第10話 泥の中
少しずつ増えていく評価とブックマーク
嬉しくて涙がでそうです。
おはようございます。
とても気持ちのいい朝です。
いつも通り顔を洗って歯をみがく。この時代の歯磨きは魔物の毛を加工して作った物を使う。デザインは現代の歯ブラシに似ており非常に使いやすい。
歯みがき粉がほしいが高級品らしく俺達奴隷には支給されるはずもない。
あぁ…風呂に入りたい。
そんなどうでも良いことを考えながら日常の作業を終わらせる。
そして俺は非日常へとむかって歩き出す。
足取りが重い。睡眠は充分にとったはずなのだが。
この足取りが重い理由は奴のせいだろう。
ノエイン。
俺は今から奴と闘わなければならない。
思えば昔からあまり良いことがなかった。外を歩けばヤンキーに絡まれ、財布はすぐに落とす。
好きな子に告白してもその子には彼氏がいたり、面倒ごとにはよく巻き込まれる。思い出すときりがない。
昔の事を考えていると無性にに家に帰りたくなる。
何もない田舎で都会にあこがれたりした時期もあったが決して嫌な場所ではなかった。
母さん元気にしてるかな?
姉さんは俺がいなくて寂しがってないだろうか。
父さんは…まぁ大丈夫だろ。
あの漫画の続きが気になる。友達とバカな話しをしながら笑いころげたい。
あぁ…ついに到着してしまった。
ノエインはもう闘技場にあがっている。俺を見つけるとニヤニヤと不気味な笑みをうかべている。
観客は初日よりも心なしか多い気がする。歓声がうるさい。
いつまでもニヤニヤしやがって、なんだか腹がたってきた。
ちくしょう!やってやるよ‼
どうせ誰も俺に期待なんてしてないだろうがそれでいい。
見てろよ。そのニヤケ面、今すぐ崩してやる!
闘技場へと上がる。
≪さぁー皆さんお待たせしました。今日のメインイベントと言ってもいいでしょう!≫
ワーー‼
でかすぎる歓声で身体の芯が痺れる。
≪まずは選手紹介から始めます‼ノエイン選手!この闘技場はじまっていらい歴代でもトップクラスの実力をもっています。あまりにも速すぎる試合結果から雷神の異名をもっております。≫
オーーー‼
≪そしてこちらはテル選手‼なんと今大会初出場です!その実力は未知数。予選ではタトールスのようにまるまって防御する姿が注目されており昨日の試合の様子からターテルの異名をつけられております‼≫
ハハハ‼
歓声が笑い声に変わる。
恥ずかし過ぎて顔をあげることができない。
多分タトールスとはこちらの世界での亀のような生き物なのだろう。
説明されなくても察してしまった。
ノエインの目がギラギラして俺を見ている。
≪それでは試合にいきたいと思いまーす‼≫
全てがスローモーションのように感じる。
≪始め‼≫
カーン‼
ゴングが鳴ると同じにノエインの元へと走る。
「ウォォォォ‼」
大振りの右ストレート。
ノエインは何の気なしに体を右に向け避ける。
それでも構うもんか‼数打ちゃあたる。
闇雲に殴りつづける。
ノエインからは余裕の笑みが消えない。
くそ!息があらい。空振りするとこんなに疲れるのか…。
パン‼
何かが弾けた音がすると俺は後に倒れていた。
天上がみえる。しばらくしてから自分が殴られたことに気がつく。
くそ!何されたかまったく分からん‼
急いで立ち上がろうとするとまた追撃がくる。
パン!
また転がされる。
それでもかと立ち上がると。
ノエインが嬉しそうな顔をして俺に話しかける。
「お前の身体は一体どうなってんだぁ?なんで壊れねぇ?」
会場の奴らも騒ぎさ始める
『おいおい…ノエインの攻撃に耐えてやがるぞ』
『この距離から見ても何してんのか分からないのに……あいつ実は凄いのか?』
『おいおい!ノエイン!雷神の名が泣くぞ!』
そんなヤジを気にすることなく俺に話しかける。
「俺の一撃はそんなに軽いか?教えてくれよ‼なあ!」
笑みをうかべたまま俺を殴り続ける。
痛くないのだが攻撃が速すぎて呼吸する暇もない。嫌な汗がでてくる。
なんとか俺からも攻撃してみるがまったく当たらない。
触ることすら出来ず攻撃を受け続ける。
クソ‼どこから攻撃してやがる?
よく見ろ…目を凝らせ…
パン‼
強めの一撃が鼻先に当たる。
「が!」
くそったれ!何もみえねぇ‼
何発も攻撃をくらっているといくら痛くないとはいえ俺にも疲労が見えてくる。
どうする…どれだけ攻撃しようにも当たらない。
勝負が決まらず段々とノエインからの攻撃も激しさがます。
「おいおい何で壊れねぇ?」
俺は強がりからノエインにむかって挑発するかのように言う
「お前の攻撃なんざぁ痛くも痒くもねぇよ」
その言葉に対してはじめてノエインから笑みが消える。
「もう手加減はやめだぁ」
あら?怒った?
意外と短気なのね…
ノエインがはじめて構える
右手をぶらぶらとさせ左手でアゴを守るように構える。
この構えに似たやつを俺は見たことがある。
それはボクシングのデトロイトスタイルと言うものに似ていた。
このデトロイトスタイルから繰り出されるフリッカージャブと呼ばれる攻撃はマシンガンのような早だという。
また相手からも非常に見えにくく目の前でこれをやられれば相手は何をされたか分からぬまま空をみることになるということだ。
只でさえ見えにくいのにノエインのような実力者がこれを使うと思うとゾッとする。
だかフリッカージャブにも弱点はある。
俺にもやっと勝機がみえてきた。
あとはタイミングをつかむだけだ。
試合中はじめて俺は笑う
「ノエインここからは泥試合だぜ」




