プロローグ~ヒトリガタリ~
桜も散って若葉が芽吹き始めて早一週間。
拝啓父上、母上。
あなた方の息子である私、タカはこの街に来てすでに一か月が過ぎました。
あのときは日本に居たいという思いから駄々をこねさせていただきましたが……
タカ「現在ものすごく後悔しております…と。」
一通り手紙を書き終えてボールペンを机の上に置く。
改めて見渡すと引っ越してきてすぐなのが丸わかりな段ボールの数。
そして必要最低限の家具しか置かれていない質素なリビングだということが分かる。
机の上には学校の教科書をはじめとした教材。
そして自分が働いている喫茶店のメニューとマニュアル。
…これを見るとこの街に来たことを激しく後悔をする。
タカ「お父さんとお母さんにああは言ったんだけどなぁ…」
父「タカ…私たちはお前のことを思って言ってるんだぞ?」
母「そうよ?あなたと離れるのは私たちだってさびしいのよ。わかって頂戴。」
タカ「二人の言いたいことはわかるよ!でも俺は日本で暮らしたいんだ!ここを離れるのは耐えられるけど日本から離れたくない!」
タカ「はぁ……おとなしくついていけばよかったなぁ…」
なんだかんだいって親と離れるのはさびしいものがある。
これまでも親といっしょだったのに急に離れると一気に辛く感じる。
仕事が忙しくてあまり家にいることが少なかったけど、
そんな中でも時間をやりくりしてくれて自分を気遣ってくれてた優しい親なのだ。
だが、
後悔しているのはそれだけではない…
現在自分が努めている喫茶店『異覚混沌』。
店長やら店員やらがカオスすぎて突っ込みが追いつかないのだ。
一か月しかいないのにすでにやめようかとも思っている。
店長が伯父の知り合いでなければ…
しかし…
タカ「伯父って…どんな人だっけなぁ…」
自分には伯父の記憶がない。
幼少期に一度あったきりだからだというのだ。
写真も残っていないことが不思議でたまらない。
タカ「おっと、もうこんな時間なのか…」
時計の針は11時を指していた。
そろそろ寝ないと明日の学校に遅刻してしまう。
布団にもぐって一言つぶやいてから目を閉じた。
タカ「明日もいい日でありますように。」
これは、俺と、俺が働く喫茶店のメンバーでお送りするカオスな日常の物語だ。