第13話 泥の中 後編
ノエイン戦終了!
耀が一歩踏み出す
ノエインが足を引きずりながら踏み出す。
「ウオォォォ!」
「ァアアアア‼」
耀の拳がノエインの顔に当たる。
ノエインの拳が俺の顔に当たる。
もはやノエインに俺の攻撃を避ける余裕などない。
凡人の耀がここまで動けているのはもはや奇跡であろう。
だか限界が近い。
心臓が破れそうだ。
腕が鉛のように重い。
初めて負けたくないと思った。
初めて人を救いたいと思った。
目の前の景色が霞んでくる。
腕をやすめるな。最後まで身体動かせ。
息を吸う暇もない。
瞬きする暇もない。
辛いのは俺だけではないノエインも必死のはずだ。
この勝負絶対に負けられない。
◇◇◇◇◇◇◇◇
俺はこの闘技場で最強だ。
勝つことは気持ちがいい。
もっと勝ちたい。もっと闘わせろ。
闘う理由が俺にはある。
勝ち続けば家に帰れる。
家族の名前は思い出せない。
父と母、そして妹が俺にはいる。
名前は思い出せない。
もう顔も分からない。
だが顔さえ見れば名を思い出せる。そう信じている。
家族を思い出したい。
強くなれば家族に合えると信じていた。
そして今も信じている。
目の前の男は何故倒れない…
俺の拳はそんなに軽いか?
足が動かない。
こんな気分は初めてだ。
こいつに全てをぶつけたい。
今日は何だかいつもより頭がさえる。
こいつに勝てば思い出せる気がする。
身体が上手く動かない。
初めてこんなに勝ちたいと思った。
初めて負けるかもしれないと思った。
この男は俺を救ってくれる男かもしれない。
あぁまた頭に靄がかかってきた。
考えることが出来ない。
誰か僕を助けてくれ……
お互いの拳が交差する
俺が最後にみたノエインの顔は俺ではなく何か別の物を見ていた。
今までの不気味な笑みではなく年相応の少年が出す無邪気なものであった。
そこからは俺も記憶が曖昧だ。
あとから聞いた話によるとそれはとても試合とはよべるものではなかったらしい。
まるで子供の喧嘩のようだったと。
結果は俺とノエインのダブルノックダウン。
つまり引き分けだ。
負けることはなかったが勝つこともできなかった。
男は言う。
倒れている俺とノエインの顔はどこか満足したような清々しい表情であったと。
ノエインは自室で目覚める。
「俺は負けたのか…」
何か肩にかかっていた重荷がとれた気がした。
テルの拳を受け意識がとぶ瞬間にノエインはたしかにみた。
そこは家族3人がノエインを見て微笑んでいる姿を。
「負けることも案外わるくねぇな…」
ノエインの頬に一筋の光りがこぼれ落ちる
ノエインは思い出す。
家族の名前を…




