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フラグとは折るためにあるもの

――どういうことだ……



――やっぱりどう考えても、この世界で『あれ』はおかしい。



――だって、この世界は……



☆゜*・。.。・*゜*・。.。・*゜*・。.。・*゜*・。.。・*☆




星倉ほしくら君、今日体調悪いの? ずっと寝ているみたいだけど……」


 突然、自分の名を呼ぶ優しく可愛らしい声が左耳に飛び込んできて、俺は顔を上げていった。


 目の前には思い思いに過ごすクラスメイト達がおり、黒板の上の時計は十時五十五分を指している。

 ゆっくりと声の主の方に顔を向けると、そこには可愛らしい女の子がおり、じっと俺の方を見つめていて。


 鎖骨までのびた栗色の髪に、無駄にデカいピンクのリボンをつけている彼女は、隣の席のクラスメイト、朝比奈みゆ。

 あかつき高校の二年生で、クラスはA組。

 くりっとした目と、小動物のようなしぐさが愛らしく、同性からも異性からも人気のある女子で、言ってみれば『正統派美少女』だ。


 そんな女子が、あからさまに頬を赤く染め、上目使いで俺の方を見つめている。

 隠しきれないほどの、好意を俺に放ちながら。



――くそっ、またかよ!


 授業の合間、ずっと机に突っ伏していた俺を心配する朝比奈に対し、俺は不機嫌全開な顔で睨みつけていき、冷たくこう言い放っていった。


「放っといてくれよ」



 可愛い女の子に好意を向けられて、優しさを向けられて。

 それなのに、何て酷いことを言うやつだ、そう思われた方もいるだろう。


 だけど、弁解させてくれ。

 この世界では、その甘さが命取りなんだ。



 『放っておいてくれ』と俺から言われた朝比奈は、怒る様子も落ち込む様子もなくふわりと笑う。


「大丈夫そうだね! じゃ、また何かあったら言ってね。ちゃんと聞くから」


 そして彼女はまた、前の席の友人と楽しそうに話を続けていった。



 その毎度不気味な応対に、また何とも言えないストレスがたまっていく。

 とにかく、朝比奈の態度が気持ちが悪くて仕方がなかった。


 あんなひどい対応されたら、怒るなり、悲しむなりするだろ、普通。



 大きくため息をつき、変わりようのない事実をまた再確認していった。


 やっぱりここ、暁高校は間違いなく……

 美少女ゲームの世界なんだ、と。



 どうして普通の高校生が美少女ゲームの中にいるのかということだけれど、そもそもこんな世界に俺は生まれていなかった。

 高校だってあかつきではなく東雲しののめだったし、この暁高校でのクラスメイトは会ったことのないやつばかり。


 そんな見たこともない世界に飛ばされたきっかけは、恐らく兄貴がやっていたゲームなのだろう。

 勝手にゲーム機を借り、部屋で起動した途端気が遠くなり、目が覚めたら何故か、この世界に飛ばされていたのだから。



 ここが、美少女ゲームの中だと気付いたのは、飛ばされて数日が経ってからだった。

 やたらと話しかけてくる美少女たち、不自然な態度と、向けられる好意。

 そして、少しでも女子に優しい態度をとれば、すぐさま予想もつかないイベントが嵐のように襲ってくる。


 これを美少女ゲームと呼ばずして、何と呼べば良いのだろう。



 美少女に囲まれ、アプローチを受ける日々を羨ましいと思う人もいるだろうが、実際そんな良いものじゃないと俺は声を大にして言える。

 この世界は、四六時中やたら誰かとくっつけたがるのだ。

 そりゃもううんざりするくらいに。


 隙あらば、さっきのように女の子が話しかけてくるし、女の子そっちのけになるからだろうか……大好きなバスケも一回授業でやった以来やらせてもらえていない。


 部活に入りゃいいじゃん?

 そんな声がどこからか聞こえてきそうだけど……



「ラクロス部とトライアスロン部があるくせに、バスケ部がないだなんて、意味がわからないんだよ!」


 行き場のない怒りを、こぶしにこめて机にぶつけていく。

 ドン、と大きな音がしてクラスメイト達がこっちを見つめていたけれど、そんなことはもうどうでも良かった。


 とにかく一刻も早くこの世界から抜け出したい気持ちでいっぱいで。



 そして、最近ではこの世界から熟女好き、もしくは男好きを疑われているのか、年増の先生やクラスメイトの男までもが俺狙いで話しかけてくるもんだから、もう手に負えない。


 一昨日の授業でやったサッカーの休憩中、隣に座ってきた男から手を繋がれたりもしたもんな。

 あの時は心底驚いた。


 それによくよく考えてみれば、この『手を繋がれるイベント』で最悪のエンディング候補がまた一つ追加されてしまったわけで。


 女子どころか、男にすら迂闊(うかつ)に近寄れないなんて……これはホラーか? ホラーゲームなのか?




「おっ、冬馬(とうま)。机なんか叩いてどうしたんだ?」


「近寄るんじゃねぇ! そして頬赤らめんな!」


「ちぇー、冬馬のばーか!」



 早乙女りょう(=男)が、嬉しそうに近寄ってくるのを追っ払う。

 最初は好感度を教えてくれるただの友人だったはずなのに、今では男好きを疑われている俺の、立派な恋人候補……。



 そんな意味不明な世界に、なんで俺が飛ばされてしまったのかは不明、どうすれば元の世界に帰れるのかも不明。



 きっと、作られた個性を押し売りにするこの世界のキャラクターとくっつけばいいんだろうけど、そんなの俺は御免だ。



 テンプレート通りの会話。

 ぶれないキャラクターの性格。

 異常すぎるくらいの俺に対する興味。

 そして、無駄にキラキラした可愛らしい名前。



 気味が悪すぎるし、ゲームでなら楽しめてもリアルで恋愛する気なんざわかないんだよ。

 こんな、個性のあるようでない女子(一部熟女&男)たちとなんて。


 バスケだってそう。何もかもわかっていたら楽しくない。

 結果が読めないから面白いんじゃねぇか。



 まぁそんなわけで、俺はこの世界で、フラグをへし折り、イベントをかわし続ける日々を刻んでいたりする。

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