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どうでもいい布石

 一ノ瀬、どこかで聞いたような……

 それにこいつ、キャラ付けがやけに不安定すぎやしねぇか?

 俺やら僕やら俺様やら。

 俺様なのかインテリなのか、江戸っ子なのか、ちゃんと統一しろよ。



 そんな一ノ瀬は扉の方をじっと見つめ、静かに声をかけてくる。

「ねぇ、星倉」


「何だよ?」

 集中していた俺は、一ノ瀬の呼び掛けに空返事をしていった。


 もう少しで思い出せそうなんだ。

 この名字をどこで聞いたのか。



「あのさ。君さっき、すごく悲しげな顔をしていたよね? もしかして、あの子が原因なのかな?」


 彼が指差した先にいたのは、ツンデレツインテールの同級生、秋本くるみだった。

 秋本は、扉からこちらの様子をちらちら覗き込んでいて。



 呆れた俺は、大きくため息をついていく。

 秋本は、かまってちゃんだから話すと長いんだよな。



「あいつが原因? うーん、合っているような、違っているような……」

 この世界にうんざりしているのも確かだし、一刻も早く元の世界に戻りたいのも確か。

 だけど、秋本が原因なのかと問われるとそれはなんだか違うような気がする。


 一人悩んでいると、しびれをきらした一ノ瀬が俺のことを促していった。


「とにかくさ、早く行ってあげなよ。君のことをじっと見てる」



 まぁ、確かに俺のことをじっと見つめてはいるが。


 横目で秋本を睨みつけて、心配する一ノ瀬にこう話していった。

「いいや、無視する。あいつとまともに話すと昼休みが足りなくなるし」


「え、それでいいの?」

 予想外の言葉だったのだろう。一ノ瀬は、目を丸くして驚きを隠せないでいる。


「いーのいーの。ところで一ノ瀬。今日のところはいいけど、屋上は俺を含め、皆の物なんだから偉そうにすんなよ。さて、やっぱ今日は帰って教室でメシ食うことにするわ。じゃあな」



 きょとんとしている一ノ瀬を貯水タンクの上に置き去りにして、俺は無言を貫きながら秋本の横を通って行った。


 秋本は両腕を前に組んで俺から顔を背け「ついてきたわけじゃないんだからね!」とか「うぬぼれないでよね!」とかプリプリと怒っている。


 俺の反応があっても、なくても。



 これでも最初のうちは、話しかけてくれる女子に対して無視をしたり、きつい態度をとったりするのは結構ハートにこたえていたんだ。


 だけどある日ある時『何を言われても彼女らは傷ついていない』『どんなことがあっても俺にフラグを立て続ける』ということに気づいてからは、傷つく気も失せてしまって。


 こんなふうにプリプリ怒る秋本を無視して通り過ぎることも出来るようになった。


 傷つくことはないけれど、まだやっぱりちょっと寂しかったりはする。

 あくまでちょっとだけ、だけど。  




☆゜*・。.。・*゜*・。.。・*゜*・。.。・*゜*・。.。・*☆




 やべぇ。やっぱりあれはフラグだったんじゃねぇか……?



 教室に戻り、クリームパンをかじりながら、先ほどの生徒手帳のことを思い出して、青ざめた。



 ん? あぁ、わかってる。隣の席の朝比奈がちらちら俺のことを見つめているってことだろ?

 だが、絶対視線なんか合わさねぇぞ。


 もっと言えば、さっきから早乙女(=男)がこっちに向かってウィンクしてるのも、視界の端に入ってはいる。


 そのアヒル口とウィンクやめろ!


 俺と目が合った早乙女は、ぱあっと花が咲くような笑顔を見せるが、可愛いだなんてちっとも思えない。



 白い目をしてうんざりしたような態度をとると、あいつは『もう、知らない!』とでも言うように、頬を膨らましてそっぽを向き、()ねていた。




 早乙女。あいつ、信じられないくらい大幅にキャラ変更したよな……。



 クリームパンを飲み込みながら、この世界のやり方に対してあきれ返る。

 ごく普通の男子高校生だったあいつを、いつの間にやら乙女に変えてみせるなんて、鬼の所業としか思えない。

 もう一つ、購買でカレーパンを買っていたのだが、華麗なオネェへと進化を遂げた(?)早乙女の姿を見たせいで、一気に食欲が失せてしまい、かばんの中へとしまいこんでいった。



 さて。フラグを一つへし折ったところで、俺の一連の行動を振り返ってみるとするか。


 パック牛乳を飲みつつ、頭の中で場面再生をしてみる。



 セリフと先が読めるキャラクターはうんざりだ!→生徒手帳を拾う→落とし主の名前を知る(イケメンそうな名前)→屋上でイケメンとの運命の出会い。しかもキャラが不安定で先が読めない→興味を持つ→名前を教え合い好感度アップ☆←今ここ。



 ちきしょう! 立派なフラグじゃねぇか!


 泣きたい。猛烈に泣きたい。

 なんだよ、この美少女ゲーム……

 いつから乙女ゲームに出るような、イケメンが登場するようになったんだよ。



 そして、視界の端にちらつく早乙女を見て、新たにどうでもいい布石に一つ気づく。



 早乙女か。いい加減諦めろよ。

 ん? 早乙女、さおとめ……『乙女』!


 くそぅ、最初からそのつもりだったのか。

 これだから、名前が性格に照らし合っているゲームのキャラは気に入らねぇんだ!

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