シモン達とダビデ
MSP(魔法専門学校)は文化祭が始まろうとしていた。MSPの文化祭は各サークルを中心にそれぞれがイベントを運営していくと言うものである。
当然、サークルに参加していないシモン達は教室の幾つかの机を寄せて、そこに座り、文化祭を見て回る計画を立てている。
「MSPの文化祭か。見て回れそうなとこは全部行きたいな」
「そうねえ」
エミリーは文化祭のパンフレットをペラペラとめくりながらそう言った。
「こういうのって行くの初めて」
「ロザリンドはそうかもね」
「んー、何その上から目線」
そう言ってロザリンドが冗談っぽくシモンに食ってかかる。以前のロザリンドからは想像も出来ない行動だ。しかし、周りのみんなもそれを驚きでとらえたりはしない。皆が皆、それをいつもの事だと受け取るだけだ。
「なんか色々食べ物あるね」
ボクがエミリーのパンフレットを見て、そう言った。
MSPの文化祭は魔法を全てのイベントに関連される事を条件に風紀を乱すもの以外の多くのイベントを許可している。管理の難しい食べ物関係も魔法によって管理が容易となり、サークルによっては魔法による調理の実演も行っている。
「おお、上手そうだな。飯には困んねえな」
突然、教室のドアが開いてダビデが姿を現した。ダビデはガロアやエミリーが参加した魔法試験の決勝戦で魔導師トマスに敗北したがその能力からガロア達と同様の魔道特待生の資格を得ていた。
「ガロア君、ヴェルナ―さんが呼んでるよ。他のみんなもね」
「久しぶりだな、ダビデ。あの時以来か」
「そうだね。あの時は恥ずかしいところを見せたね」
「流石に魔導師相手はしょうがないわ」
エミリーがフォローをいれる。
「じゃあ、魔導師様がお呼びだし行くとしますか」
「そうしますか」
「そうね」
「了解」
「じゃあ、ついて来て」
そう言うとダビデはそう言うと教室のドアを開いて廊下に出た。その後をシモン達が続く。
しばらくして、ダビデは会議室の前で止まった。
「ここだよ」
ダビデに促されてシモン達が会議室に入っていった。会議室は中央に机とその周りを囲むように椅子が置かれ、ホワイトボードが置かれていた。ホワイトボード付近にヴェルナ―の姿があった。
「ではみなさん、揃いましたね」
そう言いながら、ヴェルナ―はシモン達に座るように促すと自分も椅子に座った。
「早速、本題に入りましょうか。皆さんには文化祭でショーをしてもらいます」
「ショーですか」
「はい。一人の男に皆さん全員で戦ってもらいます」
「全員って」
「相手は魔導師ですか」
「察しがいいですね。その通りです。魔導師最強の男と戦ってもらいます」
「最強ですか」
「ええ、魔導師の誰もが彼が最強である事に異論はないでしょう」
「パ、ジークムントも」
「ジークムントもです。もちろん、このまま皆さんが戦っても負けは確定的です」
「酷い言いようだな」
「まあ、事実なんでしょう」
「そう言う事です。そこで皆さんにはショーになる程度の連携をしてもらいたいんです」
「なんだよ、それ。いきなりやれっていった上にそのために連携なんてさせるのかよ」
「ガロア。君の成績は大したもんでしたねえ」
そう言うとヴェルナ―はガロアの方を見た。
「よおし、やったるかあ」
ガロアは立ちあがってそう言った。
「連携かあ。ちょっと興味あるわ」
「ボクも」
「うん、どちらにしろ。見て回るくらいしか。やる事無かったし、俺も参加しようかな」
「僕は辞めておくよ。魔導師との戦闘は参加するけど連携は僕のがらじゃない」
他の肯定的なシモン達を尻目にダビデはそう言い放った。
「そうですか。残念ですが強制と言うわけではないので連携の練習に参加する人は今から配布するプリントを受け取ってください」
