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第七話:魔女っ娘さん

 なんとか大人しくなり、マコとムーンも戻って来てくれて――

 また数千人のsadakoと数百人のグラサンを森へ放し、数人のsadakoとグ

ラサンに護衛(ごえい)されながら俺たちは魔王城目指して冒険の道を歩んでいた。


「ねえメロン」


 マコが俺の制服の(すそ)にひっつき、


「何か気配がするんだけど……メロンはそんなこと無い?」


 森に放ったsadakoとグラサンじゃ無いか?

 マコは首を振り、


「だといいんだけど……何か胸騒ぎがするって言うか……」

「正解だぁ!」


 突然俺らの前に銀色の甲冑(かっちゅう)を身につけた騎士が現れた。お? もしかし

て俺らの仲間になる頼りになる騎士様とか?

 銀色の騎士は俺らの方へ剣を向け、


「勇者メロン! 魔王様直々のご命令で、直ちにお前を抹殺する」


 前言撤回だ。敵かよ……

 さっきの赤い(かたまり)が異常に強かったので、人間っぽい見た目の敵が現れて

くれて内心実はホッとした。

 これでまた(おぞ)ましい見た目の怪物やら、グロテスクな見た目のモンスタ

ーなんて現れて、ダンジョンで迷宮をさまようなんて言うのはゲームの世

界でだけにして欲しいからな。


「一騎打ちか。騎士道精神に恥じぬやつだな」


 俺も創聖剣ウォーター・メロンを抜き、決戦準備をしようとしたが――


「貴様の相手は俺では無い」


 銀色の騎士は指をパシンと鳴らし(あの指鳴らし出来る人って格好いい

よなー……俺出来ないから憧れちゃうぜ)

 背後から無数の鎧武者(よろいむしゃ)(こっちは日本風)が大量に現れた。またもや前言

撤回だ。騎士道精神も憧れも格好良さの欠片(かけら)も無い。



「このゾンビ兵達が貴様らの最後の相手だ! 行け、ゾンビ兵よ!」


 銀色の騎士の命令で鎧武者を着たゾンビ(落ち武者って言うのかなこれ)

が一斉にこっちに向かって走ってきた。なんかもう、(すご)く嫌。


「ゾブゥァァ……!」


 何だこの気色悪い声は……見ろよ、ミオなんて顔を青ざめながら耳を(ふさ)

いでいる。


「サバァァァ!」

「オラオラオラオ!」


 だがこっちにだってsadakoとグラサンがいる。今回はしっかり正々堂々

真正面から戦ってこい!

