第惨話~キツネナアノコハアブラアゲ~
本日もたびたび変わらぬ晴天なり…
今日も今日とて暑い日差しに嫌気がさし始める晩春の海岸。
確かもう海開きはしているのか少ないがちらほらと水着の男女が見える。
妬ましい。
カップルを見ていると激しく歯ぎしりをしたくなる。
だが今は掃除中だ。
震え始める腕とわきあがる怒りを押えこんで何事もなかったかのように窓ふきを行う。
隣を見ると小さめの背で精いっぱい体を伸ばして窓を拭いている少年がいる。
その頭には狐の耳が付いており時折ピコピコ動いている。
口には大判の油揚げが加えられており時折口をもごもごしては少しずつ食べている。
彼の名は紅狐。
俺がこの店で働く前からのスタッフだが俺より年下に見える。
童顔なのも理由なのだろうが全体的な雰囲気が人懐っこく、無垢な少年を連想させているからだろうか。
人間だと思いたいが頭の耳のこともあるので信じがたい。
だが此処には年齢どころかあらゆるものが不詳のフロアチーフがいるのでなんでもありだろう。
紅狐「ん?ふぁふぁふんふぉうひはの?」
タカ「すいません油揚げ食べ終わってからお願いしますというか口にもの入れたままはなさないの!」
狐さんは一度作業に戻りながら油揚げをもごもごと食べ続けていく。
俺は窓ふきを終えテーブルへと向かいコップを並べたりテーブルを拭いたりする。
すると窓ふきを終え、油揚げを食し終わった狐さんがこっちに来た。
紅狐「タカ君さっきはどうしたの?」
タカ「ああ、いやぁ、それがですね…」
尻尾はあるんですか?とは聞く勇気がなくどうしようか焦っていると、
狐さんの耳がビクッと激しく動き狐さんの顔が引きつり始め冷や汗が流れてゆく。
そして狐さんは体が震え、少しずつ後ずさる。
紅狐「あはは…タカ君ごめんね?ちょっと用事思い出したから!」
そしていきなり振り向いてダッシュをする。
急な事象に反応できずに口が開かない俺。
そのまますごい勢いで…あれ?なんか四足で走ってない?
あれ?なんか早いよ!?普通に走るより早いよ!?
ツッコミもできぬまま狐さんはどこかへ消えてしまった。
呆然としていると背後から店長がドタドタと走ってやってきた。
真野「きーーーつねくーーーーーーーーーんっ!!!!!!!!」
タカ「店長、狐さんなら先ほどどこかに行きましたよ?走って。」
もしやするとこのことを察知していたのかも知れな…いや、さすがにそれはないd…
真野「くっ!またもや察知されたのか!」
…狐さんって何者なんだろう。
タカ「ところで店長何持ってるんですか?」
真野「ああ、これはね…」
と、店長が楽しそうに広げたものはメイド服に激しく近いが激しく遠い鎖骨あたりの布がバッサリと斬られている服だった。
真野「新しい試作品作ったから狐君に来てもらいたかったんだけどねぇ…また逃げられちゃったのかぁ…」
少しばかり狐さんに同情をした瞬間だった。
あの後少し暇ができたので店裏の庭に出てみた。
タカ「でっかい樹だなぁ…」
オーナーの話では樹齢が10000と2000あるらしく、最初は二本だったのだとか。
更に言うことにはどうやら人柱となったひと組のカップルが…
ちょっと待て、なんでア●エ×□ンの話が出てくるの?
絶対におかしいと思うんだ!
気を取り直して、木陰でのんびりしようと樹に近づいたところ、
樹の裏側の先に小さな祠を見つけた。
タカ「…何なんだろうかこれは…?」
近づいてみるとそこそこ古いものらしく苔が生えていた。
タカ「御神体は…狐か。」
稲荷神の祠らしく、柱に小さく「豊穣神」とも書かれていた。
タカ「…これでも備えるか。」
ポケットにいつの間にか入っていた黒蜜漬けの油揚げをタッパーごと備えておく。
ついでに500円ほどタッパーの上において柏手を打つ。
作法は違うだろうが気にはしない。
そろそろ仕事が再開するだろうから一度だけ振り返り祠を後にした。
翌日、
いつもみたいに掃除をしていると狐さんがやってきた。
紅狐「タカ君、昨日はありがとね。おいしかったよ。」
タカ「はい…?」
身に覚えがないのであいまいに首を傾げてみたところ、狐さんはクスリと笑った。
紅狐「うーん、なんでもないよ!」
そうして子供のように笑いながら掃除を再開した。
何のことかは分からないがなんだがほほえましくてこっちまで笑ってしまった。
しかし、狐さん尻尾がズボンの裾から出かけてるのに気付いているのだろうか………?