「そろそろ帰っても」
ダビデはそう言ってヴェルナ―を見た。
「ええ、構いません」
それを聞いてダビデは会議室を出た。
シモンとガロアは受け取ったプリントに目を通しながら、話を始めた。
「あいつって、なんかあんな感じだよな」
「ダビデ君のこと」
「ああ、何と言うか近寄りがたい感じだよな」
「確かにね。でも悪い人には見えないね」
「まあな。でももう少し肩の力抜けばいいと思うんだけどな」
「いいんじゃない。彼の生き方を決めるのは彼なんだから」
そう言ってロザリンドがシモンの前に現れた。
「そう言う事よ」
「そう言う事、そう言う事」
エミリーとボクもロザリンドに続く。
「それより、連携って難しそう」
「確かにね。集団戦闘をここまで必要とするのって魔法ぐらいだし」
「そうか。今までの戦争とかも集団戦闘じゃん」
「いや、あれは人を何て言うか集団としたものだけど、魔法は個々の魔法の組み合わせがあると思うんだ」
「なるほどね。魔法は確かに個人の戦略の個性が強いからね」
「とにかく、楽しもうよ」
「そうだな」
会議室を出ていったダビデは無人の美術室に入ると大きなカンバスの前の椅子に座り、描いていた絵の続きを描き始めた。
「相変わらず、絵が好きだな」
そう言って、トマスが美術室に入って来た。
「師匠でしょう。今回の文化祭の僕らと魔導師の戦いを計画したのは」
「半分当りで、半分外れだな」
そう言ってトマスは椅子を持ってきて座った。
「どういう事です」
「計画はヴェルナーだ。俺は連携を提案した。当初はその場で魔導師対魔法使い達になる予定だったってこった」
「大きなお世話です。師匠が私に人と歩む道を進めるのは理解できます。でも、僕は」
「お前の言いたいことは分かる。今は他にすべき事があるんだろ」
「確かに逃げていると言われればそうなのかもしれません。でも、私の人生は絵を中心に回っている」
「人はひとりでは幸せにはなれない。だが人には生きるための前提がある」
「そうです。僕も一人で幸せになれると思ってはいない。でも人生における最上が幸せなら、僕の人生の最低限は絵を描く事なんです」
そう言って絵を描く手を止め、ダビデはトマスを見つめた。
「お前らしい回答だな。人生には意味が必要だ。本質的にはそんなもんなんてあるはずが無い。それでも人は意味を求める。だが、求めるのは操られる事と似ている、分かるな」
「操られていないとは言えません」
「いやにあっさりと答えるな」
「絵の世界は、僕の知る絵の世界はあやふやで不安定な物です。学術の世界は、商業の世界は、評価を下す基準が明確です。しかし芸術は違う」
「そうだな。ただ、人と違うものを作って評価されても飽きられる」
「そうなんです。何を以って優れていて、何を以ってそれは傑作になるのかが分からない。僕自身、絵に執着しているだけと言われたらそうだと答えるしかありません。しかしそもそもどう努力すればいいか明確ならこんな絵に全てを捧げてなどいませんよ」
「本気で悩んでるみたいだな」
「その回答でも手に入るなら人と歩む余裕も出るでしょうけど今は」
「・・・・ふふふふ。はははは。いい青春をしているな。悩んで、苦しんでる。そして何者かになろうとしている。周りの声を無視するでなく、吸収しながらもひたすらに進んでいる。昔の俺のようだ」
「僕が、師匠にですか」
「ああ、昔の俺もそんな感じだったからな」
「想像できませんね」
「成功したからな」
「あっさりと言いますね」
「事実だろ」
「そうですけど」
「いい気分だ。酒を持ってくるか」
「ここで飲むんですか」
「悪いか。その代わり面白い話を聞かせてやる」
「面白い話」
「ああ、俺とヴェルナ―が化け物に会う話だ」
「化け物」
「ガウス。世界最強の魔導師の事だ」