 sadakoとゾンビ兵のつかみ合い。グラサンはゾンビ兵の脳天めがけて弾

丸を撃ち込んでいる。――残念ながらそれで死んだりはしないが、脳組織

が破壊されてるのか、狂ったように周りのゾンビ兵に襲いかかるようにな

るから――かなり役立ってるかも。


「何っ……貴様にも従順(じゅうじゅん)奴隷(どれい)戦士がいたとはな……」

「奴隷じゃねぇ!」


 俺は創聖剣ウォーター・メロンを持ちながら、


「こいつら一人一人にだって人生はあるんだよ。奴隷だとか死んでも良い

道具なんかじゃ決して無ぇ! こいつらは全員、俺の大事な仲間たちだ!」


 少年漫画の主人公っぽいセリフを吐きながら、俺は少しずつ銀色の騎士

との間合いを(せば)めていった。

 銀色の騎士はフッと鼻で笑い、


「よかろう、お互いに(つるぎ)を一つ! 一対一で勝負だ!」




 いいんですか? ええ、俺これで行きますよ? 創聖剣ウォーター・メ

ロン。

 銀色の騎士はさも勝利を確信したような笑みを見せ、


「死ねぇ! 勇者メロン。お前の勇者としての冒険はこれにて終了だ!」


 俺に向かって振り下ろされた鋭利(えいり)な剣。俺はそっと自身の剣にてそれを

受け止める。


「サシュッ……」


 凄く情けない音とともに、銀色の騎士が使う鋭利な剣は――綺麗に真っ

二つに裂け、上半分が酸素下半分が水になり騎士の手から消え去った。


「うぉぉぁぁあ!?」


 騎士は空っぽになった自身の手の中を(のぞ)き、


「世界に二つと無い、我が究極の剣……創世之剣(そうせいのけん)ヤマタノオロツがぁぁぁ

ぁ……あー……」


 よほどショックだったのか、突然顔を赤くしたり青くしたり緑色にした

りして、最終的に真っ白になった騎士はヨロヨロと森の奥へと姿を消した。




「サバァ!」


 指揮官を無くしたゾンビ兵は途端に弱体化し、sadakoとグラサンによっ

て全員バラバラにされ人数だけは壮大(そうだい)だった戦闘は、こちらの圧倒的勝利

によって幕を閉じた。





「さて、ご飯でも食べようか?」


 俺はさっき街で買った果物の残りをかじりながら、三姉妹に(すす)めた。


「ありがとう、お兄さん」


 ミオは嬉しそうにクルミのような物を食べていたが、半分以上食べたと

ころでハッとした様子で警戒(けいかい)体勢に入った。


「お兄さん! 誰かいる」


 俺も即座に迎撃準備(げいげきじゅんび)に入り、辺りを見渡した。――だが、木の葉を()

しめる音も草木をわけるような音も、誰かがこちらへ向かって来ているよ

うな音は一切関知できなかった。


「ムシャムシャ」


 マコとムーンは地面にドサりと座り込み、仲良く果物を食べさせ合って

いた。とても何かが来るようには感じないんだが――


「敵は地上から来るとは限りませんよ?」


 声のする方――いわゆる空って言うのかな? (なな)め上を見ると、黒紫色

のマントを羽織った女の子が空から降ってきた。


「誰だ!」


 俺は即座に創聖剣ウォーター・メロンを向け、攻撃体勢に入ったが。


「えいっ!」


 可愛らしい掛け声とともに、俺の剣は大きな花束へと姿を変えた。


「女の子とお話する時にそんな物騒な物を持っていてはいけませんよ?」


 地面に降り立った少女の姿を見ると、どうやら魔女っ()らしい。マント

と同じ色の、星の付いた可愛らしいとんがり帽子をかぶり、おとぎ話に出

てくる魔女が持っているような木で作られたような先っぽがうずまき状の

(ステッキ)を、これまた可愛らしい小さなお手手で握り締めていた。


「えへへ……♡」


 魔女っ娘さんは照れた時のように、後頭部をかきながら、


「ここは私の家の敷地内なのですよ。勝手に入っては困るのです」


 この娘は魔王の手下では無いのか?

