だと……。チラッと男の方を見ると獲物をみるような目で俺の身体をジロジロ見ている。
まさかそっち系か?
なんだ…俺はそっちのけはないぞ。
「うむ‼闘技大会を見てお主が欲しくなった‼ワシの物になるがいい‼‼」
疑惑が確信にかわる。
男が近づいてくる。
「ヒィッ!」
反射的に尻を抑えながら距離をとる。腕が太いとか丸太みたいな足とかそんな次元の話ではなく単純にこの大男に組み伏せらる想像がつく。
絶対に勝てない。
俺はノエインと闘うとき以上の恐怖を感じる。
「嫌だーー!俺はソッチ系じゃない!初めては好きな人とって決めてるのーー!」
感情的になり思わず叫んでしまう。
「何を言っとるんだこいつは?ワシはお主の頑丈さを気に入っただけであってワシもお主なんぞに興味ないわい。失礼なガキじゃの…」
呆れた顔でみられる。
エルザードも今日初めて表情を崩す。笑いを堪えているようにも見える。
そこからはエルザードにこの闘技大会のシステムについて説明される。
このコロシアムには月に1度、奴隷宣伝の為に闘技場で大会を開く。私達の奴隷はこんなことができますよ、と闘技大会を通して外部の人間に宣伝する。
ノエインのようなスター選手が売れないのは何故だろう。最初は疑問に思ったのだがエルザードの話によるとノエインのような危険な男は扱う側も難しいそうだ。
てか今までの何でこんな大事な話を俺に教えてくれなかったんだよ…。
闘技大会で奴隷達が必死になっていた理由は自分を宣伝する為だったのか……。
「大金をだしてお主を買ったんじゃ、しっかり働いて貰うぞ‼‼」
うぇ~ん‼イヤだよ~!
こんなオッサンじゃなくて綺麗なおねぇさんがよかった…。
荷物をまとめに部屋にもどる。
すると…
パチパチパチパチと拍手の雨がふる
「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」
奴隷達から激励の言葉をもらう。まるであのアニメの最終回みたいだな、と思いながら少ない荷物をまとめる。
「おう!兄弟よかったじゃねぇか‼こんなくそったれな場所から解放されるなんざうらやましいぜ‼」
奴隷先輩…最後までアンタの名前…おぼえることできなかったわ
様々な奴隷達の言葉をもらいながらあの豪華な個室へとむかう。
すると廊下にエルザードがいた。
こちらへむかって歩いてくる。
「テル…」
何だか悲しそうだ
「えっと…どうしました?」
なんだろう…こんなエルザードは初めてだ。
何か言いたげにしている。
「いや何でもない…」
そう言ってエルザードは俺を見送る。
「………ら………い」
その時、後から少しだけ何かを言ったように聞こえた。あまりにも突然すぎてエルザードが何を言ったのかわからなかった。
振り向くと先ほどの悲しそうな顔から一変していつものSっ気が混じった笑顔とは違う。とても暖かな可憐な笑顔を俺に向けていた。
その可憐な笑顔に見惚れてしまい心臓がドキドキと強く鼓動をうつ。俺は単純に彼女の笑顔を見て見惚れてしまっていた。
変なむずがゆさを感じ、少し急ぎ足で目的の部屋へと向かう。
部屋にもどると男は嬉しそうに俺を見る。
「それではいざまいろうか‼‼ガハハハハ‼‼」
うるさいな…
俺は今後この男と生活を共にしなければいけないのか…。
男と共に馬車へと乗る。まぁ馬車と言っても引いているのは馬ではなくバカみたいに大きいトカゲなのだが。
馬車の中に入ると男は俺に聞いてもいないのに自己紹介をしてくる。
「我輩の名前はウラド・ツェペッシュ‼‼ウラド侯爵と呼ぶがよい‼‼ガハハハハ‼‼‼」
車内だと余計にウラド侯爵の声が響く。
マジでうるさい…。
馬車から見えるコロシアムが段々と遠ざかっていく。短い間ではあったがあの場所には様々な思い出がつまって…つまって…つまっていなかった。
外の景色をしばらく見ていると丘の上に人影がみえる。
あれは……
ノエインだ。
見間違える筈はない。一瞬だったがノエインがいた。
多分あれは不器用な奴なりの見送りなのだろう。
あいつとはまたどこかで会えるような気がする。
「なんじゃ?ニヤニヤしよって。」
これは別れではない。
再び会えると信じて明日からも頑張っていこう。
俺は窓の外を見ながら笑う。