 ミオが俺にしがみつき、


「創聖剣ウォーター・メロンを花束にしてしまうなんて、相当な実力を持

つ魔女さんみたいです。気をつけて戦わないと危険です」


 魔女っ娘さんは「ぷくぅ」と頬を(ふく)らまし、不機嫌そうな顔をした。


「戦うとか何言ってくれちゃってるですか。そっちがその気なら私も全力

であなたたちを排除するですよ」


 俺はミオを見た。


「ミオ、これ以上突っかからなければ何とか戦わなくて済むかもしれない

ぞ。ここは安全第一で行こうじゃ無いか?」


 ミオはキッと魔女っ娘の方を(にら)んだ。これまでに見たことの無い、空間

(ゆが)みそうになるくらい恐ろしい表情で、


「私の存在意義である創聖剣をこんな姿にされて……お兄さんは黙って見

捨てろとでも言うんですか!」


 あ……ヤバい、ミオに変なスイッチが入っちゃった。


「魔女っ娘さん! 私はあなたに戦いを(いど)むわ」


 ミオは胸を張って言うけど、この状況で戦うのは多分俺とグラサンとsa

dakoだろう。はっきり言って申し訳無いが、もし魔女っ娘さんが魔法を使

えなくてもミオに勝ち目は無いだろう。

 魔女っ娘さんは俺よりちょっと小さい――前世の世界で言うと中学生く

らいの容姿をしているからな。



 魔女っ娘さんはクイッと帽子を直し、


「手加減は無しですよ?」


 その言葉を言い終えると同時に、魔女っ娘さんの背後から無数の――


「コウモリか!」


 無数のコウモリがミオに向かって飛んできた。一匹一匹は小さいけど、

前が見えなくなるくらいに、ヤツらはいっぱいいた。


「オラァ!」


 グラサンが一斉に弾丸を撃ち込み、


「サバァァ!」


 sadakoがミオを抱え込み応戦したが、どんどん湧いて出てくるコウモ

リを全て排除するのは不可能に近かった。


「クソっ……このままどこまで増えるんだ……?」


 増え続けるコウモリと、それを次々撃墜(げきつい)させていくsadakoとグラサン。

もしこのまま永遠に増えるとしたら、グラサンが弾切れした瞬間俺らの

敗北が決定してしまう。



 だが、そんな心配は必要無くなった。

 魔女っ娘の繰り出すコウモリの数が減り、少しずつ向こう側が見える

ようになってきた。コウモリの群れは魔術的な何かで出しているらしく、

撃墜されたコウモリは死体となって残ったりせず、地面に落下すると同

時に消滅しているらしい。


「きゃっ……!?」


 魔女っ娘の可愛らしい声が聞こえ、顔を少々赤らめた魔女っ娘の姿が

見えた。

 ここで素朴(そぼく)な疑問が生じた。――あれ? あの娘のマント、首周りま

であったような……


「オラオラァ!」


 次々撃墜されていくコウモリの群れの隙間から見えた、極少数の情報

なので確かなことは言えないが、確かに今細くて白い綺麗な首周りが見

えたような気がした。


「やっ……♡」


 妙に男の子の心をくすぐるような声が聞こえた。何? 勝ち目が無い

からって色仕掛けで対抗してる?


「きゃぁぁっ!」


 コウモリの群れは全てグラサンに撃墜され、視界を覆っていた黒い壁

は綺麗さっぱり消え去った。やれやれ、これでひとまず一件落着――

 とはならなかった。




「きゃぁん!」


 ペタリと地面に座り込んだ魔女っ娘は……何故か何も身につけていな

かった。白く綺麗な素肌が全開になり、華奢な身体をスベスベした細い

腕を精一杯使って隠していた。

 俺は思わず目をそらしながら、素っ裸で座り込む魔女っ娘さんに自ら

の疑問をぶつけた。


「さっきのマントはどうしたんですか!」


 魔女っ娘は縮こまりながら、


「全部コウモリさんに変えてしまったのですぅ……まさか全部撃ち落と

されるなんて思いもしませんもの」


 魔女っ娘が言うには、自分のマントをコウモリの羽で作っており、そ

の一羽一羽を魔術的な何かを使って少しずつ元の姿に戻していた。とい

う。


「でも私の完敗です……もう煮るなり焼くなり好きになさってください!」


 ぱっちりお目目を(うる)ませ、可愛らしく俺の事を見上げた。涙目に上目

遣いとか――高校生男子の俺に耐えられるはずも無く。


「魔女っ娘さん……もういいから俺の剣を元に戻してくれないか?」


 魔女っ娘はチラリと俺の方を見て、


「そのギンギンの熱いやつですか?」


 (ちげ)ぇ! お前はどこを見て言ってるんだ。最初の方で脱下ネタって言

ったじゃないか!


「あの花束にしちゃったやつだよ」


 俺はミオが抱えた大きな花束を指差した。

 魔女っ娘はしばらくボーっと見つめ、「ああ~」と納得した表情を見

せた。


「お安いごようなのです! すぐ直してやるでありますよ!」


 魔女っ娘はそう言って立ち上がり、(つえ)をこっちに向け――


「ぷふぅ……」


 俺の鼻から赤い液体が吹き出した。その格好で立ち上がるとか……


「そんなヘヴンズありえません……」


 俺は魔女っ娘の目の前で情けなくも鼻からの出血多量でブッ倒れてし

まった。

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